※ヨーロッパの東と西をわかつエルベ川。ザクセンの多くのブドウ畑から、この歴史に彩られた川を臨むことができる。写真はヴァルター・シュー醸造所、マイセナー・グラウゼンベルク畑。
ドイツのおもしろさは産地と品種の多様性にある。近世プロイセン帝国による統一までの長いあいだ、ドイツは小国の集合体だったという事実を忘れてはいけない。ワインの観点からすれば、イタリアがそうなように、いまでもドイツはひとつではない。
リースリングが主体のメジャー産地だけに目が行きがちだが、マイナー産地こそがおもしろい。最北の小産地、ザクセンとザーレ・ウンストルートは、それが旧東ドイツ地域にあり、我々にとってなじみが薄いだけに、なおさらおもしろい。
ここに注目すべき理由は明白だ。まず、地球温暖化。かつては寒すぎてうまく熟さなかった産地が、今では丁度よい熟度が得られるようになった。低いアルコール、しっかりした酸、強いミネラル感にドイツワインの美しさを見出すのなら、そして冷涼なワインが好みなら、ザクセンとザーレ・ウンストルートはいまや不可欠な産地である。
しかし両者の性格は対照的だ。ベルリンやドレスデンといったドイツの中心的な都市に近いザクセンは、たぶんドイツで最も洗練された、都会的な味わいのワインだ。中世の面影が残るザーレ・ウンストルートは、たぶんドイツで最も鄙びた、地酒的な味わいのワインだ。両者を同時に飲むと、あらためてドイツワインの幅広さに気付くことになる。
とはいえ両者には共通点がある。輸出比率が極めて低く、そればかりか旧西ドイツ地域に持ち出されることさえ少なく、多くが地元で消費されるということだ。それこそがこのふたつの産地に注目すべき理由である。グローバル・テイストに対する疑念がますます大きくなり、ワインの土地性が意識されるようになった現代だからこそ、ザクセンとザーレ・ウンストルートの、その土地の文化・味覚と一体化した、ブレずに腰の据わった深い味わいの個性が貴重となる。ましてドイツのような超先端的な工業国で、このように衒いやそろばん勘定や外国の評価への意識を感じさせないワインに出会えるとは、奇跡に近い。正直言って、私は最初、ザクセンとザール・ウンストルートは好奇心の対象でしかないと思っていた。所詮旧東ドイツのワインなんてたいしたことないと。それは大いなる間違いだった。ここには本当のワインの感動があると、恥ずかしいことに、私は現地に行って初めて知った。
ザクセン
※ザクセン(Sachsen)は旧東ドイツ、ドレスデン周辺のワイン産地。ドイツの州ごとの栽培面積では最小。約400ha。エルヴェ川沿いの南向き斜面に主に葡萄が植えられる。主に地元消費を目的としたワイン生産がなされてるため、日本国内への輸入はほぼない。
【ドイツ/ザクセンのワイナリー】世界最高峰のヴァイスブルグンダー「クラウス・ツィマリンク」
【ドイツ/ザクセンのワイナリー】歴史ある文化の結晶「シュロス・ヴァッカーバルト」
【ドイツ/ザクセンのワイナリー】素晴らしいテロワール「ヴァルター・シュー」
【ドイツ/ザクセンのワイナリー】旧東ドイツで最も古いザクセンのプレステージ・ワイナリー「シュロス・プロシュヴィッツ」
【ドイツ/ザクセンのワイナリー】1401年創業の歴史「ホフレシュニッツ」
ザーレ・ウンストルート
※ザーレ・ウンストルート(Saale-Unstrut)はライプツィヒの西、ザーレ川とその支流ウインストール川流域の傾斜地に位置する。北緯51度はワイン産地としての最北に当たる。
【ドイツ/ザーレ・ウンストルートのワイナリー】ツヴァイゲルトの可能性「パヴィス」
【ドイツ/ザーレ・ウンストルートのワイナリー】ザーレ・ウンストルートのヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)クラウス・ベーメ"
【ドイツ/ザーレ・ウンストルートのワイナリー】旧東ドイツで再考すべき現代的アプローチ「フライブルク=ウンストルート協同組合」
【ドイツ/ザーレ・ウンストルートのワイナリー】ドイツ最大のスパークリングワイン生産者「ロートケプヒェン・ゼクトケラーライ」
【ドイツ/ザーレ・ウンストルートのワイナリー】まだ若き小規模生産者「ヘイ」