コラム 2016.01.10

【オーストリアのワイナリー】レヒニッツの新星「ストラーカ」

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※アルプス最後の山だという標高884メートルのGeschiebenstein山の南斜面にあるレヒニッツの畑。涼しい風が常に吹き降ろす。

ストラーカ

  オーストリア東南部、ハンガリー国境を目の前にしたアイゼンベルク生産地域は、DAC認可品種であるブラウフレンキッシュで知られる。アイゼンベルク村のシスト土壌のワインの抜けのよさや緊張感もいいし、ドイチェシュッツェン村のローム土壌のワインの温かくソフトなパワー感もいい。この二つのタイプの個性については既によく知られる通りだ。

 アイゼンベルクの地図を見ると、それらの村の他、東北端のレヒニッツ村にも畑が集中していることがわかる。畑の標高は高く、350メートルから500メートル。だから気温が低く、さらには緑色粘板岩という独特の土壌もあり、伝統的に白ワインが造られてきた。7割が白で、そのうち半分がウェルシュリースリングらしい。そう、アイゼンベルクには飛び地のようにこの特異なエリアがある。

 個人的にはレヒニッツは独自のクリュとして認定されるに値すると思う。レヒニッツのアイゼンベルクDAC(つまりブラウフレンキッシュ)のワインも悪くはないが、そして冷涼なワインを望むなら、やせ気味で神経質なその個性を愛でることもできるが、これをアイゼンベルクと呼んでいいのかというほど他村と違う。しかしそれを上回るレベルの白ワインではDACを名乗れず、単なる包括的呼称、ブルゲンラントになってしまう。ポテンシャル的にはオーストリア最良の白産地のひとつだというのに、これをジェネリックなブルゲンラントのカテゴリーに入れてはあまりにもったいない。飲めば分かるが、焦点がぴしっと合って気高く、全方位的に整った、余裕のある味わいは、値段がいかに安くとも、グラン・クリュとしか言いようがない。

 ウィリー・クリンガー会長とDACについて意見をかわした時、「イタリアのようにDOCの上に小さなよく分からないDOCGを何十も作ったら結局混乱してしまうだけ。だからDACの中に細かい特別なアペラシオンを作るべきではない」と彼は言っていた。そしてそれに続けて彼は言った、「スピッツァーベルクやレヒニッツがいかに優れていても」、と。知る人にとっては、レヒニッツは心の中では「特別なアペラシオン」なのだ。知らない人がいるなら、それは今やもぐりというべきだろう。

※トーマス・ストラーカ。好きな言葉は温故知新。

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 レヒニッツで現在唯一の認証オーガニック生産者がストラーカ。もともとレストランが本職で、三代目となる現当主トーマスが本格的に取り組むまではワインは副業だったという。彼はアイゼンシュタットでワインを学んだあと、エルフェンホフ協同組合の醸造長の職を得るが、08年に父親が死去し、実家に戻る。最初は1・5ヘクタールしかなかった畑は、今では自社畑5ha、25年間契約の賃借畑が2haあり、この村では最大のワイナリー(他がいかに小さいか分かる)となった。06年からオーガニックを試験的にはじめ、2014年には認証プログラムに入り、2017年には認証取得予定だ。

他のメンバーは誰かと訊いたら、リーダーのウマトゥムをはじめとして、エルンスト・トリーバウマーやファイラー・アルティンガーの名前が出てきた。

意欲的な彼はブルゲンラントの他の生産者と共に10人の勉強グループを作り、品質向上に取り組んでいる。他のメンバーは誰かと訊いたら、リーダーのウマトゥムをはじめとして、エルンスト・トリーバウマーやファイラー・アルティンガーの名前が出てきた。それはすごい!2015年にはクリストフ・ヴァフターと共に、レヒニッツ村に生えているオークで樽を作るという計画を始めた。今は板材を晒している最中。既にバリックもフレンチオークも使用をとりやめたトーマスにとっては、当然それが論理的帰結だ。その結果が楽しみでならない。2016年の新規計画は羊を飼って畑の雑草を食べさせること。そしてしばらくしたら屠殺してレストランで料理にする、と。我々が食べたあとのものは肥料として自然に返せば、見事に循環した生態系の実現ではないか!

畑の状態がよくなったためか、2014年以降の白はすべて素晴らしい。ベーシックなウェルシュリースングも、この地で最も古い樹齢80年の古木のキュヴェ、プラントナーも、そしてその醸し発酵版の三つは、レヒニッツの基本品種がウェルシュリースリングであることの理由が分かる、驚くべき完成度。力があって上品で、余韻も長い。ウェルシュリースリングが安くてまずいワインだと思ったら大間違いだ。そしてリースリングとソーヴィニヨン・ブランも、高貴品種ならではの余裕のある味わいで、さりげなく高貴で、淡々として芯が強く、惚れ惚れする出来だ。特にリースリングはオーストリアのこの品種のワインの中でも最もドイツに似ていると思うが、それはここがオーストリアでは珍しい粘板岩土壌だからだろう。

※新作、ヴァイスブルグンダー・マイシュフェルゴーレン。マセラシオン30日のオレンジワイン。18ヶ月樽熟成。

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ちなみに今回は食べることができなかったが、今でも営業して地元の人たちのあいだでも人気のストラーカのレストランでは、最上の豚肉料理を楽しむことができる。ハンガリーが目の前だけあってかの有名なマンガリッツァ豚。前回来たとき「うまいうまい」と言っていたら、トーマスはワインの話をする時より楽しそうに豚ロースの断面の写真を見せてくれて、「ほら、見てくれこの色艶、この霜の入り方!すごいだろ!」。楽しくこだわり常に進歩する完全主義。彼のワインは今でも傑出しているが、これからますます注目すべき存在となるだろう。<田中克幸>

ミッテルブルゲンラント、世界一変なワイナリー?「モリッツ」に続く

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