コラム 2016.01.04

【ドイツ/ザクセンのワイナリー】素晴らしいテロワール” ヴァルター・シュー”

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 ヴァルター・シュー

 2008年からオーガニック。自慢の畑、マイスナー・クラウゼンベルクの丘を息切らせながら登ると、眼下にエルベ川。ブドウの樹のあいだを風が吹き抜けていく。創業者の子息、マティアスさんは、「風が強いからカビが生えない。そして土は軽いから水はけがいい。見ての通り、いいテロワールです」。

オーガニック・ワイナリーであるシューでは肥料に自家製のコンポストを使う。その出来を見せるマティアス・シューさん。

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 10ヘクタールから年間4,5万本を生産するが、珍しいことにその三分の一に黒ブドウ。レーゲント、ダンケルフェルダー、ピノ・ノワールが栽培されている。ダンケルフェルダーは「70年代に開発された品種でピノの4倍のポリフェノールが含まれている」。しかし味は、まあ、いかにも新品種な感じで底が浅い。ここで文句を言ってもしかたないが、ドイツは余計な品種が多すぎる。そんなものの開発に力を入れるならもっと他にやることがあるだろう。「レーゲントも飲むかい」。「いや結構です。レーゲントにおいしいものはありませんから。タンニンが強すぎるし、そのわりに果実味がないし、重たいし」。「しかしうちのはちょっと違うよ」。

そこまで言われたら飲まないわけにはいかない。例によって腰が引けるほど濃い色だが、味は通常よりずっとなめらか。やせぎすな印象はなく、クリーミーさがほほに広がる。さすが花崗岩土壌だ。香りにはレーゲントらしいハーブっぽさが目立つが味わいは予想よりフルーティ。「pHはいくつだと思うかい?」、「3・7か8ですか?」、「4・2だよ!」。そんなに高いpHのワインを初めて飲んだ。「ラングドックのグルナッシュ主体ワインでも自分の記憶する限り4・1が最高だったのに、ザクセンで4・2ですか!」。「ものすごく遅く摘むからこういう味になるんだ」。挑戦的でいい。「レーゲントは病気に強くて、去年一年間一回も硫黄を散布したことがない」。やはり好きにはなれなかったが、レーゲントの耐病性の側面は、それはそれで大事なことだ。

East Germany 041-min (1) 白の基幹品種はゴルトリースリング。「100年前から植えられていてザクセンだけで認可されている、リースリングとゲルバー・マーリンガーの交配品種。遅い発芽ゆえに霜害を受けず、早い収穫だから涼しいザクセンにぴったりだとされた。しかし今では地球温暖化の影響があり、収量は昔よりずっと低いから、ブドウの熟度には問題がない。この品種は密粒着だからカビが生えやすく、今ではそっちのほうが問題。でもザクセンの伝統だから守っていかないと」。ぽってりして、リースリングは嫌いだがブルグンダー系は好き、という人には向く味の傾向。直販でも女性にけっこう人気だという。ザクセンに来たら一度は飲まねばならないのがゴルトリースリングだ。

 しかし私はゴルトリースリングも好きになれない。私がこのワイナリーに来た理由は、熱心なオーガニック生産者だということの他に、ここには私の大好きな品種、エルブリングがあるからだ。これはモーゼルの伝統品種。香りが涼しげで、質感のきめが細かく、酸がぴしっとして抜けがよく、ボディが引き締まっていて、気配に品位がある。誰もエルブリングを褒めないので、この機会に私が褒めまくる。昔は薄くて酸っぱいだけと思われていたかも知れないが、現代にあってはこの酸がちょうどいい。そもそも酸が嫌いな人はドイツワインを飲まないだろう。

 もちろんエルブリングはもともと植えられていた品種ではない。「父は故郷モーゼルで自分のワイナリーを創業したかったのだが、いろいろな規制があってできず、まあ若気の至りというか、村を捨てて東ドイツに来て1990年にワイナリーを創業したんだ。東から西に行く人は多かったが逆はいないよね。村の人は当然ながら怪訝に思って仲間に入れてくれなかった。溶け込むのに時間がかかったよ。で、エルブリングは移住した時にモーゼルからエルブリンクを持ってきた」。モーゼル出身の人が遠く離れたザクセンに故郷のブドウを植える、そしてそれがエルブリング。いい話ではないか!エルブリングファンとしては泣けてくる。

※マイセナー・グラウゼンベルクの畑は花崗岩土壌。ザクセンの多くの畑で花崗岩を見かける。最北産地でありながらザクセンのワインがふくよかなフルーティさを備えるのは、この土のおかげでもある。

East Germany 042-min ザクセンの花崗岩土壌のエルブリングは、モーゼルからルクセンブルクにかけての石灰岩土壌のものと比べて、とろみがあるしなやかな味で、香りもふんわり広がる。ハードな品種の個性にソフトな産地の個性が相乗効果をもたらす印象だ。この品種はザクセンにもっと植えられるべきだ。「ドイツで好きな白ワインはなんですか」と聞かれたら、これからは「ザクセンのエルブリング」と答えようか。

【ドイツ/ザクセンのワイナリー】旧東ドイツで最も古いザクセンのプレステージ・ワイナリー”シュロス・プロシュヴィッツ”に続く

 

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