コラム 2016.08.16

トレンティーノ=アルトアディジェという産地を考える座談会

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トレンティーノ=アルトアディジェという産地のワインにはどんなイメージがありますか?イタリア最北の白ワインの産地?ドイツのブドウ品種が多い?なんだかイタリアワインのようで、あまりイタリアンレストランでも見かけない。そんなトレンティーノ=アルトアディジェについて意見を交わすべく、ワイン評論家田中克幸氏と連れ立って阿部誠治さんがご主人を務めるイタリアワイン専門店に伺ってきました。

まずはお店とご主人のご紹介

*イタリアワイン阿部*

京王井の頭線「井の頭公園駅」徒歩30秒 16:00(土曜は12:00)~23:30 OPEN 日曜日第2月曜日定休

ご主人の阿部誠治さんはフォーシーズンズホテルでキャリアをスタート、数々の有名店のシェフソムリエを経て「イタリアワイン阿部」を開店。コンクールでの入賞歴や、ワインリストでの数々の受賞歴があるイタリアワインのプロフェッショナル。特にイタリア最大のワイン博「vinitaly」の国際コンクールでの最優秀ワインリスト賞の受賞はイタリアワインへの愛情の深さがうかがえます。

お店はワインショップを兼ね備えたサロンスタイルのワインバーという充実のつくり。イタリアワイン好きでなくても、阿部ワールドの独特の世界観を楽しめます。

お店のホームページはコチラ かなり個性的なお店ですが、物腰は柔らか、接客はプロ中のプロ。是非一度足を運んでみることをオススメします。
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トレンティーノ=アルトアディジェ座談会

まずは白ワインから、、、
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モスカート・ジャッロ2012/アロイス・ラゲデール

阿部誠治さん(以下A):アルトアディジェのワインって、フランスワインに詳しい人から見ると中途半端な印象になるのでしょうか?美味しいけれどイマイチすすめても響かない方もいらっしゃる。ドイツっぽい、イタリアらしくないというイメージがあるのでしょうか。

 

田中克幸さん(以下T):私はいろんなポジションで話ができるけど、オーストリアの立場から話をしようと思っています(※田中さんはオーストリアワイン本の著者です)。アルトアディジェはズュートチロル(南チロル)、僕はオーストリアだと思っていますから。オーストリアワインだと思えばまさにオーストリア的な味がします。

楚々とした感じ、やりすぎない、生真面目な味はゲルマン的。イタリアっていう国ができたのだって最近の話で、それぞれの州ごとにそれぞれの成り立ちがあるわけですよ。

 

A:現在はEUができて文化圏としての”チロル”が存在するという見方もできますね。

 

T:色んな文化的背景を遠く離れた日本に住む私たちが想像するというのもワインの楽しみ方のひとつなんじゃないかという話をしたいですね。

 

M:そのなかではアルトアディジェはイタリアワインの世界の中でも独特の文化圏ですよね。

 

A:僕も北の白ワイン産地のつもりではじめて現地に行ったときに驚いたのは、赤ワインのプレゼンがすごかったこと。今にして思えばオーストリアの南端として捉えればそれは当たり前のことなのかもしれないけど。

公用語も使い分けていますよね、日本にいるとカンティーナ・テルラーノっていうけど、現地ではケラーライ・テルラン。

国境を行ったり来たりしている人たちだから如才ないというか、ある意味イタリアとして捉えきれないところもありますよね。

 

T:私はアルトアディジェのワインを日本のイタリア料理店で楽しむべきかもわからないんですよ。

日本のイタリア料理店って南イタリアの料理、ピザとパスタが主流で、この産地のワインが合うかっていったら難しいと思います。

 

A:このモスカート・ジャッロは郷土料理というとバター、白ワイン、ハーブを使ったものはイメージできますが、むしろクリエイティブなリストランテの料理のほうが合わせやすいように思います。

 

T:そうなんです。日本で何故イタリア料理店に行くのかというと、イタリアを求めていくケースが多いと思うんです。このモスカート・ジャッロも華やかな香りが印象的だけれども繊細で優しい、素朴な味わい。クリエイティブな料理に合わせられますが、そういったお店で提供されているのはブランド的なイタリアワインが中心になります。

 

A:リストランテは贅沢をしに行く側面がありますからね。そういう意味ではアルトアディジェは分が悪い。ハイブランドをつくるという意識が感じられませんからね。

 

T:そこがこの産地の素晴らしさですよ。世界で最も協同組合が機能している所以です。トスカーナはハイブランド、上のワインをつくる手法を取るけれども、アルトアディジェはエントリー・レベル、入り口のワインのレベルを上げています。

 

私宮地(以下M):協同組合そのものも、他の産地と色合いが違うように感じます。良質のブドウを造る栽培農家は評価され、醸造チームが良いワインを造る、というように責任の所在が明らかになっているように感じます。

 

A:大きいレストランの前菜のシェフ、メインのシェフという分業のイメージに近いですね。ただブドウを集めてつくる安かろう、悪かろうではない。ミュラートゥルガウとピノ・ノワールどちらが優れているかの議論のない産地ですよね。

