コラム 2017.05.19

ニューワールド・リースリング

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 アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの優れた白ワインといえば、シャルドネとソーヴィニヨン・ブランだけ、という時代ではもはやありません。英語圏での近年のリースリング・ブームを反映し、リースリングの質がどんどんと向上している印象です。

 暑苦しいとか甘ったるいとか想像したら大間違い。彼らが望むスタイルは、とことん辛口。この品種の重要な美点であるびしっとした緊張感や引き締まった酸を求めるなら、ヨーロッパよりニューワールドのほうが期待に応えてくれるのではないかとさえ思います。

 さらには自根のリースリングが場所によっては生き残っているのが魅力。垂直性や深々としたパワー感という点で、接ぎ木がほとんどのヨーロッパのワインに対する差別化は十分です。ニューワールドのリースリングを飲んだあとにヨーロッパのリースリングを飲むと、上品な整い方はさすがだと思いますが、同時に薄くて頼りなく感じられるほどです。

 「ニューワールド」といえばパワフルな果実味、「リースリング」といえば繊細さ、という先入観を持っている人が多いと思います。だからそのふたつの単語が組み合わさると、イメージが難しいかも知れません。

 しかしニューワールド=パワフルな果実味、リースリング=繊細、なのか。ニューワールドに詳しい人もリースリングに詳しい人もそこには疑問をもつでしょう。特にリースリングに関しては戯画的単純化であるばかりか、根本的誤解なのではないか、と。

私にとってリースリングは白い色をしていても中身は赤的な構造を持っている品種です。一言で言ってごつい。ニューワールドのリースリングの多くは、そのごつさをしっかり感じられる点がいいのです。
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かの有名なワシントン州のエロイカと、ノーマルなシャトー・サン・ミッシェルのリースリング(できればLimited Release Waussie Riesling)と、どちらがいいと思うかで相当程度嗜好(というより思考)が分かるでしょう。エロイカは大変に完成度の高いワインですが、これがいいならモーゼルがいいということですし、それならアメリカのリースリングを選ぶ意味が薄くなります。譬えて言うなら、天ぷらを食べるのにリスボンから有名シェフを呼んできて作ってもらう必要はなく、そのほうがいいと考えてしまうと、日本の天ぷらの健全な発展はないはずです。作ってもらうのは結構ですが、そのほうが優れているわけではないということです。

残念ながらリミテッド・リリースは日本で見かけませんが、ノーマルなリースリングでも、そのざっくり・無骨・素朴な趣が、いかにも。私はこの産地であるコロンビア川の対岸に住んでいたので(つまりオレゴン)、これを飲むと地元感が伝わってきて落ち着きます。“おしゃれ”にしない、かっこつけない、あえて洗練しすぎない、しかし誠実に、常識とトンガリ具合の絶妙なバランスをおさえて作り、地元の人の暮らしの中で生かす、という感じ。土着感のワインなのに、泥臭くもならずぼんやりもしないのがまたいい。バサルト土壌の上昇力と緊密さ、そして自根の腰の強さはさすがあるからです。これで価格は2000円程度なのですから、お買い得です。
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恐るべきミネラル感と透徹した意思力と強烈な酸で印象を残したのが、カリフォルニアのScribe。収穫日は8月13日から25日という早さ。アルコール11・5%、TA10・1、pH2・99、そして残糖0・0です。この数字から、どれだけ過激な味かが分かるでしょう。特に残糖0・0というのは初めての経験でした。甘さを完全に消去すると、リースリングはここまで厳格で苛烈な味になるのだと分かります。ワインとは「人間と自然の健全な関係の結果」であるとホームページで謳うこの生産者はナチュラルな造りで、いかにもニュー・カリフォルニアな個性。私は初めて試飲しましたが、周囲の方に「スクライブも知らないのか、もう何年も前から有名で、人気のリースリングだ」と言われました。これを読まれている方にはすでにおなじみのワインなのかも知れませんが、まだ飲まれていない方は是非試していただきたいと思います。
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アメリカのリースリング産地として注目を集めるのが、ニューヨーク。頁岩土壌が基本みたいですから、それもメリットですね。カナダ国境近く、フィンガー・レイクスのAnthony RoseのArt Seriesは、緻密なミネラル感としなやかな味わいで、ニューワールドの中では相当ヨーロッパ型の上品さ。あか抜け感・淡々とした気配・知的なおすまし具合が、私にとってはいかにも東海岸味だと思えます。

