ワインは単体で飲んだ時のよしあしを評価するだけでいいのか。多くのワインはある特定の目的のために機能してこそ価値があるのではないのか。この問題意識に立ち、ワインコミュニケイトでは、いつ、どんな気分の時に、どんな料理と一緒に飲むといいワインなのか、という最も重要な情報が一目瞭然と分かるような評価法を採用する。ワインの個性を相補的な一対の言葉で表しており、そのどちらに印がしてある。中間的なタイプは両者の中間に印がしてある。
陰と陽
ワインの性格的な陰陽をあらわす。シリアスなタイプ、ハッピーなタイプ、とも言える。ひとりでじっくりとワインに向き合って飲むときには陰タイプが合うだろうし、皆でわいわいと飲むには陽タイプが合うだろう。料理にも陰タイプと陽タイプがある。
冷と温
ワインの体温的な温度感を表す。飲んで冷たい印象があるか、温かい印象があるか、の違いで、その違いは香りや味の複雑な組み合わせから結果としてもたらされるのだろう。たとえばパセリの香りのアルコールが低く酸の強いワインは冷タイプだろうし、トロピカル風味でアルコールが高く酸がおだやかなワインは温タイプだろう。飲む気分、季節、料理の風味や性質に合わせたい。
柔と固
ワインの内部的質感をあらわす。ふわんとした非固体的なワインか、噛みごたえのある固体的なワインか、の違いである。料理にはハンバーグのように柔らかいものもあれば、赤身肉のステーキのように固いものもある。よい相性のためにはワインと料理の質感を揃えねばならない。
低さと高さ
ワインの味の重心である。口の中で感じるワインの味の中心が下のほうにあるか、上のほうにあるか、をあらわす。豚、根菜、エビ、イカ等海の下のほうに住むものの味の重心は低く、鶏、葉、青魚等海の上のほうに住むものの味の重心は高い。料理とワインの相性の上で重心は絶対的に重要な項目であり、両者の重心が合致しなければならない。
大きさと小ささ
ワインの味の広がりの大きさである。ワインには味が頬の外側まで広がるような大きなものもあり、歯茎の内側にとどまるような小さなものもある。たとえば大船に乗ったような気分になりたい時には大きなワインがよく、手のひらの中で愛でたい気分の時には小さなワインがよいだろう。料理にも大小がある。たとえば一口のポーションが大きく中から肉汁が出てくるようなものは大きく、小さくてドライなものは小さい。料理とワインの大きさを合わせねばよい相性は生まれない。
集中と拡散
ワインの味の口中での密度分布のようすをあらわす。ワインには口の中央に味が集まるもの(集中型)と、口の外縁に味が広がるもの(拡散型)がある。気分に集中と拡散(弛緩というか)があるのは言うまでもないが、料理にも集中型と拡散型がある。ステーキ・焼き鳥等比較的短時間調理の焼き物には集中型のワインを合わせ、生ものやロースト・煮物等長時間調理の料理には拡散型のワインを合わせる。ステーキ屋さんに拡散型のワインは基本的に不要である。
縦(鼻腔)に感じる味わいと横(ほほ)で感じる味わい
ワインの広がり方の方向性をあらわす。上下に伸び、口の中で柱が立っているような気持ちになるワインは縦、ないし垂直的である。左右の広がりのほうが上下より大きい時、ワインは横である。シャッキリとしたい気分の時には縦型ワインがよく、まったりしたい気分の時には横型ワインがよい。料理にも縦型と横型がある。たとえば、グリーンアスパラガスのてんぷらと白子のてんぷらを比較すれば、前者は縦型、後者は横型である。同じ焼肉でもカルビのほうがハラミより縦型である。
★に関して
★(点数)の構成要素にはふたつある。ひとつは絶対的な品質であり、それは余韻の長さや品位やバランスで判断される。つまり、余韻が長いワインのほうが余韻の短いワインより、他がすべて同じなら、点数が高い。もうひとつは主観的な品質であり、つまりは飲んでおいしいというポジティブな気持ちになればなるほど、点数が高い。
3つ★は本誌が強く奨められる秀逸なワイン。
4つ★はその産地、カテゴリーにおいて特筆するべき個性を持っているワイン。
5つ★は日本のマーケット、ひいてはアジア、世界でこういったワインに目を向けていくべき新しい価値観と高い品質を併せ持ち、ストーリーを感じさせてくれるような奥深さを内包しているワイン。
テイスティングコメント
以上の表現方法ではカバーできない重要な味わいの要素について書かれたものである。