 

T:そうなんですよ。本当に民主的なワイン産地だと思うし、私もそこが好きなんですよ。純粋に味わいに接することができる珍しい産地です。

 

M:2千を数える品種のなかで好みのワインを見つけることもイタリアワインの難しさのひとつなので、アルトアディジェの品種の明記されたエチケットはイメージと味わいに接しやすいかもしれませんね。

 

A:さきほどのクリエイティブということでいえば、このモスカート・ジャッロはショウガや海苔、大葉なんて和の食材とも相性良さそうですね。家庭で和の食材と合わせることを考えると、拡がりのあるワインですね。

 

M:ワインの仕事をしているとモスカート・ジャッロって売りにくいという先入観があるのですが、試飲販売などでワインに馴染みのない人に飲んでもらうと真っ先に美味しいといってもらえるのがこの品種だったりします。香りの華やかさが素晴らしいですからね。

T:先日インド料理とモスカート・ジャッロのワイン会を開催しましたよ。大好評。ハーブやスパイスを使った料理とも相性が良いです。華やかな香りと料理の香りを合わせるマリアージュは日本では活躍の場が多いように思う。

 

M:この産地のワインにしては珍しく明るい印象のワインですね。

T:もともとは中近東系の遺伝子を持っているからね。

さぁ次はミュラー・トゥルガウ、僕はこのワインを本当にオススメしたい。すっきり、さっぱりっていうシンプルなフレーズで一番に思いつくのはミュラートゥルガウだよ。

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ミュラートゥルガウ2014/ケットマイヤー 

M:田中さん、ドイツワインやオーストリアワインの振興も業務の範囲だと思いますが、ミュラートゥルガウって売りにくくないですか?

 

T:なかなか難しい。リースリング絶対主義のなかではミュラートゥルガウは収量を増やした大衆向けの品種だと思われているから。けれど、アルトアディジェは収量の増えるような平地にはリンゴが植えられているから、収量は必要以上に増えません。最近はドイツでも見直されてきましたが、アルトアディジェは斜面に植えるとこんなに良いワインになるんだという好例だと思います。

 

M:ドイツではフランケンがそうかもしれませんが、ミュラートゥルガウを大切にしている数少ない産地かもしれませんね。爽やかで親しみやすい、素直に美味しいと思えるワインです。

 

T:リースリングとの違いはミネラルが固くなく、舌触りがスムース。すっきりと柔らかい。ドイツの人たちがリースリングをデイリーではなく、ミュラートゥルガウをデイリーに飲むのは意味があると思うんですよ。安いからだけじゃなくて。より毎日飲んで飽きない味なのです。

 

A:イタリアはワインを食中酒として考えている中で、脱力した合わせ方っていうのがあると思います。むしろエキス分強くて、大上段に構えたワインを料理に合わせないじゃないですか。そういった意味ではイタリア的文脈からも料理とミュラートゥルガウが考えやすいですね。

 

M:田中さんはオーストリアワインのガイドブックなど出版されていて、少しづつ広めていくなかで、グリューナー・ヴェルトリーナーというシンボリックなワインがあったわけです。一時、お客様に「ワインショップに並んでいるグリューナーはハズレがない」とオススメしていたこともあります。

 

A:以前働いていたホテルでもリーズナブルな○○ヤーホフを凶悪な原価率で販売していたレストランがありましたが、好評だったと聞いています。

 

T:グリューナーは香りにインパクトがあるし、グラ(粘性)もある。そういった要素は収量を増やしても失われない傾向はあるよね。本来デイリーワイン品種ではないんです。

なんでグリューナーの話になるのさ?
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 M:アルトアディジェでも入口になる品種としてミュラートゥルガウは可能性あると思います。今日は用意していませんがピノ・ビアンコなども。

 

A:ピノ・ビアンコもこの産地良いですが、ブルゴーニュ品種ということもあり、価格優位性はミュラートゥルガウにありますね。

 

T:そうですね。価格を見てもリーズナブルで美味しいワインをアルトアディジェで考えるとミュラートゥルガウが素晴らしいですね。普段の生活のなかにワインがある光景を想像すると、適度に力が抜けているこの品種はいいですね。

 

M:それでは白ワインの最後にリースリングです。リースリングは90年代まではアルトアディジェではそれほど栽培されていませんでしたが、最近多くの生産者がリリースしています。こういった動きはアルトアディジェ全体の品質の向上と符合しているのではないでしょうか。

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リースリング”ピツォン”2014/ナルス・マルグライド

 

T:そうかもしれないけど、リースリングの緊張感が南チロルに合っているかというと疑問だな。イタリアワインではいわゆるリースリングはちょっと暗い印象のワインに感じてしまう。

 

A:リースリング・イタリコの曖昧さに比べると、ずいぶん硬質な印象ですよね。

 

T:そもそもリースリングは食事に合わせづらい。アルトアディジェはわかりやすさが良さだと思うので、リースリングの観賞用ワイン的側面はわかる人だけのものでいいかな。

 

