コラム 2016.01.04

【ドイツ/ザクセンのワイナリー】旧東ドイツで最も古いザクセンのプレステージ・ワイナリー”シュロス・プロシュヴィッツ”

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シュロス・プロシュヴィッツ

 ザクセン最大の90ha弱を所有する個人ワイナリーにして、中世からの歴史ある城。第二次大戦までの300年間は、ヨーロッパじゅうの王室に深いつながりがあり、ザクセンの大事業主でもあったプリンツ・ツア・リッペ家によって所有。東西ドイツ統一後はプリンツ・ツア・リッペ家の現当主ゲオルグによって買い戻され、現在に至る。旧東ドイツで最も古く1996年からVDPメンバー。つまりは、ザクセンのプレステージ・ワイナリーだ。

 

 プリンツ・ツア・リッペ家はGDR時代は西側であるバヴァリアに逃れていたが、当主の奥方アレクサンドラさんによれば、「ゲオルグはもともとの土地に帰りたいとの思いが強く、東ドイツ政府のものとなっていた城と土地を1990年3月に買い戻し、移住することにしました」。不当に接収された自分の財産を返してもらうならともかく、なぜ買わなければいけないのかと思う。「特別に安くしてもらったわけでも銀行が特別なローンを組んでくれたのでもない。ふつうどおり。ものすごい金額。当時の政府が言うには、戦争が終わったあと45年から48年まではソ連の所有となり、それを東ドイツが譲り受けた形なので、外国がからむ話。昔のことは水に流しましょう、というのが政府の方針だった」。

※政府に接収され荒廃した社会主義時代の建物の写真と、現在見ることができる修復された姿。かつての栄光をかくも短期間で取り戻したツア・リッペ夫妻の努力に敬服する。

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 そもそも1982年までは彼らは東ドイツに入国さえできなかったらしい。「プリンツ(つまり親王、公子、公爵)ですから。共産主義者である彼らにとっては間違った名前であり、間違った歴史をもつ家だったわけです」。

 帰ってきたものの、城は荒廃し、住むところもない。彼らの畑であるシュロス・プロシュヴィッツ(VDPグロース・ラーゲ、対岸にマイセンの有名なアルブレヒト城と司教座大聖堂が見える)の前にある労働者がランチを食べたり休憩したりする小屋に寝泊まりしていたそうだ。「ものすごく寒いし、電気もないし、お湯も出なかった」。もともとの領主のご帰還だと村を挙げて祝ってくれたのかと思いきやその反対で、「村人たちは、いったい何をしに来たんだ、と怪訝がって口もきいてくれなかった。彼らに溶け込むためにはひたすらいい人になって、こちらからいろいろな場所に顔を出し、私たちはあやしい存在ではないんだ、と認めてもらうべく努力するしかなかった。それには長い時間がかかった」。城や敷地を一般に公開しているのも、ホテルを敷地内に設けているのも、彼らが村に溶け込もうとする努力のひとつなのだと思う。

 畑を回ったあとは城の奥にある一室で、栽培長ワルター・ベックさんと醸造長ジャック・デュプレさんと一緒に夕食を食べながらいろいろテイスティング。ちなみに醸造長は名前から分かるとおりフランス系だが、南アフリカ出身。アレクサンドルさんによれば、先祖はユグノー教徒。ユグノーはエリザベス1世とつながりが深かったから大英帝国に移ったのか。そして彼はプロテスタントの本拠地ザクセンに来たということか。うーん、ヨーロッパ史という感じだ。サン・バルテルミの虐殺とかナントの勅令とかフォンテンブロー勅令とか、世界史の授業を思い出す。話が脱線した。

※城館の一室で素晴らしいピアノの腕前を披露する栽培責任者のワルター・ベックさん。

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 どのワインも完成度が高く、現代的で技術レベルの高さを感じさせる味だ。ディティールの磨き上げ方がいかにもVDPワイナリー的といえようか。彼らの畑は花崗岩の上に数メートルのレス・ロームが堆積している土壌なので、どれも基本的にふんわりソフトでエッジがなく、酸もなめらかで飲みやすい。

 もともとソフトでフルーティな性格の品種であるゴルトリースリングは、土壌のキャラクターと合っている。アルコールは11・5度と低く、RS3、TA6。まさに数字が語るとおりの味だ。「いまオランダでゴルトリースリングが大人気。彼らはゴルトリースリングばかり買う」そうだ。「日本で流行っているザクセンの品種は」、と言える日はいつ来るか。

