コラム 2016.01.04

【ドイツ/ザクセンのワイナリー】歴史ある文化の結晶「シュロス・ヴァッカーバルト」

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Schloss-Wackerbarth_Belvedere-1

シュロス・ヴァッカーバルト

 1730年に建てられた、ザクセンワイン観光の中心的存在。案内役マルティン・ユングさんによれば、「年間訪問者数16万人。結婚披露宴、コンサート、読書会、講演会等のイベント数月間200回」。まるでイベント会場かと思う。現代的な醸造所内にある直販所にも観光客がひっきりなしに訪れる。
 ドイツ観光局のホームページ、「ワイン文化のハイライト」の項を見ると、シュロス・ヨハニスベルク等と並んでここが掲載。そのまま引用すると(若干へんな日本語なのだが)、

「ザクセンの極上 - 常にシュロス・ヴァッカーバルト宮殿のモットーでした。陸軍元帥で帝国伯爵のクリストフ・アウグスト・フォン・ヴァッカーバルトが事業に着手し、現在、欧州最初の一般に開放した体験ワイナリーとなっています。その名声は ザクセン の境を越えて知られるようになりました - ワインだけでなく、最高のスパークリングワインのゼクトも有名です。」

※本館からベルヴェデーレを臨む。シュロス・ヴァッカーバルトの美しいバロック様式の建築・庭園では各種イベントが頻繁に行われている。

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 社会主義だったGDR時代には、ザクセンのふたつの公営醸造所のひとつ。現在はザクセンステートバンクの所有で、自社畑104ヘクタール、年間生産量60万本の巨大ワイナリー。といった概要を書き連ねると、あまりおいしそうな印象がない。私も白状するなら、醸造所前の駐車場に車を乗り入れた瞬間に、「ああ観光ワイナリーか」と思った。あれこれのパーティールームを見学してなおさらそう思った。

実際にワインを飲んでみて妙な先入観を持ったことを恥じた。ワインにエネルギー感がある。やる気と遊び心がある。飲んでいて「よくできました」という淡々とした印象が生じるのではなく、「おお、おもしろい」という積極的な気持ちになる。特にピノ系3品種ブレンドのゼクトPinot Brut Nature 2007 (こういうワイナリーで、それもドイツのワイナリーで、ノン・ドゼというだけで超かわりものです!)、リースリング、トラミナー、ジルヴァーナー、グラウブルグンダーの混植混醸“Edition 1950” 2013、大樽自然酵母発酵10か月シュールリーのRadebeul Goldner Wagen Riesling Spatlese Trocken 2012 が気に入った。

 醸造長のユルゲン・アウミューラーさんは地元の人ではなく、ミュンヘン出身。昼ごはんを食べながらよもやま話をしていると、「父親は超有名ビールメーカーの醸造長だった。ビールに囲まれて育ってきた僕がワインメーカーになりたいと言ったら、父親は笑っていたね。ワインは畑仕事もあるからねえ。確かに大変だよね。ビール製造には農業的な側面があまりないけど、品質を決めるのは水だよ。だから良い水の確保が一番大切」。おっと話がビールになってしまった。East Germany 031-min
 父親譲りの才覚、外からの視点、そして好きなことをやっているという楽しさ。さらには素晴らしいテロワールの畑(さすが老舗でいい畑を持っているようす、たとえばワイナリーの奥にある丘。所有畑の平均斜度は20パーセント。収量もヘクタール当たり30から40ヘクトリットルと少ない)。彼の作品からはそれらの相乗効果とでも言うべき火花を感じる。「あなたはクレージーですねえ」と言うと、うれしそうに「そうだよ、僕はクレージー!」。そのポジティブさがワインに反映している。だから「もっともベーシックな地元消費用ワイン」だというバフース2014年でも驚くほどおいしい。ふつう私は安価な大量生産バフースがおいしいとは思わないのだが。
 バフースやケルナーはマイセンの近くの粘土質の畑からだが、ピノ系やリースリングは斑岩の畑から。ザクセンの中ではこのワイナリーの畑のあるエリアが最も暖かいというし、火山性土壌なので、これら気候的土壌的要因もワインの明るさや表現力の豊かさにつながっているのだろう。
 こんな大きなワイナリーでも輸出はたった2から3%。信じがたい。ドレスデンやベルリンといった東部ドイツでほとんどが消費される。マインツやフランクフルトでは見かけないが、それは悪いことではまったくない。地元の人に支持されているという動かしがたい事実こそが大事なのだ。地元消費用ワイン=地に足がついた味のワイン。それが理解できないと、ワインの土地性・文化性という側面が抜け落ちてしまう。
 これほどの歴史がある有名ワイナリーなのだから、「VDPメンバーではないほうが不思議だ」と言ったら、アウミューラーさんは「確かに彼らが来てテイスティングして、特にトラミナーはドイツの中でもベストだと絶賛していたのですが、それでも『東ドイツは、ちょっとねえ』だと。彼らは東ドイツに偏見がある」。私はおいしくてお買い得ならいいので、VDPだろうがなんだろうが関係はないが。
 残るは栽培の向上だろう。「ビオディナミとか興味ないのですか」と尋ねると、「もちろんおおありさ!しかしこの組織の体制と規模と費用を考えたら無理しないほうがいい。それに、よくあるみたいに一部の畑だけビオディナミにするなんて、ビオディナミの考え方そのものに反する行いだろ」。なんとものの道理が分かっている人なのか、と思った。

※104ヘクタールを所有する巨大なワイナリー。しかし輸出はたったの2,3パーセントというから驚く。

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【ドイツ/ザクセンのワイナリー】素晴らしいテロワール” ヴァルター・シュー”に続く

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