コラム 2016.01.10

【オーストリアのワイナリー】ノイジードラーゼーの若き才能「トマス・レーナー」

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※トマス・レーナー。1985年生まれ。畑もセラーも彼ひとりですべてまかなう。祖母から引き継いだ畑の前で。

トマス・レーナー

 ここ何年か、ノイジードラーゼーを頻繁に訪問している気がする。昔は貴腐ワインで有名だったが、それは個人的にはどうでもよく、いまやオーガニックでおもしろい若手生産者の宝庫。

それに、ノイジードラーゼーの水辺ならではのしっとりした質感と、軽い土壌ならではの抜けがよく明るい果実味の魅力が、最近気に入っているのだ。

 おもしろい若手といえば、ゴルス、メンヒホフ、ノイジードル・アム・ジーといった湖の北東サイドの畑から、これぞまさに最先端オーストリアワインといった鮮やかな個性をまとったワインを造るトマス・レーナーは、その代表選手だろう。

建築系の工業高校に通って内装施工の大工を目指してトマスだが、2000年、15歳の時にこの地にたった2500平方メートルの畑を所有していた母方の祖母が死去。その畑を引き継いだ彼は、平日5日間はウィーンで勉強、週末は畑仕事という日々を送ることになった。2001年が彼の初ヴィンテージだから、彼はまだ30歳と若いのに、芸歴はとても長い。17歳の時には30万ユーロの資金を銀行から借り入れて(どうやってそんなことが!)機械を購入し、耕作や機械収穫の請負事業を興した。「運転免許取得年齢にもなっていないのに!」と言うと、「畑では免許がいらない」。ところが契約していた農家から代金が支払われず21歳の時に会社は倒産。それからワイン造りに専心し、たちどころに成功をおさめる。今では3ヘクタールを所有し、5・5ヘクタールを25年長期賃貸契約で耕す。なかなかワイルドな半生だ。彼が所属する生産者団体の名前がJunge Wilde Winzerだというから、あまりに正当的で笑えるではないか。

 というわけで、彼は正式なワイン教育を受けていない。畑の畝に45種類の草を植えるのも、借りた畑の2メートルの樹高がアルコールを高くしすぎるとして低く仕立てるのも、誰かに聞いたわけではなく、「すべて自分で観察し、テイスティングを重ねて、自身で考え出したもの」だ。

だから醸造もイレギュラーで、例えばツヴァイゲルト2014年の収穫は周囲より2週間遅く、発酵はプラスチック箱を用い、キュヴェゾンは9週間もの長きに及んだ。しかし彼のワインの味は珍奇でもなんでもない。すべてのワインがそうだとはさすがに言わないが、成功した時は少なくとも、むしろかくあるべしという確たる存在感を漂わせ、スリリングであると同時に、年に似合わないほどの安定感がある。つまりは、天才ということだ。

※ゴルスにある小さなセラー。ラップがかけてある四角いプラスチック箱でブドウが発酵している

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 ノイジードラーゼーだからツヴァイゲルトとブラウフレンキッシュが素晴らしいのは当然だとして、ここで注目すべき大傑作はシャルドネとソーヴィニヨン・ブラン。特に後者の2014年のバレルサンプルには腰を抜かした。ヘクタールあたり17ヘクトリットルという超低収量(法定最大収量は100ヘクトリットルだというのに!)とオーガニック栽培により、温暖なノイジードラーゼーならではの豊かな果実味を驚異的なミネラル感が支え、オーストリア全土の中でも最高レベルの品質。瓶詰めされた実際のワインがどうなるか、楽しみのような、心配のような、だ。

ところでノイジードラーゼーでは他のワイナリーもおしなべてソーヴィニヨン・ブランがいい。水辺で砂礫質土壌なのだから基本条件は降水量の少なさ以外はボルドーと同じで、だからこの品種が成功するのも理解できる。オーストリアのソーヴィニヨン・ブランといえばズュートシュタイヤーマルクが有名だが、ポテンシャル的にはここも外せない。<田中克幸>

※「200万年前の氷河期の砂利」が覆う、ノイジードラーゼーに典型的な土壌の畑。

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ウィーン、音楽の街で奏でられる葡萄「ペーター・ウーラー」に続く

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