 このワイナリーで一番いいと思うのは、しつこいようだが、エルブリング。これでザクセンにふたつしかないエルブリングを続けて飲んだことになり、エルブリングのファンとしてはうれしい限り。とにかく抜けがよくて、もたつかないのがいい。エルブリングの可能性に大いなる期待を寄せるのはジャックも同じで、「低アルコールでライトでフレッシュなワインを欲する現代の市場にフィットしている品種。しかしこの品種のワインには果実味を付与するのが難しい」。栽培としては「夏に雨が少なく秋に温度が低くなる土地が必須」。

シューのエルブリンクは花崗岩むき出しの味だったが、こちらはレスっぽい白コショウやハーブの香りに苦味とねばりけがニーダーエステライヒのグリューナー・ヴェルトリーナーに酷似。相当にスキンコンタクトの影響を感じるので、どんな意図があるのかと聞くと、「エルブリンクは圧搾しにくい品種なので、スキンコンタクトして柔らかくする必要がある」。

 ポテンシャルが高いと思ったのは、シュロス・プロシュヴィッツGLのとなりにあるクロスター・ハイリッヒ・クロイツELのヴァイスブルグンダー。まだ大変に若木だが、だからフルーティで明るくて軽いのだが、品種の個性と合致して、それがむしろ長所と感じられる。スケール感と余韻があり、個人的にはエアステ・ラーゲというよりグロース・ラーゲ的だと思った。ちなみに若木の理由は、2009年は最低気温が氷点下27度に下がり、ピノ系品種が全滅して植えなおすことになったから。「しかしリースリング、ゴルトリースリング、ショイレーベは問題なし。リースリングの遺伝子があると低温に強いということ」。

 先述のごとく、どれもよくできたワインなのだが、だから仕事としては見事だが、若干「お仕事の味」。醸造長ジャック・デュプレにそう直接言った。「あなたはこれらのワインに百パーセント自分を出し切ってないね。私は長年何百人という醸造家に会ってきたから、あなたがどれほど傑出した才能なのかは分かる。だからこの程度の品質を生み出すのはあなたにとってはわけないことだ。そしてこの味は保守的な消費者や多くのワイン評論家には評価される。敵を作らない。あなたも褒められる。しかしあなたは満足していないだろう。それが伝わってくる。それでいいのか」。

 すると彼は「ああ、満足していないさ。しかし僕は雇われているんだから。ここは僕のワイナリーじゃない」。「じゃあ一生欲求不満でいいのか。現実のビジネスと自己実現を両立させるには、毎年ひとつ、数百本のエクスペリメンタル・キュヴェを造ることをオーナーに認めてもらうしかない。そこで未来のための実験をする。ジャーナリストやソムリエは目新しいものが好きなのだから、それは先端技術実験室となるだけではなく広告塔にもなる。それが高く評価されれば通常商品に生かしていけばいい。メルセデス・ベンツはなぜF1に参戦するのか。既に最高の評価を得ているのに、なぜ大金をかけてレースをするのか」。栽培長は「僕もちょうど自動車会社とF1の関係を思っていたよ」。「毎年はともかく、収量の多い年には確かにそれは可能だな」と醸造長。ジャック・デュプレさんはパラダイム変革ができる能力がある人だと思う。パラダイム変革ができる人がパラダイム内的改良にとどまっていては世の中にとって不幸なのだ。

 栽培に関してはやるべきことはひとつしかない。「除草剤使用がいいなんて思っていないでしょう。シャトーもレストランもいいけど、まずはワインの本質的なクオリティを上げないと意味がない。本質的なクオリティ向上は化学薬品をやめないと実現できない」。もちろんワルター・ベックさんはそのことを理解している。「もちろん私も同感だ。しかしそのためにはあと5台のトラクターと15人の栽培担当者が必要だ。お金の使い道を決めるのはオーナーであって私ではない」。ダイヤモンドは磨かなければもったいない、と理解するのはそんなに難しいことか。

※案内してくださったアレクサンドラ・ツア・リッペさん。背後に見えるのはシュロス・プロシュヴィッツのワイナリーとホテル。ザクセンのワイナリー訪問時にはこのホテルをお勧めしたい。

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