コラム 2016.01.10

ワインを巡る旅〜オーストリア編〜

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 好きな人は好き、嫌いな人は嫌い、、、らしい。

ま、いいではないか、それで。十数年前はその存在さえ知られていなかったものが、いまではワインファンなら誰でも名前は少なくとも知っている。

大進歩だ。オーストリアのワイン生産量は世界17位とそこそこ重要なワイン産出国ではあるというものの、一位フランスの5・6%(2013年)。

輸出するには足るが、もとよりメジャーになるほどの量はない。抽象的な万人に媚びてアイデンティティが曖昧になるより、好き嫌いがはっきりした存在であったほうがいい。

オーストリアワインの何がいいのかを自覚して飲んで欲しい。好きな人には深く好きになって欲しい。その魅力を、その多様性を、しっかりと理解して欲しい。その上で、好きになる人がだんだんと増えて欲しい。

そうすれば、津々浦々のワインショップやレストランがどこであれ最低1本は置くような、特別で代替不可能な存在になる。

 機械的に機能的・能力的側面にのみが注目され、それのみで評価されるなら、それは永遠に代替可能な存在である。それはワインの購入であれ、人間の雇用であれ、同じだ。

会社組織は職能の体系であって、全人格的個人の集合ではなく、ゆえに人間は代替可能的存在となる。あるワインが、例えばリースリングであるということで選択されているなら、そのワインでなければいけない必然性は希薄であり、他のリースリングでもいっこうに構わないのだ。

しかしあるワインが、そのものとして必要とされているなら、リースリングだろうがなんだろうが、代替物はない。ある個人のある能力のみを愛することはできない。愛することのできる対象は全人的な個人でしかないようなものである。

 では、オーストリアワインでしか得られないものは何か。そこでまず有効な視点となるのが、オーストリア固有品種であろう。最も代表的なものは、白ブドウとしてグリューナー・ヴェルトリーナー、ウェルシュリースリングであり、黒ブドウとしてツヴァイゲルト、ザンクト・ラウレント、ブラウフレンキッシュ、そして、これは品種名ではないが、複数品種の混植混醸ゲミシュター・サッツである。オーストリアワイン初心者は、まずはこれらの名前を憶えて欲しい。

 しかし品種はワインのひとつの手段でしかない。結果としてどのような味わいか得られるのか、さらに言うならその味わいがもたらす心的性質がどのようなものであるか、という問いが重要になってくる。そのすべてを網羅するのは不可能だが、それでも限られた個人的経験から「オーストリアらしさ」を言うなら、

  • 過剰性のダサさを知らしめるスタイリッシュで無駄のない味わいの構成。
  • 軽快なリズム感と流麗なメロディー感(まさにウィーナー・ワルツやポルカ的!)。
  • 直接的な体温や汗を感じさせない、べたつかない絶妙な距離感。
  • 外向的な明快さとその裏にある一筋縄ではいかない陰影がもたらす多面性と奥行き感。
  • 食中酒としての不文律を無意識的に遵守する、料理への親和性。
  • テロワールの力を透明に伝達する自然体の自然さ。
  • 前文と一見矛盾するのに実際は両立する、都会的な洗練つまり真の「文化」性。

以上の総合的な表現である。

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 昨年晩秋に訪れたオーストリアでは、このような性質がとりわけ分かりやすい形で理解でき、なおかつ価格的にも魅力的なワインを造り出す、以前から知っている生産者を訪問した。

彼らのワインはすべて、引きの美学を備えている。決して押しつけがましくなく、決してわざとらしくなく、ゆえにオーストリアワインとは無縁のメンタリティの人には単に物足りないワインと映るだろう。彼らは自ら探そうとせず、向こうから大声で叫ばれることだけを聞くからである。

また彼らは有の虚像におぼれて無の充実を知らず、偶像崇拝と真善美なるものへの崇敬を混同しているからである。

私はワインにおける粗も野も評価するが、卑への誘惑は遠ざけたい。卑とは自己存在に対する真摯な問いとそれがもたらす自立的な矜持がないことであり、他者の価値観の中で、それへの反発を原動力として生きる(それは楽なのだ)ということである。それはオーストリアワインの本来的な世界から最も遠い。

卑なる人がその世界を卑なる価値観で蹂躙することは、卑ならざる読者諸兄の品格の毀損と精神的サンクチュアリの喪失につながるがゆえに、私は文頭で言いたかったのだ、そして過去ずっと同じことを言ってきたのだ、好きでもない人は飲まずともよい、愛なき人は近づいてはならない、と。<田中克幸>

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