A:俯瞰したとき、ミュラーよりもリースリングの方がベンチマークになりやすいでしょうね。競合は多いかもしれませんが、シャルドネよりもこの産地を表現する可能性はあるのかもしれない。 

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ザンクト・マグダレーナー・クラシコ2013/ケラーライ・グリエス

 

T:良いですね~。この優しい品の良い枯葉のようなニュアンス。秋の食材を連想させてくれるね。

Mザンクト・マグダレーナーはヴェルナッチに少量のラグレインをブレンド。この品種のワインも以前より美味しくなっていますが、少し青いタンニンが気になるワインということもあって輸入量は控えめですね。

 

T:エリアによってタンニンの気にならない柔らかなタイプも多いんだけれど。いずれにせよ、これほど滋味を感じさせる柔らかな印象の赤ワインというのは他にない個性だと思います。

 

A:確かにしみじみという印象の赤ワインはイタリアには少ないですね。

 

M:田中さんがいうイタリアンの元気いっぱいという印象ではなく、日本の家庭料理でも合わせられるワインかもしれませんね。どこかツヴァイゲルトとも味の方向性が似ていますよね。

 

T:そうだね。オーストリア時代にはオーストリアを代表する赤ワインはザンクト・マグダレーナーだったというのもうなずける。実際現地でも日常に飲むものだから一番栽培されているんですよ。余韻も漂うように優しく長い。僕はこのワインのファンだからいくらでも褒められるよ。

 

A:ウチはバーですから、こういった地域に根差しているようなワインというのは産地を想像して楽しんでもらいやすいですよ。トリップ疑似体験ということでは生ハムとこのワインなんていうのはアルトアディジェらしさも併せて感じてもらいやすいですね。ザンクト・マグダレーナーの良さっていうのは理屈っぽくない、親近感のようなところにあるのでしょうね。 

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ラグレイン・レゼルヴァ”グリエス”2013/ナルス・マルグライド

M:では次はアルトアディジェもうひとつの地場品種ラグレインです。

 

T:(ひと口飲んで)これオーストリアワインだよ。ブラウフレンキッシュとツヴァイゲルトの関係にラグレインとヴェルナッチは似ているね。以前はタンニンにえぐみがあったけれど、地球温暖化の影響なのか、タンニンも熟していてスムース、もともと酸もしっかりしているから素晴らしい仕上がりになっている。品種としてもっと注目されていいワインですよ。

 

A:以前はヨゼフ・マイヤーのようにアマローネ的に糖度をあげて帳尻を合わせていたワインもありましたが、ここ10年でもっと良いブドウが取れるようになって色々な表現ができるようになってきたということですね。

 

M:ブラウフレンキッシュは一部でヨーロッパの有名レストランにオンリストされたりとマーケティングが成功している印象ですがラグレインはまだまだ無名です。

 

T:ブドウが良くなったのと、赤ワインの造りが向上しているのもオーストリアと並べて語れる。余韻も長いし、素晴らしいワインだと思う。そしてアルトアディジェらしさなんだけれども、スケールは大きいのに威圧感がなく、優しい。上から目線ではなく、寄り添ってきてくれるような包容力を感じるよ。

 

A:先ほどインド料理の話がありましたが、このワインの(シラー的な)スパイシーさは他のどんな赤ワインと比べても活躍の場がありそうですよ。もちろんシンプルに火を入れた牛肉、あと鴨なんかでもこの(ピノ・ノワール的な)甘酸っぱさとスパイス感がアクセントとして心地よく感じられると思う。 

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テロルデゴ・ロタリアーノ・レゼルヴァ2007/メッツァコロナ

 

T:これは僕が持ってきたテロルデゴの2007年。熟成したトレンティーノをこうやって飲むと、ピノ・ノワールのような酸が出てくる。若いうちはカベルネ・ソーヴィニヨン的なワインかと思うんだけれど本質はそうじゃない。

 

M:先ほどまでのアルトアディジェと比較するとイタリアワインらしい、郷土的な風味を感じますね。オーストリアワインとイタリアワインの個性の違いが出ていて面白いですね。

 

A:協同組合ですが、しっかり造ってあるところはこの地域の良さですね。そう思うとトレンティーノ=アルトアディジェのワインはブドウの名前が表記されていて、ワイナリーごとに個性もある。おしなべて2,000円くらいからこの産地のワインはどれも真面目に造られています。好きなワイナリーを見つけたりっていうワイン入門としては適した産地かもしれませんね。

 

M:X軸(ワイナリー)とY軸(ブドウ品種)で自分の好みが探れるということですね。好きな品種でいくつかのワイナリーを試したらすぐにワイン語れるようになりますね。

 

T:イタリアはボトムレンジの文化レベルが高いというのが良さだと思うけれど、トレンティーノ・アルトアデイジェのワインはそういったところに触れやすい産地というのが良さです。安かろう、悪かろうではなく、様々な品種が丁寧に造られている。カベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールといった国際品種もあるし、ヴェルナッチ、ラグレインやテロルデゴといった地場の品種も楽しめる、着目するべき産地ですよ。

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