コラム 2016.05.11

【ブルゴーニュ】若きビオディナミ生産者 ルノー・ボワイエ

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※ルノー・ボワイエさん。日本からの訪問者も多いらしく、「日本人はヴァン・ナチュールにとても理解がある」とのこと。

ルノー・ボワイエ

 

 2005年初ヴィンテージの比較的新しいドメーヌ。エコセール認証オーガニック、亜硫酸無添加の、最近よく耳にする、またパリのパピーユのような人気ショップのサイトでよく見かける、ブルゴーニュだ。もちろん日本でも人気が高く、生産本数が2万本以下と少ないこともあって、私は実物を見たことも飲んだこともなく、ムルソー村にあるワイナリーに行ってテイスティングしてみることにした。とはいえ行ったところでラベルが貼ってある実物はすべて既に売り切れだったが。

 ルノーさんの実家は、ムルソー・ペリエールやサヴィニーを造るドメーヌ・ボワイエ・ゴンタール。彼が使用しているセラーは1950年代に祖父が建てたもので、父親が住んでいる家でもあり、またドメーヌ・ボワイエ・ゴンタールとも共有している。彼自身は最初はワイン造りを志してはいなかったが、1986年、彼の叔父になるサン・ロマンの高名なビオディナミ生産者ティエリー・グイヨから畑のフェルマージュを受け継ぐ(実際の所有者はティエリーの母親)話があり、それからワイン造りを勉強したらしい。

 試飲はタンクに入っている2015年ヴィンテージ。既にグレート・ヴィンテージとの評価が高いが、暑くて乾燥していた年ならではの堂々たるボリューム感と充実してリッチな果実味がすごい。亜硫酸無添加ゆえにそのが何ものにも遮られることなく全開で、飲んだ瞬間に思わず笑みがこぼれる味だった。特に印象的だったのが、ボーヌの赤ワイン。ヴィンテージのキャラクターとしては2003年を連想させなくもないが、ボーヌらしい朗らかさが最良の形で表現され、ジューシーであってもジャミーではなく、意外とフレッシュな酸もあり、赤系果実やチェリーやスパイスの香りがくっきりと立ち上がり、わざわざここに来て飲む意味があったと思える、自然のエネルギーをたっぷりもらうことができるワインだった。エネルギー感に関してはやはり発酵が終わったばかりのフレッシュなワインで一番顕著に感じられるにせよ、基本的な性質が瓶詰めされたあとにもそのまま維持されるなら必ず買うべきワインだろう。

※ムルソー村にある醸造所の中は、今ふうブルゴーニュのオシャレな雰囲気(ボルドー格付けシャトー的というべきか)とはほど遠いが、仕事場という感じがしていい。

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 サン・ロマンの白は、これまたストレートにアペラシオンの個性を表現し、骨っぽく堅牢で、「石灰が多い畑で還元的。開くまでに2年かかる」。樹齢80年ということあって内向的な性格。収穫量としては10樽分あるピュリニー・モンラッシェは、4樽分を自分で醸造・瓶詰め。これはピュリニーとしては例外的に(しかしヴィンテージを思えば順当に)アプリコットのような甘い果実味が感じられる。流麗でしっとりしてさらっと大きい広がり感は、ピュリニーならではの特質だろう。興味深いのがコルポー。これは地域名アペラシオンのワインで、「畑はシャニーとピュリニーの間にあり、石灰質粘土の深い土壌」。カラメル的な甘さのある(実際にまだ糖が残っている段階だったが)、深々とした質感の、おおらかで落ち着くワインだった。ちなみに瓶詰めされた2014年も一本試飲してみたが、「害虫スズキの影響で揮発酸量が高くなった」というのが分かる味だった。とはいえルノーさん自身は「2015年はいまは実際よりよく見えるが、2014年は酸があるから数年後に飲めば2015年より上」だと考えている。

※ルノー・ボワイエのボーヌ。ラベル・デザインは冷たい感じがするが、ワインの味は温かい。

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 よくできた、状態がよいSO2無添加ワインは、通常の添加ワインより、ずっとスケールが大きく、コクがあり、滑らかで、比較にならないほど直裁な力強さがある。それは事実だ。しかし問題は、そのようなワインに常に、簡単に、飲めるわけではないということだ。樽から飲んだらおいしかったのに、瓶詰めされたらいまひとつ、という経験はいくらでもあるだろう。だからいつも夢想する。どのワイナリーでもオーストリアのブッシェンシャンクのような業態を併設し、出来たワインをそのまま樽やタンクから注いでグラス売りで飲ませたらよいのに、と。ここで飲んだ2015年のボーヌが、あの状態のまま多くの人が飲むことができるなら(ムルソー村には行く必要があるが)、どんなに幸せなことか、と。<田中克幸>

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