コラム 2016.05.11

ワインを巡る旅~ブルゴーニュ編~

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フランス

 先日デパートのワイン売場で新しいドメーヌのアリゴテとACブルゴーニュを試飲販売しているのを見かけた。なかなかおいしいワインだった。しかし値段を見て驚いた。5ケタだ。ブルゴーニュはもはや手の届かないワインになってしまった、と、改めて思った。

 値段に関してはそう単純に安い高いと言えないことは承知している。生産枚数の少ない年の10円玉を入手しようと思ったら何百円もする。なぜ10円が何百円もするのか、コインに興味のない人には理解に苦しむ。10円は10円だろう、と。趣味的対象としてのワインもまた、いくらが適切なのかは、その当該ワインが対象とする消費者が決めることであって、対象外である私のような第三者が口をはさむことではない。

 とはいえ、ものには限度がある。例えばムニュが4000円のフランス料理店でワイン一本1万円ではバランスが悪いというのは誰もが分かることだ。そのようなワインがオンリストされてあってもあまり売れない。多くのブルゴーニュはそういうバランスの悪い価格のワインになってしまった。村名で1万、一級で2万、特級で5万、というのはざらだ。ある輸入元は「高いワインから先に売れる」と言っていたので、きっとブルゴーニュ・ファンの多くは富裕層なのだろうが、そして今やブルゴーニュはその販売動向が示す通りの典型的な地位表示記号的奢侈品なのだろうが、それでは市場は狭まるばかりだし(奢侈品ならむしろ狭まって欲しいと思っている人が多いだろう)、新しい人たちは入ってこない。このまま価格高騰が続けば、近い将来、ブルゴーニュは世の中の多くのワインファンにとって、あってもなくてもどうでもいいような疎遠な存在になってしまう。そうすれば奢侈品としての命脈も尽きる。多くの人が価値を認識しているが買えないという状況を維持するからこそ地位表示記号になるのであって、ごく一部の人しか価値を認識していないもの(珍しい恐竜の骨とか)なら何千万円しようが意味は希薄だ。

 今回のブルゴーニュ取材で念頭にあったのは、ブルゴーニュワインが現実的なワイン、つまり飲んでおいしい一般的消費物のカテゴリーから離脱しつつあるという問題意識だ。しかし「安くておいしいブルゴーニュ」を探しに行ったのではない。お買い得な産地というなら、ペルナン・ヴェルジュレスであれサン・トーバンであれ、いやそれ以上にオート・コートやヨンヌ方面であれ、いろいろあるだろう。いずれそういった産地の紹介もしていきたい。今回はむしろ「おいしいとしても高すぎるブルゴーニュ」というテーマについてのいくつかの考察をしに行ったというほうが正しい。以下のドメーヌ取材記事はそういった視点から読んで欲しい。

 もうひとつのテーマは、2014年ヴィンテージの試飲だ。既に1年前の時点で多くの人が2014年のブルゴーニュは特に白ワインにとって傑出した年だと言っていた。私も他の国の2014年の白ワイン(ドイツやオーストリアやイタリアやアルザス)を飲んできて、同じ意見だった。だから白ワインの代表産地であるムルソー等を訪問しようと思った。

2014年の気温グラフを見ると8月より7月、7月より6月のほうが高温のピークが大きい不思議な年で、つまり夏が涼しく、雨の日が多く、日照が少なく、ゆえにワインの味はしなやかで透明で「果皮感」がない。秋には天候が回復したので青臭くはないが、譬えるならドイツのリースリング的な性質。実体感・ボディ感といった物質性より抽象的な気配感が強烈な、ワインがこちらに向かってくるというより飲み手がワインに引き込まれるような、そして魂を浄化してくれるような、ワインに精神性を求める人にとっては理想に近い味。そのような冷涼味が好きなら、2014年は空前のヴィンテージである。<田中克幸>

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