コラム 2016.01.24

泡のあるワイン 座談会Vol.5

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ロイヤル・セイシュル・カルテ・ノワール・エクストラ・ドライ2009

田中:スパークリングというとシャンパーニュというかブルゴーニュ品種ばかりが目立つ。伝統的産地と言ってもクレマン・ド・ディーもジュラもアルザスもクレマン・ド・リムーもブルゴーニュ品種が使われる。シャンパーニュを相対化するためには非ブルゴーニュ品種のスパークリングを正当に理解するのが大事だ。というわけで、ローヌ川の上流、オート・サヴォワで造られるトラディショナル製法のスパークリング、セイシュルを持ってきました。品種はアルテッスとモレットです。こういう隠れた地場のスパークリングを知ってもらいたい。以前セイシュルのワインを買おうと思って初めてセイシュルの村に行った時、なかなかワイン屋が見つからないので、パン屋で「セイシュルのワインはどこで売っていますか」と聞いたら、「道の向こうのあの店」と。指先の向こうは、肉屋。入ってみると確かにセイシュルが店内の壁ぎわに並んでいる。ケバさとは無縁の、地元消費に密着したワインですよ。しかしサヴォワのクリュですから、泥臭さは皆無。アルテッスは普通は決してエレガントとは言えないのに、セイシュルは別格的。

宮地:モレットのスティルはあまりないですよね?スティルにすると野暮ったいからスパークリングにしたのですかね?

田中:モレットは野暮ったくないですよ。むしろ繊細ですべすべした質感で、酸もあるしアルコールは上がらないし、素晴らしいスパークリング用品種です。ただボディがない、ケルナーやバフースみたいに。ここらへんも香りが魅力でしょ?料理との相性があまり思いつかないのはボディがないからです。スパークリングにすれば香りの素晴らしさとボディのなさが生きる。

宮地:ブランケット・ド・リムーとか、地場の泡として欠かせない存在です。

田中:ああ、ブランケット・ド・リムー!そうそう、フランス最古のスパークリングワイン産地ですし、そもそもここではアンセストラル法の話をしないといけない。つまり熟した葡萄でアルコールを上げないでスパークリングワインをつくる方法としては、これしかない。通常の二次発酵では泡だけが生じるのではなく、1.5%アルコールが上がってしまう。温暖な産地でシャンパーニュ法を採用すれば、それこそアルコール15%になってしまうか、熟していないブドウを使うしかなくなる。前者のようなワインは誰も欲しくないから、結局後者。だからおいしいワインにはならない。逆に、シャンパーニュは風味は熟すのにアルコールが上がらない特別な産地だという言い方ができる。アンセストラル法の問題はひとつ、瓶内発酵では糖を食切ることができず、残糖が不可避なこと。35グラムの残糖ではやはり甘すぎる。だからドイツ、ファルツのメンガー・クリュッグのシャルドネやソーヴィニヨン・ブランのスパークリングに着目すべきなんです。ここはアンセストラル法を採用して熟してリッチな果実味があるのに、そんなに甘くない。そこは企業秘密の特別な方法があるそうです。

宮地:カギは一次発酵に使う酵母ですかね?死滅せずにずっと働いてくれる培養酵母とかありそうなものですけど。

田中:メンガー・クリュッグがあれほど素晴らしいワインを造れるのだから、皆で研究すればアンセストラル法の可能性がもっと見えてくるのではないか。

八田:リムーだと甘いじゃないですか。マーケットに受け入れられるのかと。

田中:そういうところもあるでしょうが、ブランケット・ド・リムーの本質はそこではないでしょう。ともかく、セイシュル、ブランケット・ド・リムー、クレーレット・ド・ディー、セルドンはシャンパーニュの真似ではないという点で積極的な意味があると思う。

 

宮地:ではクレマン・ダルザスの立ち位置はどう思いますか?もう少し面白いものが出てきても良さそうですけど、ゼクトと比較すると負けてます。

八田:それはスティルワインとの対比で言えることなのでしょうか。やはりアルザスはスティルがプレステージの位置を占めているわけで、スパークリングをつくるインセンティブが低いんじゃないですか?

田中:アルザスでは最上の畑からはクレマンを造りません。低地の沖積土壌のピノ・ブランとシルヴァネルの最上の使い道だとは思います。それを言うならゼクトだってそうですよ、斜面のグロース・ラーゲで造ればどれほどすごいワインになることか。シャルツホフベルガーのゼクトがあるのを知ってますか。ペヒシュタインのゼクトもあります。

八田:おお、かっこいい!

田中:そこらへん経験すると、ゼクトであれクレマン・ダルザスであれ、当然ながらワインの格は畑の優劣で決まるという結論になるのです。シャンパーニュはシャンパーニュしか造らない。最上の畑でスパークリングワインを造る産地がシャンパーニュ、最上の畑では造らない他の産地のスパークリングと同列に比較してはいけない。だからアルザスだってポテンシャルありますよ。バ・ランのグラン・クリュ畑のピノ・ノワールのクレマンとか、おいしそうです。オー・ランの畑によってはアルコール14度のクレマンになってしまいそうで、そうするとアンセストラル法の話に戻ってしまいますが。

宮地:そういう意味ではグラン・クリュ・ゲヴュルツトラミネールの炭酸ガス注入方式とかいいかもしれない。(笑)

田中:いいじゃん、いいじゃん。もしくはアルザスのグラン・クリュ・ブラントにシラーを植えてクレマンを造るとか。(笑)私の飲んでみたいスパークリングはそれと、ソアヴェの標高の高い畑のソーヴィニヨン・ブランのフリザンテですが、皆さんはなんですか。

八田:ソノマのキスラー・ヴィンヤードといったカリフォルニアにも期待したいですが、アルコール度数を考えると、ワシントンやオレゴンから面白いスパークが産まれても良いと思いますよ。

宮地:オーストラリアのイーデン・ヴァレーのリースリング・ゼクト。標高、高いじゃないですか。甲州主体のゲミシュター・サッツの泡。あとさっき言ったゲヴュルツトラミネールの炭酸ガス注入方式の泡をコノスルに造ってもらう。あの値段で出されたら、新しい巨大市場を開拓しかねない(笑)。

泡のあるワイン 座談会Vol.6に続く

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