Column 2016.06.13

コルシカの赤ワイン品種を考える カステリュ・ディ・バリッチ

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※AOPコルス・サルテーヌ・ルージュ2013年。大樽熟成の古典的な味わい。

 コルス・サルテーヌのフィガリ寄り、アペラシオン南部の中心的エリアであるオルトロ谷にあるドメーヌ、カステリュ・ディ・バリッチ。畑は標高1217メートルのオム・ディ・カーニャ山の麓、南東向き斜面にあり、見るからに優れた立地だ。このような場所を所有しているということは、歴史ある名家に違いないと想像できる。

 実際、名家のようだ。現在のオーナーであるローランス・キリキニさんの親の代には80ヘクタールを所有していたというが、「母親が若くして未亡人となり、ひとりでは手入れのしようもなく、80年代にブドウをすべて引き抜いてしまった」。畑を植え直したのは2000年。現在の面積は12ヘクタールだが、近いうちに15ヘクタールに増えるという。

※当主、ローランス・キリキニさん。実際のワイン造りはこの日は不在だった娘さんが中心となって行われている。

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 ここの特徴は何かと聞くと、「すべての畑が斜面にあること。そしてブドウの仕立てがコルドン・ロワイヤ。コルシカでは古木はゴブレが多いが、それでは夏に畑に入れない。垣根なら光合成効率がいいだけではなく、作業性がよくなり、トラクターを通すことができて、除草剤を使わずに済む。だからオーガニックに転換し、2013年からは認証付きのワインになった」。気候に恵まれたコルシカではナチュラルな栽培をしている生産者が多いが、消費者への責任としてもオーガニック認証を取るのはいいことだと思う。

※コルス・サルテーヌの中心的エリアにあるカステリュ・ディ・パリッチの畑。

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 ヴェルメンティーノの白は砂糖漬けのグレープフルーツの皮や生姜とピーチとスパイスの香りがエキゾティックで興味深い。シャッカレル、グルナッシュ、ニエルチオのロゼはフローラルで伸び伸びした味だがアルコールが目立ち、少々苦味が残る。どちらも花崗岩土壌エリアのコルシカらしく、ゆえに間違った味ではないが、このエリアの常で赤の出来が一番よい。品種はシャッカレル60%、ニエルチオ40%。外に向かう力があり、色は薄めなのに、味には実体感がしっかりと備わり、サルテーヌらしいしっとりとした甘みが広がる。50ヘクトリットルのアリエ産オーク樽で18ヶ月熟成させることで、フルーティさを保ちながらも落ち着いた気品を漂わせる。

 欲を言うならニエルチオの比率が高すぎるように思える。タンニンがきつく、香りにスパイシーな要素が強すぎる。ニエルチオは花崗岩土壌の開放的な性格にブレーキをかける方向に働いているのではないか。そこで樽熟成中のシャッカレルとニエルチオをそれぞれテイスティングしてみると、改めて両者は両極端な個性なのだと理解できる。前者はフローラル&フルーティで、水平的で丸く重心が下で、後者はキメ細かいが強いタンニンがあり、垂直的で四角く重心が上。単一品種ワインとしてならシャッカレルのほうがおいしいし、だからこそ南コルシカではこの品種がメインになっているのだが、それでもブレンドのほうが赤ワインらしい構造があって単一品種よりは優れている。問題は6:4という比率なのだ。自分で7:3程度にシャッカレルの比率を高めたブレンドをグラスの中で造ってみると、案の定両者がぶつかり合うことなく、ニエルチオがシャッカレルをサポートする役に回ってくれる。主役と脇役の役割分担は大事で、花崗岩土壌ならば主役はシャッカレルでなければならない。本当ならシャッカレル7、ニエルチオ2、グルナッシュ1・5、ヴェルメンティーノ0・5ぐらいの比率でもいいのかも知れない。

※上がシャッカレル、下がニエルチオ。随分と色が異なるが、味わいも色から想像する通りの違いがある。シャッカレルがサンソー的ならニエルチオはカベルネ的といえばわかりやすいだろうか。

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 すぐお隣のペロ・ロンゴもそうだが、このワイナリーでも宿泊施設(2部屋)を併設している。ワイン産地でのヴァカンスを予定している方には全島の4割弱が自然公園というコルシカをお勧めしたい。その時には街の喧騒から完全に隔離されていながらアジャクシオやフィガリの空港から近く、景観に恵まれた西海岸にあるサルテーヌは有力な候補となるだろうし、そしてその時にはオーガニックの畑の中での宿泊がいいと思う。<田中克幸>

 

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