コラム 2016.08.29

テロワールのポテンシャル タラパカ

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※タラパカの伝統的なワイナリー建築。タラパカはサンチャゴから近いこともあって、ワインツーリズムの目的地として人気があり、ホテルも併設しているし、結婚式等のイベントにも利用される。創業は1874年。当時はヴィーニャ・デ・ロハスという名前だったが、1892年にワイナリーを買収したマニュエル・ザヴァラ=メレンデスがヴィーニャ・タラパカに改名。タラパカとは、1883年にペルーからチリが戦争の結果獲得した州の名前。2008年にVSPTグループの一員になる。


 マイポ・エントレ・コルディヘラスに含まれる小地区イスラ・デ・マイポのワイナリー。畑は1500万年前にできた盆地とその周囲の斜面にあり、マイポ川と山に囲まれて外界から隔離された形になっている。彼らが「自然のクロ」だというのも分かる。実はサンチャゴから50キロぐらいしか離れておらず、すぐ近くに町もあるのだが、いったい自分はどこにいるのだろうとふと思ってしまう静けさだ。

畑の後ろ側の山は標高1326メートルもあり、畑の標高は最高地点で600メートルと高い。盆地とはいえ、午前にはアンデスから、午後には太平洋から涼風が吹き込み、決して暑い場所ではないそうだ。土壌は基本的に花崗岩質砂質(畑の周囲の山は花崗岩でできている)であり、そこにアンデス山脈からの安山岩も混じるという。そして盆地部分は厚い沖積土になっている。だからひとつの連続した畑でありながら、多様な品種をうまく栽培することができる。もちろんカベルネ・ソーヴィニヨンは砂質、メルロやカルメネールは粘土質の区画に植える。

タラパカのワインは種類が多く、相変わらずわかりにくい。ピラミッドの下から、ヴァラエタル、レゼルヴァ、テロワール、グラン・レゼルヴァがあり、次にグラン・リゼルヴァ・エチケッタ・ネグラとエティケッタ・アズールがあり、アイコンとしてタラパカイがあり、オーガニックワインであるプラスがプレミアムの中に別カテゴリーとしてあり、さらにスパークリングがある、という形だ。同じカベルネ・ソーヴィニヨンで比較すると、ヴァラエタルとエチケッタ・ネグラのあいだには4倍ほどの値段の開きがあるが、畑のポテンシャルにそう差はないように見える。何が違うのかといえば、まず収量で、安いワインはヘクタール当たり16トン、高いワインは6トン。そして機械収穫なのか、人力なのか。機械だと12時間で8ヘクタールを収穫できるが、人手に頼ると20人が8時間費やして3ヘクタールがせいぜいだという。他にも高いワインには高価な樽を使用するといった違いを考えると、4倍の差は順当なのだと思った。

畑を見て回ると、ところどころ穴が開いていて根の張りや灌漑水浸透パターンを観察することができる。砂質ローム土壌のカベルネ・ソーヴィニヨンの区画における灌漑量を聞くと、一週間に一株あたり2・1リットルから2・3リットル、時間にして一週間に6時間だという。古木は自根だが、最近植えたブドウは接ぎ木。しかし「フィロキセラが理由ではなく、ネマトード対策。自根は表皮が柔らかくて虫が食べやすいのに比べて、台木は固くて食べられない」。この理由はあまり聞かない。
※カベルネ・ソーヴィニヨンの畑に開けられたピットを覗く。

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タラパカのワインは、濃くて甘くてフルーティで樽が効いたチリワインを望む人にはぴったりだ。最近ではこういうスタイルはあまり見かけないのでむしろ懐かしく思った。涼しいと言ってもマイポ・エントレ・コルディヘラスのリッチな味だし、近くに川があるからしっとり。興味深い点はある種の静けさであり、これは「クロ」らしいと言うべきか。最も成功しているワインは、グラン・レゼルヴァのカルメネール。土地の個性と造りのスタイルを考えてもそれは順当な結果だと言うべきで、若干シンプルだがとろみと太さがあり、しかし適度なハーブとピーマン香もあり、いかにもカルメネール。あまりいじくりまわさないストレートな味が往年のチリワインらしくて楽しめる。カベルネ・ソーヴィニヨンも同じくボリューム感があり、甘い味だが、香りがジャミーで酸もフレッシュさに欠ける。しかしこういった風味を好む人はけっこういるだろう。カベルネ・ソーヴィニヨンのスペシャル・キュヴェであるエチケッタ・ネグラは樽が強すぎるし、香りがスパイシーでタンニンが粗く、味がつぶれている。それが涼しかった2013年ヴィンテージでの印象なのだから、イスラ・デ・マイポはカベルネには暑すぎるのではないか。とはいえ自分以外はそう思わないみたいだから、無視してもらってかまわない。
※グラン・レゼルヴァ・カルメネール。カルメネール97%、シラー3%。機械収穫70%。収量は12t/ha。アメリカン・オークのバリック60%(うち19%新樽)とフレンチ・オークのバリック40%で1年熟成。

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それでも私はタラパカのテロワールのポテンシャルはもっと上だと思っている。たぶんこれだけ乾燥している土地では収量6トンですら多いのかも知れないし、除草剤はやめるべきだ。「クロ」という利点を生かすべきだし、既にオーガニックのタラパカ・プラスで実験済みだし、高級ラインはすべてオーガニックにすればいいと思う。そして品種は、この畑でこそサンソー、カリニャン、グルナッシュ、ムールヴェードル、クレーレット混醸の出番ではないのか。チリ=カベルネ・ソーヴィニヨンという固定観念から抜け出さないと、もったいない。
※チーフ・ワインメーカーのセバスチャン・ルイス・ハーニョ。

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ソーヴィニヨン・ブランの商品設計について、チーフワインメーカーとおもしろい議論をした。赤ワインはベーシック、ミドルレンジ、プレミアムの味の差をつけやすいし、それぞれどうやればいいのかはほぼ自明だ。白もシャルドネならまだわかりやすい。しかしソーヴィニヨン・ブランは、シャルドネのように、より成熟度を高め、凝縮度を高め、樽熟成すれば、本当に高級な味になるのか。彼らのソーヴィニヨン・ブラン・レゼルヴァよりグラン・レゼルヴァが優れているとは一概に言えないのは、世の中の人がこの品種に期待する個性であるさわやかなハーブの香りや抜けのよさが、より熟度が高く濃厚な後者では阻害されてしまっているからだ。つまり、すっきりした香りを保ちつつ、より複雑な味とリッチな質感を加えるにはどうしたらよいか、というのが解決すべき課題だ。たぶん2016年ヴィンテージには私のアイデアが加わっているはず。完成が楽しみだ。

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