ニューヨークのリースリングの中ではこれが姿形が最も整っており、余韻も長い。特筆すべきは香りで、多くのワインが似たり寄ったりの培養酵母のぬるっとした香りになってしまいがちなところ、これは天然酵母だけあって、まともなワインの香り、つまりミネラリーで複雑な香りがしました。ニューヨークのワインは最近相当レベルが高いようですし、これからますます人気になるでしょう。地域の資金力と需要を考えれば、やる気になったらまずいものが出来るわけもない。日本からニューヨークに行く人は何十万何百万といるわけで、その方々にとっての地酒として飲んでいただくだけで、将来にわたって巨大な需要が続くはずです。
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オーストラリアのリースリングとしてGrossetは欠かせません。ポリッシュ・ヒルは世界最高のリースリングの一本として、リースリングファンのセラーに不可欠な一本です。もちろん青色粘板岩土壌のポリッシュ・ヒルの冷たく硬質で人を寄せ付けない磨き上げられた味は、誰も否定する人がいないほど素晴らしいのですが、より厚みがあって流速が遅い、表土が厚くて石灰岩土壌のスプリング・ヴェイルは、緊密なミネラルがありながら料理との融和性に優れ、とても使いやすいワインです。値段もはるかに安いですし、この認証オーガニックの自根ワインは広く勧められるアイテムだと思います。

西オーストラリアの老舗(1974年初ヴィンテージ)、Plantagenetは、相変わらずの出来のよさ。値段も安いのがいいですね。普段使いの西オーストラリア・リースリングとしておすすめです。どこでも売っているポピュラーな存在ですから。産地はMount Barkerですから、鉄鉱石。独特のゴツさと粘りと厚みがあって、やはりMount Barkerは好きだななと思いました。輸入元の方に、「この前マウント・バーカーに行ったらお昼ご飯食べるところがなくて難儀しました」と言ったら、「あそこはなんにもないところですよ、よく行きましたね」と。そのなんにもなさ(トリップアドバイザーでマウント・バーカーを調べてみてください。愕然とします)が、ワインにとってはいいわけです。人の手あかがつかない、おおらかな自然の味がします。そしてフィロキセラもいない。グレート・サザンはどこも無灌漑・自根。これは巨大なアドヴァンテージです。
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ニュージーランドのピラミッド・ヴァレーは、自社畑ピノ・ノワールの圧倒的な品質(世界のトップレベルです!)については皆さんご存知だと思いますが、契約畑のブドウで造るRose Family Vineyard Rieslingも素晴らしい出来です。アルコールは14・8%と、リースリングとして最高と言っていいぐらいの高さですが、アルコール臭くありません。温度調整もせず、リースリングとしては珍しく無清澄・無濾過。ヨーロッパのリースリングは、意識の高いところでさえ濾過するのが普通ですから、きれいですが、どうしてもパワー感や厚みが抜けてしまう。それに対してこのリースリングは、きれいとは言えない味ですが、生々しい力が横溢していますし、噛みごたえがあり、余韻も極めて長く、かつ立体的な構造を最後まで失いません。すごいワインです。

 

 ニューワールドのリースリングの忘れてはいけない魅力は、値段の安さ。赤ワインやシャルドネと比べてずっと安い。収量が多いわけでもないし(というか、リースリングは低収量です)、質が悪いわけでもないのに、なぜこんなに安いのか。ひとつの理由は、樽を使っていないからですが、その生産コストの差を考えても安い。ある生産者が「需給関係が理由で安い値付け」と言っていました。ワイナリーは他の万人受けするワインで儲けていただいて、ものが分かる人がリースリングを安く買う、という図式。大変にけっこうなことです!

田中克幸氏のブログはコチラ

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