コラム 2016.01.10

【オーストリアのワイナリー】世界一変なワイナリー?「モリッツ」

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モリッツ

 ブラウフレンキッシュランドと呼ばれ、誰もが認めるブラウフレンキッシュの代表的産地であり、事実この品種の産地として最も早い2005年にDACに認定されたミッテルブルゲンラント。この地の中心ホリチョン村に位置する、創業1964年の、所有畑3haのみという極小オーガニック・ワイナリーがモリッツである。といった説明は正直どうでもいいと思えるほど、モリッツはキャラの濃い、いや濃いどころではなくひたすらヘンなワイナリーだ。

 ワイナリーの前庭を歩いて入口に辿り着くまでの30秒間が大変に長く感じられる摩訶不思議な彫刻やオブジェや装飾物の洗礼を受けたあと、ワイナリーに入ると、さらに異様な世界が待っている。こればかりは実際に行って体験してもらったほうがいい。私も様々なワイナリーを訪問してなまじのことでは驚かない耐性が出来ているが、それでも「世界で一番へんなワイナリーで賞」を贈呈するなら、ここしかない。

 モリッツの当主アフルレッドはもともとワインを造りたかったわけではない。「両親の仕事を見てワイン造りなんて世界最悪の仕事だと思っていた。畑仕事もいやだし、セラー作業もいや。だからウィーン大学に入って薬学を学んでいたが、環境問題に関心をもつようになり、中途退学して動物愛護や国立公園の環境保全といった運動をする自然保護団体で働いた。しかし2004年に父が引退。「その時に父は畑を全部売るつもりだったのだが、自分がそれを止めた。ワインのことは何も分からなかったので一応ルストにあるワインアカデミーやクロスターノイブルグで学ぶことにした。しかし授業は超退屈で、2、3日でやめた。減酸とか減タンニンとか、つまらない話だ。だから栽培・醸造は自分自身で一から考えた」。

※セラーの中は、普通ではない雰囲気。しかし同時にワインがまるで家族の一員のように見える。

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 彼のワイン造りの考えは簡単。自然保護団体出身なのだからオーガニックは当然。「セラーでは自分は怠け者。時間があれば畑でブドウが育つのを見ている」。とはいえセラーの中はいたるところ彼の芸術作品で覆われている。ワイン造りには怠けてもビジュアル創作活動には怠けていない。ワインラベルじたい、異常だ。フェルトを切って自分で糊で瓶に貼り付ける、厚みのあるラベル。少し斜めだったりするのもまた味わいがあって素晴らしい。日本に持って帰って冷えた瓶をしばらく部屋に置いておいたら瓶が結露してラベルがベローンとはがれてしまったが、これもまた味わいだ。とにかくなんでも手作り。すべてにアフルレッド・モリッツの血が通い、すべてが彼の美意識・思想の表現になっている。一言で言うなら、芸術作品としてのワインだ。

 

 もちろんのこと、彼のワインは他とは違う。他がいかにも「ワイン」な味がするなら、彼のは「ワイン」ではなく、発酵した自然なブドウジュースの味がする。誤解しないで欲しい、これは最大の賛辞である。彼のワインを飲んだあとに他の生産者を訪問してテイスティングすると、それがビオディナミだろうがなんだろうが、妙に工業的に感じられてしまって困る。

 村の東部にある重たい粘土質土壌のホーヘッカーの畑と、粘土・砂利・砂が混じって少し高い場所にある村の西部のグファンガの畑のワインを比較すると、前者はいかにもホリチョンらしい重厚さと強いタンニンがあり、一般にはこれが評価され、また実際に値付けも高い。しかし、個人的にはポジティブなエネルギー感と抜けのよさに優れた後者のワイン、グファンガのほうが好きだ。ドイチェクロイツとホリチョンの中間的と言えばおわかりだろうか。大樽と古い小樽で熟成しているため、樽臭さがなく、テロワールの質が直接的に感じられるのもよい。ちなみにモリッツでは1種類のワイン以外は、そう呼べる内容だとしてもDACを名乗らない。それはDAC呼称の取得のためにお金を払わないといけないからで、それも小規模ワイナリーのほうが大規模ワイナリーよりずっと高価なのだという。「それは話が逆だろう」と彼が憤るのも分かる。組織への上納金がないぶん、グファンガは信じがたいほど低価格。お勧めのミッテルブルゲンラントのブラウフレンキッシュは何かと聞かれれば、これをまず挙げたい。<田中克幸>

※新しいキュヴェ、亜硫酸無添加のブラウフレンキッシュ、ハンドメイド。毎年いろいろ実験するようで、2015年には小樽にブドウをそのまま入れて発酵。

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 ブラウフレンキッシュのワインとしては、他には亜硫酸無添加の「ハンドメイド」や、ブラウフレンキッシュとツヴァイゲルトとレーズラーの混植混醸「コントラ」も素晴らしい。このワイナリーで一番安いツヴァイゲルトには驚いた。「誰もホリチョンのツヴァイゲルトがいいとは思わないようだが、実際はこれがいいんだよ」。確かにそのとおり。グファンガとホーヘッカーの二か所の畑のブレンドとなるこのワインには、ホリチョンの重厚なパワー感・存在感がちゃんと表現されている。むっちりとした粘土質土壌の質感はむしろブラウフレンキッシュよりツヴァイゲルトのほうに合っているのではないかとさえ思った。<田中克幸>

ノイジードラーゼーの若き才能「トマス・レーナー」に続く

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