コラム 2015.11.28

ワインの栓 Wine Clousures

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ワインの栓は永らく天然コルクに専任されてきましたが、90年代には世界中で代替栓の研究が盛んになりました。これはコルク臭の問題をいわゆる新世界の生産者やワイン業界が看過できなかった事が原因だと考えられ、その後オセアニアを中心にここ15年であっという間に様々な代替栓が採用され、30年前には世界のワイン栓のほぼ100%であった天然コルクの市場シェアは20%以上をスクリュー・キャップや合成コルクによって奪われています。

天然コルク

永くワインの栓を一手に担ってきた天然コルクはいわゆるブショネ(TCAと呼ばれる化学物質などによる汚染。pptレベルでの感知が可能、pptは1兆分の1、ナノグラム/ℓ)が、20〜30本に1本発生すると云われてきましたが、ワインの長期熟成の過程での酸素透過、ワインとコルクとの間で起こるとされる揮発性物質の生成などエイジングの謎の全ては天然コルクによって為されてきました。コルクの品質の程度の差と汚染の問題はあれ、高級ワインの長期保存では最も歴史と信頼性があるクロージャーは依然天然コルクと考える人が多いのではないでしょうか。

合成コルク

90年代前半にアメリカ、オーストラリアのメーカーが開発。プラスティックを原料として、コルクに代わるクロージャーとして2000年前後に注目されましたが、天然コルクよりも酸素透過が多い事、ワインとの接触において天然コルク以上にワインの香味成分を吸収する事が判明したため、現在では保存を目的としたワインにはほとんど採用されていません。

圧搾コルク

圧搾コルクは20世紀初頭に王冠のライナー材として誕生したとされています。それまで天然コルクをライナー材に使用していた際の漏れを改善するべく開発。その後、樹脂にとって代わられますが、100年たった現在あらためてコルクに代わるクロージャー素材として注目されています。圧搾コルクは粒状に加工したコルクを接着剤で再生成した素材で、90年代半ばに登場した「ツイントップ」はコルク粒を再生成した本体の両端を天然コルクでカバーしており、低価格帯ワインを中心に現在世界でもっとも流通していいます。

同時期にフランス、サバテ社による微細圧搾コルク「アルテック」が登場します。これは従来よりも細かなコルク粒を再生成し、外見上美しく仕上げたクロージャーでしたが、コルクを粉末状にする製造工程で元来一部のコルクに含まれていたTCAが広がり、大半のロットに低濃度のTCA汚染が見られたため2000年代前半には姿を消します。その後、臨海二酸化炭素処理というTCA除去技術を採用し、検出限界0.5ppt以下というDIAMコルクが産まれ、現在ブルゴーニュのグランクリュにも採用され始めています。

スクリュー・キャップ

ステルヴァン(ワイン用スクリュー・キャップ)はアルキャン社が60〜70年代から流通していたステルキャップをワイン用に改善した事から21世紀に入って飛躍を見せているクロージャーです。天然コルクの1/5〜1/10程度、0.0002cc〜/日という酸素透過は明らかにボトルに蓋をするという機能では抜きん出ています。また天然コルクのTCA汚染という弱点もほぼクリアしているため(※)、オセアニアを中心に爆発的にシェアを広げています。ではスクリュー・キャップと天然コルクの違いはどこにあるのでしょうか?

オセアニアでは2000年以降、順次スクリュー・キャップを採用するワイナリーが増え、なかにはコルクとスクリューを並行して瓶詰めしているワイナリーがあります。そういった同一ヴィンテージでクロージャー違いのワインを数年経ってテイスティングすると明らかに熟成の進み方、酸化のニュアンスが違います。酸素透過がワインの熟成に与える影響は良くも悪くも発生し、ワインコンテストなどではスクリュー・キャップのワインから還元臭が感じられるとしてネガティブに捉えられる事もあります。またワインを横に寝かせて熟成させる事から、今までの習慣のように愛好家が自家セラーで寝かせる場合、20年を超えるキャップ内の樹脂とワインとの接触による影響はサンプル数が少ないため不透明です。

つまり天然コルクとスクリュー・キャップではコルク臭の他、酸素透過性とワインの液面接触による影響に違いが出ます。過去天然コルクの一手に任されてきたワインの栓ですが、21世紀以降世界中で多様なワインが造られるようになってきました。全体の生産量としては伸びてはいませんが、競争の激化と技術革新によりワイン全体の品質は明らかに向上しています。そのなかで、それぞれのワインに合ったクロージャーの選択がワイナリー、業界全体に求められているのではないかと思います。例えば酸化を嫌う甲州やソーヴィニヨン・ブランにはスクリュー・キャップ。醸造行程で酸化させる事もある赤ワイン、古酒市場を担うワイン。個人的にはオセアニアの秀逸なワインの天然コルクへのゆり戻しは将来の新しい古酒市場を産まれさせるには必要なのではないかと想像しています。

ワインの多様性とクロージャー

個人的な見解では合成コルクは徐々に淘汰されていくでしょう。メリットがその他のクロージャーと比較した際、考えにくいためです。

圧搾コルクに関しては古酒市場がある高級ワインに今後も採用されていく事には疑問がありますが、コストを理由としながらコルクを抜くという動作がワイン消費とは切っても切れない以上、アルテックのような事件が起きない限りシェアを拡げていく事が考えられます。

天然コルクに関して今後、ポルトガルのアモリム社とフランスのウネオ社(旧サバテ社)によるTCA除去を施した天然コルク商品の投入が期待されます。またスクリュー・キャップの酸素透過率の低さは一般の消費者にとってはほぼメリットしかないのも事実だと考えます。

熟成した古酒の市場は現在、概ねブルゴーニュとボルドーにしかありません。けれども世界中で素晴らしいワインが産み出され始めた21世紀、今後は様々なワイン消費がなされていくでしょう。例えば子供の誕生日や両親の誕生日を祝うのに有名なワインではなく、思い出のあるワイナリーや、お気に入りのワイナリーの自分にとって特別なヴィンテージを選ぶことが一般的になるかもしれません。その際、このクロージャー問題はコルク臭の話ではなく、あらためてワインの熟成や古酒市場と共に語られる日が来るのではないでしょうか?それともかつてのように数十年に渡って長期熟成する生命をワインに求めない時代がくるのでしょうか?

※日本では清酒や蒸留酒で樹脂部分のTCA汚染が報告された事例がある

 

 

 

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