コラム 2016.09.02

チリの認証オーガニック ヴェラモンテ

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※ナパでの経験をいかし、フネウスはヴェラモンテを単なる醸造施設ではなく、観光客に広く開かれたワイナリーにした。ワインツーリズムを意識したチリで初めてのワイナリーだという。ヴェラモンテはサンチャゴと海沿いの大都市(チリ議会がある)ヴァルパライソを結ぶ、通行量が最も多い高速道路のすぐ脇にあり、観光客には便利な立地だ。 

  今ではカサブランカ・ヴァレーは主要産地のひとつとして誰もが知る存在。しかしその歴史は浅く、80年代にコンチャ・イ・トロのワインメーカーだったパブロ・モランデが初めて産地の可能性を発見し、自分の畑を切り開いたのが最初だ。世の中に知られるようになったのは90年代に入ってアグスティン・フネウス(60年代のコンチャ・イ・トロの社長、ナパのクインテッサ等のオーナー)がブドウを植えはじめ、96年にヴェラモンテを創業してからだろう。それまでは比較的温暖なマイポ等のカベルネ・ソーヴィニヨンだけが注目され、チリの白ワインの評価は低かったのだが(実際90年代のチリの白はひどかった)、カサブランカのシャルドネとソーヴィニヨンによって、はじめてチリでも国際的に競争可能な白が出来るということが証明されたのだ。
※ワイナリーのテイスティング・ルームから自社畑を臨む。カサブランカ・ヴァレーは花崗岩質の土壌。ワインの柔らかい質感や粘りはいかにも花崗岩。

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 今ではリマリやレイダ等コスタの冷涼産地が次々と登場して話題になっているとはいえ、カサブランカこそがコスタの先駆者。創業間もない頃のカサブランカは何もない自然の中に畑が少しあるだけだったが、今ではどこもかしこも畑で、車で通りがかるといろいろなワイナリーの看板が出ている。チリの変化は早い。

 しかし今日的な視点からすればカサブランカは冷涼とは必ずしも言えない。新興コスタ産地のように海に面しているわけではなく、海岸山脈の中に位置しているからだ。むしろ今では、ほんわかとした果実味とすっきり感が分かりやすい形で調和している、中庸の味こそが今のカサブランカの魅力ではないかと思う。そしてヴェラモンテのカサブランカ産の一連のワイン、つまりソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、メルロはまさにそういう味がする。
※カサブランカ・ヴァレーの地図を前に、「カサブランカはそれほど冷涼ではない」と説明するワインメーカーのソフィア・アラヤさん。

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 例によってポートフォリオは複雑だ。このワイナリーで造るブランドはヴェラモンテだけではなく、他にリトュアル、プリムス、ネイエンがある。ヴェラモンテに関しては先述の品種はカサブランカ産だが、他はコルチャグア。カサブランカ産ワインの上級ブランドがリトュアル、コルチャグア産ワインの上級ブランドがプリムス、プリムスのさらに上にあるアイコンがネイエン。せっかくカサブランカという産地を世界地図の中に定着させたワイナリーなのに、商品のほうが複数産地混在では、カサブランカというテロワールのメッセージが伝わりにくいではないか。
※最近のワイナリーらしく、白ワインの発酵にはオーク、ステンレス、コンクリート・エッグの三つを使用。「コンクリート・エッグはいまひとつ」と言っていたので、「はやりで皆が使うけれど、私はおいしいワインを飲んだことがあまりない。白ワインにはピエス、ドゥミ・ミュイ、ステンレスの3つを使えばいいのではないか」と答えた。理屈はともかく、妙にシンプルでスタティックで暗い味がする。

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 ヴェラモンテはチリにあっては貴重な認証オーガニック(転換中、2016年末に取得予定)だ。2012年からオーガニック栽培に切り替えている。フネウス自身のナパ・ヴァレーのワイナリー(住居でもある)、クインテッサはビオディナミだし、ヴェラモンテの醸造長ロドリゴ・ソトは元ベンジガー(ソノマのビオディナミのワイナリー)の醸造長だったのだから、この流れは彼らにとって自然なことだろう。カサブランカは下手をすると表層的なチャーミングさに傾くが、ヴェラモンテのワインにはオーガニックならではのピュアさ、厚み、酸の伸びが備わっているのがいい。

 カサブランカはチリにおけるシャルドネ最大の産地だが、個人的には赤がよい。今回興味深いと思ったのはメルロだ。シャルドネに対しては冷涼ではないとしても、メルロに対しては明らかにカサブランカは冷涼だ。ピュアなフルーティさが前面に出て、ありがちな泥臭い香りと焦げたタンニンは皆無。このようなメルロはチリでは珍しい。
※上級ライン、リトュアルのピノ・ノワールとプリムスのカベルネ・ソーヴィニヨン。このカベルネはなかなか高級な、すくっと立ち上がる垂直的で緊密な味がする。ユーカリとカシスの香りがいかにもチリの古典的カベルネで、他とはノリが違う。素晴らしいコストパフォーマンスだと思う。聞けばこのワインは買いブドウから造られ、産地はマイポだという。プエンテ・アルトの一連の有名な畑から遠くない場所だと言っていたが、さもありなん。やはりカベルネはマイポ・アンデスがいいのだ。

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