コラム 2016.08.25

チリ最大の家族経営ワイナリー ルイス・フェリペ・エドワーズ

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※1800ヘクタールという広大な所有畑に対応すべく、ルイス・フェリペ・エドワーズの醸造施設も巨大だ。


 1976年にルイス・フェリペ・エドワーズ氏がコルチャグアの地で60ヘクタールの地所を購入し、創業したワイナリー。しかし当時はワインが売れず、生食ブドウを販売したり、紙パック入りのワインを造っていたらしい。瓶詰めを始めたのは1994年という最近の話だ。しかし会社は成功し、今では1800ヘクタールを擁し、家族だけで株式の100%を所有する家族経営ワイナリーとしてはチリ最大の規模に成長した。

 ルイス・フェリペ・エドワーズの功績は、もとは平地の畑ばかり(そうでなければ昔ふうの冠水灌漑ができない)のチリで、1998年という非常に速い時期に、もともとの畑の裏手にある山を切り開いてブドウ畑を作ったことだ。今でこそ冷涼産地が話題となり、またヒルサイド畑が多くなっているが、彼らのパイオニア精神を忘れてはいけない。エリアとしてはコルチャグア・アントレ・コルディヘラスだが、標高900メートルにある畑は麓よりも気温が2、3度低い。先見の明があったということだ。
※奥の山の上に畑があるのがお分かりになるだろうか。よくぞまあそんなところに!
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 商品数は非常に多い。ホームページを見ると、アイコンとしてドニャ・ベルナルダ、その次にLFE900シングル・ヴィンヤード、LFE900マルベック、LFE100カリニャン。レイダ産のマレアが4品種。そして9品種を揃えるグラン・レゼルヴァ、さらに10品種とロゼから成るレゼルヴァ、その下に9品種から成るクラシック、それに加えてオーガニックのロザ・ブランカと甘口がある。ワイナリーでテイスティングした時は、加えてカベルネ・フランとテンプラニーリョもあった。ドニャ・ベルナルダはカベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ、カルメネール、プティ・ヴェルド、プティ・シラー、ムールヴェードル、LFE900シングル・ヴィンヤードはシラーズ、カルメネール、プティ・ヴェルド、グルナッシュ、ムールヴェードルと、ピラミッドの頂点にあるワインが他では見られない複雑怪奇な品種構成をしているのが興味深い。
※山の上にあるブドウ畑で、創業者の娘婿で営業担当のニコラさん。
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 全体としてルイス・フェリペ・エドワーズの味はチリというよりカリフォルニア的だと思ったが、彼らのワインは接ぎ木のブドウから造られると聞いて納得した。フィロキセラはいないとはいえ、「これからどうなるかわからない。リスクを回避しておくほうが正しい。また適切な台木を選ぶことで樹勢のコントロールができ、質のよいブドウが得られる」とのこと。その説明はあちこちで聞く。チリの自根ワイン独特の大地に深く入り込んでいくかのようなダークな側面を期待したら肩透かしだろうが、分かりやすく明るいフルーティさを求めるなら接ぎ木のワインはむしろ好ましいと言えるかも知れない。
※アペラシオン的には、コルチャグアの山の畑のワインを軸として、マウレとレイダがある。最もおいしいと思ったのはマウレのカリニャンだ。どのワイナリーでもカリニャンの素晴らしさは不変。
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自根論議は長くなる。個人的には自根で育つなら自根に越したことはない、というか、根までカベルネのワインのほうが上半身だけカベルネのワインより、おいしいかどうかは別としても「正しい」味なのではないかと思う。自根がいいと思う人は、もう直観的に、「当然だ」と言う。そうでない人は、自根と接ぎ木のワインにはいかなる科学的な差もないこと、あるはずもないことを指摘する。ワイン学者やプロの醸造家やワインの勉強をした人たちからすれば、自根ワインと接ぎ木ワインの味が違うと言う人は、ないものをあると言っているUFOマニアの類と同じであって、既に計測値としても厳密なテイスティング結果としても差がないことは証明されているのだから、なぜその論点を持ち出すのか、と憤慨するだろう。だから自根が好きと主張する私に拒否反応を示し、「このいかれオカルト野郎!黙ってろ!」と蔑む人は、ルイス・フェリペ・エドワーズの接ぎ木のワインの素晴らしさを世に広めて欲しい。

ヒルサイドの畑ならではの特徴は、味のよどみのなさ、流速の早さである。その点はきちんと評価しないといけない。問題は、除草剤の使用である。平地ならトラクターを通せばいいが、広大な急斜面の畑で除草剤を使用しなければ、人手に頼るしかなく、そのコストたるや莫大になる。斜面=良好な排水性であり、花崗岩土壌ということもあり、灌漑量も増えるだろう。というわけで、接ぎ木&除草剤&灌漑の味が好きな人は、ルイス・フェリペ・エドワーズのワインが好きだろう。実際各地でメダルを多数受賞し、評価も高く、人気も当然高く、だからこそ短期間でこれほどの企業に成長したわけで、客観的に言うなら、世界の大多数の人は接ぎ木&除草剤&灌漑の味が好きなのだ。

もし「いかれオカルト野郎」のたわごとに付き合う慈悲心がおありなら、私が好きなのは、まず、大変にコストパフォーマンスがよい、ロザ・ブランカ。95%のカベルネ・ソーヴィニヨンに5%のカルメネール。熟成は半分がステンレス、半分が古い樽。このワインだけはオーガニックで、もちろん除草剤の味がしない。そして、LFE100カリニャン。これはマウレの古木のワインで、自根、無灌漑だ。軽快で涼し気な2011年も、腰が据わって濃密な2012年も、どちらも素晴らしい。どれほど否定されようと、私はこうしたワインが好きなのだからしかたない。人それぞれ好き嫌いがあって当然だ。ただ、自分の心の命じるところに忠実に、周囲のあざけりに惑うことなく、おいしいと思ったものをおいしいと言うべきだ。不幸なのは、心の目で見ず、心の舌で味わうことのない人たちである。

※クラシックなスペイン・コロニアル・スタイルで統一されているオーナーの自宅で夕食をいただいた。野菜も肉も、シンプルな調理法が素材の素晴らしさをそのまま伝え、おいしい。おかわりをたくさんしてしまった。概してチリの食材は、パワーがありながらやさしい性格の味。特に今回はじめて知ったのが、チリのアヴォカドの質。この夜も出てきたが、日本で食べるアヴォカドよりずっとくせがなく上品。チリの食事のほうが、ある意味、輸出産品であるチリのワインより、チリの人々のおだやかで品のよい性格が分かりやすく表現されていると思う。チリは汚職率が大変に低い国として有名だが、ようするにまじめで品があるのだ。
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