コラム 2016.08.17

チリの産地区分とワインの選び方

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※アコンカグア・コスタから西に進むと太平洋に面した町、ヴァルパライソに出る。沖を流れるフンボルト海流が産地の気温を決定づける。
 チリワインは、少しでも産地区分を理解すると、望む味が大変に見つけやすいワインである。ここでは簡単にチリの産地について述べてみたいと思う。

チリは南北に4300キロ、東西に177キロという極めて細長い国である。ワイン産地は、その南北の中央部三分の一、東西の西側半分強に広がる。

 南北千数百キロということは日本列島の北から南まですべてを含む長さである。北海道と鹿児島の気候の差は言うもなく巨大であり、我々の常識からすればチリでは南に行けば行くほど涼しくなり(南半球だから南北は逆になる)、北に行けばその逆ということになる。確かに最南端は氷に覆われた土地だが、ワイン産地部分に関しては南北の差は大きくない。南部イタタの中心都市コンセプシオンと北部エルキの中心都市ラ・セレーナを比較すると、夏の最高気温はコンセプシオンのほうが1度ほど高い(最低気温は3度ほど低いが)ぐらいだ。

 気温に関して最も影響を及ぼすのは南北の差ではなく東西の差である。チリ沖を流れるのは寒流のフンボルト海流であり、海に近い西に行くほど涼しくなる。東に行けば標高3千メートル以上の山々が連なるアンデス山脈があり、標高が高く冷風が吹き下ろすために涼しくなる。その中間、たとえばサンティアゴは最も温かく、1月の気温はラ・セレーナよりも8度も高い。だからチリでは、海岸山脈の西側にあるコスタ、海岸山脈とアンデス山脈のあいだの平野エントレ・コルディヘラス、そしてアンデス山麓のアンデスという三区分で産地をとらえる方法が有効であり、今のチリではこの区分を推進している。
※首都サンチャゴから東に向かうと、その先にはアンデスの山々が壁のように立ちはだかっている。
アンデス

 

 理念的にはそうなのだが、実際にワインを選ぶときにそれが分からなければなんの意味もない。一般消費者にとってはラベルに書いてある情報がすべてであろう。ところがすべてのチリワインのラベルにコスタとかエントレ・コルディヘラスとかの東西の産地区分が記してあるわけではなく、大概がクリコとかカチャポアルといった南北での産地区分だけしか表記されていない。生産者に聞くと、「消費者にとって、マイポ、エントレ・コルディヘラス、カベルネ・ソーヴィニヨンといった表記は煩瑣で拒否反応を示される。まだまだ時期尚早だ」といった答えが返ってくる。アペラシオン制度、消費者への啓蒙、生産者への動機付けの三者は一体となって実行されるしかない。あと十年もすればこの問題は解決されると期待したいし、当然我々メディアはそうすべく努力していかねばならない。

 チリのワイナリーがブルゴーニュのように小規模でワイナリーのまわりに畑があるなら、ラベルに記された住所をもとにブドウの出自の想像はつく。ヴォルネイのドメーヌの地域名ブルゴーニュが概してヴォルネイ村から造られるようなものだ。しかし多くのチリのワイナリーは大規模で、所有畑が各地にあり、さらには買いブドウを使用するとなると、ブドウの出自は簡単には分からない。生産者のホームページを見るか、ワインショップのスタッフに聞くか、いずれにせよ消費者のあと一歩の努力が必要になる。その手間は惜しまないでほしい。産地がどこかだか知らずにワインを買っても、どういう時にどんな料理と一緒に飲めばいいのかわからない。

 

問題点の指摘はこのぐらいにして結論を言う。同じ品種のワインなら、冷涼産地になればなるほど酸が高くなり、涼しげな香りになるのは当然だ。だから、たとえばアコンカグワ・エントレ・コルディヘラスのシラーはナパやマクラーレン・ヴェールのシラーに近く、アコンカグワ・コスタのシラーはファルツやグレート・サザンのシラーに近い性質になる。合わせる料理は、よって、ラムもも肉のローストにこってりしたソースなら前者、ラム背肉のハーブ焼きなら後者である。
※注 マクラーレンヴェイルは比較的温暖な気候のワイン産地として知られています。濃厚な印象の料理に温暖な産地のワイン、冷涼なワインにさっぱりと仕上げた料理という組み合わせの例え。

 気温に関しては東西が大事だが、降水量は南北で大きく異なり、南に行くほど雨が降る。北部アタカマはほぼゼロといっていいぐらい世界で最も降水量が少ない土地だし、南部ビオビオの年間降水量は1300ミリもある。中部から北部では灌漑が必須であり、降水量の差がヨーロッパの産地のようにそのまま味わいに反映されるわけではないとはいえ、それでも基本的には北の産地のほうがガッツやメリハリのある味だし、南の産地のほうがしっとりとして陰影のある味になる。トスカーナとヴェネト、フランケンとヴュルテンベルク、フォージェールとピク・サン・ルーの差を思い出してほしい。比喩的に言うなら、焼いた塊肉には北、茹でたり煮たりした肉なら南がいいだろう。

 次に地質だが、チリは火山岩が多い。アンデスは安山岩、海岸山脈は花崗岩である。レイダ、カサブランカ、コルチャグワは風化した花崗岩の砂が多く、アコンカグワ・コスタとビオ・ビオはシスト、リマリは石灰、マイポ・アンデスは火山岩の砂利といった違いがある。火山岩土壌が多く石灰岩土壌が少ないのがチリであり、だからいかにも石灰的な冷たい味はリマリ以外になく、火山独特の華やかさが目立つワインが多い。だから例えばカサブランカのワインを飲んで酸のキレがないと言うのは間違いなのであって、フルーリーやコンドリューやアジャクシオといった花崗岩のワインと同じ個性をそこに見出して評価すべきなのだ。火山岩ということに着目するなら、チリワインにはスパイシーな風味のある料理がよい。つまり、同じ肉を焼いて塩で食べるとしても、最後に黒七味を振るなり柚子胡椒をつけるとよい、ということだ。しかし石灰独特の引き締まった味がまったくないかと言うとそうでもない。これがチリのおもしろいところだ。なぜなら灌漑はアンデス山脈の雪解け水で行われるのだが、この水にはカルシウムが大量に含まれており、灌漑を何十年、場合によっては百何十年も続けられている畑は、火山性にもかかわらず土壌pHはアルカリ性なのである。

 ところで上記の内容をあるところで話したら、ワインファンの方から「そんな当たり前のことをいまさら言ってなんの役に立つのか」とお叱りを受けた。まさにそのとおりであって、自分の至らなさに赤面するしかない。プロやマニアのあいだでは今はマイポといったサブ・リージョンやコルチャグワといったゾーンではなく、それを前提として、エリアの違いに着目して味わいを語るのが常識であろう。すなわちプエンテ・アルトは近江牛サーロインのステーキに向き、ピルケは米沢牛ロースのしゃぶしゃぶに向く、といったことだ。いやいや、その中でもプエンテ・アルトの第三テラスは450グラムのサーロインだが第二テラスなら300グラムのリブロースだろう、といったつっこみをされるのは承知している。本当に申し訳ないのだが、この記事は私と同じくチリワインの初心者から中級者に向けての内容ということでご勘弁いただきたい。

 

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