コラム 2016.01.24

泡のあるワイン 座談会Vol.1

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いろいろな場所と時間でスパークリングワインを飲む機会が増えています。では、スパークリングワインとはいったいなんなのか? 今回の座談会では熱心なシャンパーニュファンである八田隆さんを迎えて、スパークリングの意味を俯瞰的に捉えながら、その多様性や面白さを一緒に考えたいと思います。さて、スパークリングワインのひとつの定義は、開けた時に泡が出るワイン、です。だからスパークリングを考える上で最も根源的な問いは、泡があるとないでは何が違うのか、泡は我々にとって何の意味があるのか、ということです。まずはそのテーマから議論を始めましょう。

さくらワインとさくらスパークリング

田中:これは酵母研究で最先端をいく秋田県ならではの発想のワインで、桜の花から抽出した桜酵母で北東北3県のヤマブドウ系品種を発酵させたものです。桜の香りがする、お花見用の定番中の定番。お勧めです。このワインにはスパークリング版とスティル版があって、基本は同じ。泡があるかないか、の違いだけです。なかなか泡だけを変数として比較できるワインはないので、泡の意味を知るためにはこのふたつは欠かせないサンプルです。

宮地:まず第一に味わいが立ちのぼりますよね。僕の表現では、舌で感じるスティルと、鼻腔で感じるスパークリングという違いです。

田中:そうですよね。さくらのスティルは水平的、スパークリングは垂直的。そして後者のほうが味わいの要素が豊かで、2倍くらいいろいろな味を感じます。

宮地:ヤマブドウ系品種の素朴さに、泡が華やかさを加えています。ヤマブドウに対して華やかという言葉を使うことは少ない。

田中:そこはそう単純だとは思わなくて、確かにヤマブドウは抽出の強い赤ワインにすると野暮ったくなりがちですが、ロゼだと高貴な側面も出てくる。品種そのものは私は野暮ったいとは思わないのです。ともあれスパークリングにするとヤマブドウの高貴な品格という点が増幅されるのは事実です。

八田:泡があるとワインの骨格がよりはっきりする印象です。骨格の要素はミネラルだったり酸だったり色々あると思うのですが。

田中:そうですよね。スティルの場合は苦みや酸味といった要素がバラバラ。けれども泡にすると、まとまりがでてくる。

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八田:スパークリングワインのほうに瓶内熟成の影響はあるのでは?

田中:これは瓶内熟成は関係ないワインですよ。ともかくふたつを飲み比べると、泡があったほうがどんな意味でもいい。すべてのワインで炭酸ガス注入バージョンを作ればいいのにと思う(笑)。

宮地:感覚的には、気の抜けたビールは美味しくないみたいな話でしょうか。

田中:シャンパーニュだって同じ話でしょう。ヴァン・クレールがそんなに美味しいですか?赤はともかく、コトー・シャンプノワ・ブランだって微妙でしょう?シャンパーニュへの泡の貢献は巨大です。さらに言うなら、ワインの炭酸ガス割りはうまいでしょ?

宮地:ヨーロッパだと普通にありますよね、スプリッツアー。飲みやすいのもありますが、味わいのカタチが違ってきますよね。

八田:じゃあ早飲みは総じて炭酸ガス入れた方がよい?

田中:まぁ極端な仮説ですよ。

宮地:マスカットベリーAなんかもロゼの方が印象よいので、泡を加えるもいいかもしれないですね

八田:ボジョーレー・ヌーヴォーとか。

田中:ブルゴーニュにはムスーはあるけど、ボジョレーにはムスーがない。ボジョレー委員会でも議論されているらしいですが、泡バージョンを作るべきです。ガメイ栽培農家の生計がヌーヴォーに依存していてこれから大丈夫なのか。ここ数年でボジョレーロゼが出てきました。戦略的には次はボジョレー・ムスーでしょう。

宮地:それでいくとコトー・ブルギニヨン・ムスーですかね。実際クレマン・ド・ブルゴーニュは南ブルゴーニュのシャルドネなんかも使われているじゃないですか。

田中:リヨン郊外のコト―・デュ・リヨネのエリアではガメイ品種でアンセストラル方式のスパークリングワインが地元消費用に造られています。これがすごくおいしい。ラブレ・ロワが最近発売したガメイのスパークリングも注目すべきでしょう。

宮地:日本だとシャンパーニュがメインで、リーズナブルなのはカヴァという位置づけが固定していますが、この秋田のワインは適切な地場性があって、スパークリングワインを再考する機会になります。

八田:泡が好きな人だとトラディショナル方式ありきみたいなところがあります。炭酸ガス注入を馬鹿にしていると思うんですよ。けれどこうして比較すれば、炭酸ガス注入であれスティルより明らかに優位性がありますよ。

田中:泡が持っている高揚感は否定しがたいわけで、お酒の機能を考えればスパークリングワインの選択肢が沢山あったほうが目的合理的だとも言える。

八田:スティルとスパークリングの価格差はどのくらい?

宮地:400〜500円ほど違いますかね。

田中:値段の差より味の差のほうが大きい。

宮地:日本ではトラディショナル方式の生産体制は大手メーカー以外整っていないので、炭酸ガス注入方式に卑屈にならず、多くの人がどんどんやって欲しい。ヤマブドウやマスカットベリーA。

田中:マスカットやスチューベン、巨峰だっていい。デラウェアの泡だっておいしいではないですか。日本で多く造られていて価格が低いブドウの救済策が泡です。そうすれば日本のブドウ農家のためになる。 

泡のあるワイン 座談会Vol.2に続く

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