コラム 2018.01.26

アルザス Domaine Schlegel Boeglin

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▲なだらかなフォルブルグの丘。フォルブルグ2ha、ツィンコッフレ2haのグラン・クリュを含む、計13haを所有。
 フォルブルグは南向きから東向きへとL字型をしている、73・61ヘクタールの大きなグラン・クリュである。アルザス委員会のホームページでフォルブルグを検索するとその写真が出てくる。ちょうど写真中央に見える部分、クロ・サン・ランドランの右隣、つまり南東向きの素晴らしい区画を所有しているのが、ドメーヌ・シュレーゲル=ベーグランである。

 ワイナリーに直接ワインを買いに来る人たちで混雑している。地元消費に支えられている、いかにも地酒なワインである。輸出比率は、なんとゼロ。適度に流した味がいい。フォルブルグは自分にとっては、ざっくりとして寛大で親しみやすい、腰のすわった、中肉中背の中年男性のような個性のグラン・クリュだ。そこでは神経を研ぎ澄まして一分の隙も見せないパリの三ツ星レストラン向け作品を造るより、地元のビストロや家庭での普通の食卓に合う実直でお買い得なワインを造るほうが、方向性としては正しいと思う。フォーマル系グラン・クリュとインフォーマル系グラン・クリュに分けるなら、フォルブルグは後者なのだ。
 この生産者の基本的なスタンスは、当主ジャン・ポール・シュレーゲルさん曰く、「熟したブドウの味が好き」だ。私と同じく、最近の流行りの未熟のブドウで造るワインがおいしいとは思えないようだ。「熟してから摘むから、ワインを欧州諸国に持っていくと、甘すぎる、と言われてしまう」。輸出比率ゼロの理由のひとつは、現在輸出市場で望まれているスタイルではないからだ。しかしフォルブルグのような南部アルザスは温暖なのだから、そして特に標高が320メートルと低いフォルブルグにおいては、もともとシャープな酸とタイトな構造を求めるほうがおかしい。「暖かいから畑には緑色のトカゲがいる」。オーストリアのヴァッハウでおなじみのスマラクト!それは暖かさの象徴だろう。どうしてもこのエリアでぴしっとしたワインが欲しいなら、標高428メートルと高くて谷に面して冷風が当たる急斜面のツィンコッフレ(収穫はフォルブルグより2週間遅い)を買えばよい。それぞれのクリュにふさわしい味、スタイルを見極めなければいけない。京都の高級和食店の吸い物だけを日本のスープの基準としていたら、江戸味噌を使った古典的な東京下町のどじょう汁など甘いくどいと言われて終わってしまう。そんなことを言われたら東京下町の住人である私は激怒だ。それはそれ、これはこれ、である。「だから私は有名な隣人の最近のスタイルが理解できない」。アルザスに詳しい方なら、彼が言いたいことはよく分かるはずだ。

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▲フォルブルグの土。色が濃く、石灰の礫が多数含まれ、いかにも赤ワイン用の畑に見える。

 フォルブルグはジュラ紀の石灰岩地質で、温暖で、かつ降水量がアルザスの中でも特に少ないのだから、ピノ・ノワールがいいとされるのは順当だ。200年前は赤が90%を占めていたそうだ。ヘングストと並び、アルザスでピノ・ノワールの畑として知られるのがここ。グラン・クリュ認可品種の中にピノ・ノワールを含める申請をINAOに提出している。
 このドメーヌでもピノ・ノワールがよい。「父親の代から村の人たちが買うワインを造っているから値段を上げられない」ため、コストを下げるべく収量は70hl/haと大変に多く、正直薄い。しかしそれでもフォルブルグのテロワール(畑はグラン・クリュ・フォルブルグの中にある)の秀逸性は明確で、余韻が長いし、スケールが大きい。これで45hl/ha程度に下げたらどれほど品質が向上するかと思う。とはいえ、私はこの古典的なアルザスの薄い赤ワインが嫌いではない。濃いピノ・ノワールなら他の国にもある。ブルゴーニュと競ってもしかたない。ここではマセラシオンはたったの4、5日だから抽出も軽く、オークを使わないからすっきりとフルーティ。そういったスタイルのワインはたいがいのところシンプルでフラットになりがちだが、さすがに畑はグラン・クリュ。よいテロワールと軽い造りの合体が生み出す、フランスの他産地では得られないピノ・ノワールの個性がいい。ちなみにここでは樽発酵・熟成バージョンのピノ・ノワールもある。薄いピノにたっぷり樽をかけたらどういう悲惨な事態を引き起こすか説明するまでもないだろう。
しかし問題はセニエしてロゼを造ることだ。腰が据わって余韻が長いロゼはそれ自体としては見事だが、フローラルな香りやしっとりした滑らかさがロゼのほうに取られてしまい、結果として赤ワインのバランスが崩れる。赤ワインは色が濃くなければいけないという強迫観念は捨てねばならない。いまどきセニエした赤ワインは流行らない。そこで私は15%ほどのロゼを赤ワインにブレンドしてみた。つまりセニエした分をもとに戻した。もちろんワインの品位が向上し、香りが華やかになった。皆さんも是非セニエのロゼを赤ワインに戻して飲んでみて欲しい。これで古典的なシュペートブルグンダーのように若干の残糖があればなおよいが、今度は赤ワインは完全に辛口でなければいけないというフランス独特の強迫観念が邪魔するだろう。レモンスカッシュにもエスプレッソにも砂糖が入ったほうがおいしいなら、アルザスのピノも同じだ。
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▲ツィンコッフレの畑を車内から見る。標高が高く、涼しく、急斜面で、いかにもリースリング向けのグラン・クリュだ。

 このドメーヌでピノ・ノワールがフォルブルグのピノ・グリやゲヴュルツトラミネールより優れている明らかな理由はひとつある。斜面上部にある白品種と異なり、斜面下部にあるピノ・ノワールの区画は非常に緩やかな斜面。トラクターによる仕事が簡単で、除草剤を使用していないからだ。3年前には斜面上部でもトラクターを入れたところ土壌流出を引き起こしてしまったという。すべて人力で鎌で雑草を刈り取れと理想を言うのはたやすいが、コストがかかって売価に反映せざるを得ない。しかし「売価を上げれば、既存の顧客を失う」。現状では畑の6割で除草剤不使用。残り4割の過半は困ったことにグラン・クリュ。彼らの造るフォルブルグとツィンコッフレは前者のボリューム感と後者のスピード感という土地の個性がよく分かる素直な造りで、ポテンシャルの高さが分かるだけに、惜しいところだ。

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