コラム 2016.09.30

注目の冷涼産地レイダの牽引役 ヴェントレーナ

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 最近でこそ誰もがレイダ、レイダと連呼する流行の産地だが、D.O.レイダ・ヴァレーが制定されたのは2001年5月。最も古いヴィーニャ・レイダでさえ創立は1998年、ヴェントレーナ・ブランドのワインを造るヴィーニャ・リトラルが1999年。歴史はことのほか浅い。逆に言うなら、ブドウを植えてすぐにD.Oになるほどの土地であり、十年を経ずしてチリ最上のソーヴィニヨン・ブラン産地との評価を得るテロワールである。

 太平洋から12キロしか離れていない畑からは海が見える。それ以外、そして畑と牧草地以外、何もない。典型的なコスタだ。風は冷たく、強い。海水温は夏でも14度だという寒流が目の前を流れているのだと分かる。だから夏の最高気温は27度にしかならない。レイダ以前の冷涼産地の代表、カサブランカが32度になるのに比べ、なんという低温か。こうした気候だから、もちろん酸がシャープで香りがビビッドなワインになる。年間降水量は300ミリしかなく晴天が続くから、がつんとしたパワー感もある。しかし湿度はチリとしては高く50%に達するため、質感はしっとり。そして花崗岩土壌だから、ふっくらとした開放的なフルーティさもある。ソーヴィニヨン・ブランに期待される特徴と合わせて考えれば、レイダという土地がこの品種にどれほど合致しているのか、想像は容易だろう。
※畑の土壌は、このような花崗岩が風化した砂。一億年前の地質だという。場所によって下までずっと砂のところもあれば、下に粘土がたまっているところもあり、後者のほうが自社ワインになる。

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だからステファノ・ガンドリーニがサンタ・リタのワインメーカーを務めていた時に各地のブドウを仕込んだ末の結論は、「ソーヴィニヨンはレイダがベスト」。この地にほれ込んだ彼は2011年からは経営パートナー兼チーフ・ワインメーカーとなって、彼の卓越したセンスと技術を生かしてレイダ屈指の見事なワインを造りだす。

畑は160ヘクタールあるが、そのうち「下層に粘土がある区画のブドウのみを自社ワインに使用し、半分以上のブドウは他のワイナリーに売る」。悪い質のブドウなどないというが、「粘土があると根が深くまで入り、ミネラリーなワインになる」からだ。またチリではヘクタール当たり12トンといった収量が一般的だが、ここでは6トンに抑えている。収穫かごは12キロでブドウを押しつぶさないようにし、収穫後のブドウはまず6度に冷やされ、ダブル選果台できれいなブドウだけを選んで、この品種としては珍しくも自然酵母で発酵する。チリのソーヴィニヨン・ブランは嘘くさい一面的な香りのものばかりだと思う方は、このヴェントレーナのワインを試して欲しい。
※チーフ・ワインメイカーを務めるステファノ・ガンドリーニ。

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 ソーヴィニヨン・ブランは、Litoral, Ventolera, Cerro Alegreの3種類を造る。2013年ヴィンテージで比較すると、ヘクタール当たりの収量はそれぞれ9トン、6トン、5トン。収穫日はそれぞれ、3月27日から30日、3月26日から4月9日、3月30日から4月6日。つまり高価になるほど味が濃厚、パワフル、温暖になる。

意図は理解するが、個人的には最も安価なLitoralが最もソーヴィニヨン・ブランとレイダのキャラクターを素直に表現していると思う。高価なワインでは香りが重たくなり、この品種に期待したい清涼感とは異なる方向に傾く。本質的なクオリティーは、畑が同じである以上は不変なのであり、価格の差はテロワールの差ではなくスタイルの差で創りだすしかない。それが問題なのだ。私が自分にとって最高だと思うワインをこれらの素材から造るなら、Cerro Alegreを3%、Ventoleraを14%、Litoralを83%ぐらいのブレンドにするだろう。私は基本的に、ひとつのテロワールからひとつの最上のワインというものづくりの姿勢のほうが、軽いのから重いのまでいろいろとありますから好きなものを買っていってくださいといった、どこか真剣みが足りずにすべてが妥協の産物となるような商品構成より、正しいと思っている。

商売上どうしても複数の品目を造りたいなら、もっと極端な差を出すべきだ。たとえばCerro Alegreには貴腐のソーヴィニヨンを数パーセント加えて辛口に仕上げ、さらにはソーヴィニヨン・グリも少量加え、一部大樽発酵、一部バリック発酵とした、よりクリーミーで、ヴァッハウのスマラクトのグリューナーのような方向性の、ガストロノミックなワインにする。Ventoleraは3割ほどのブドウは収穫を早めて軽快さや清涼感を増しつつ、一部はバリック発酵とする(部分的にMLFも可能だろう)ことでボリューム感やパワー感を加える、といったことが考えられる。
※ヴェントレーナのソーヴィニヨン・ブラン3種。左から、Cerro Alegre、Ventolera、Litoral。

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さてソーヴィニヨン・ブランの質は想像通りだとしても、ヴェントレーナで驚かされたのはシラーだ。むしろソーヴィニヨンより気に入った。レイダのような冷涼産地でシラーを造ると、まるで70年代や80年代の偉大な北ローヌのように(それ以前は同時代的経験がないのでわからない)、ぴしっと筋が通って涼しげな香りのエレガントなワインになる。土壌は花崗岩だからますます北ローヌ的で、現在の北ローヌよりも北ローヌ的と言えるぐらいだ。アコンカグア・コスタと並んで、チリの最先端シラー産地としてのレイダに、これから注目すべきである。

そしてガンドリーニらしいユニークな発想で造られたワインが、ピノ・ノワール=シラー。普通このふたつの品種は両極端な個性だと思われがちで、ブレンドされることはまったくない。しかし繊細さや気品やキメ細かさといった点で、高貴品種の中の高貴品種と言うべき両者はそれほど離れてはいない。レイダの場合、ピノ・ノワールがフルーティさや丸みのあるボディ感を、シラーが酸や骨格を与え、ワインはよりコンプリートな味わいになる。誰も試したことがなかったとはいえ、結果を見るならこのブレンドは正しい。珍品として忌避せず、客観的にその品質を評価してもらいたい。

ところで私はピノ・シラー・ブレンドと聞いて、「自分ならシャルドネを2%入れる」と言った。するとガンドリーニは、「まさにこのワインには2%のシャルドネが入っている。誰も気づかないから誰にも言ったことがなかったし、公表もしていないが」。ピノとシラーを結び付けるためには微量のシャルドネが必要だということは常識に近い。それが常識だと思う発想にガンドリーニも立っているというのはうれしい。彼とは気が合うし、彼のワインはやはり自分にフィットする。
※醸造所の一角には、オーナーの趣味であるヴィンテージ・モーターバイクのコレクション。

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