コラム 2018.01.20

アルザス Domaine Louis Scherb

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Louis Scherb1
▲遠くからでも目立つドメーヌの外観。  グベルシュヴィール村からゴルデールの丘を見上げると、右上に大きな家が見える。それがルイ・シェルブのドメーヌだ。訪問中もひっきりなしにお客さんが入ってくる。オフシーズンでこれなら、ヴァカンス時期ならさぞ人気のワイナリーなのだろう。輸出はわずかなようだが、輸出する必要がないと言うべきなのか。
Louis Scherb2
▲数多い訪問客に解説するアントワーヌ・シェルブさん。

ゴルデールが好きで、お買い得な認証オーガニックを欲するなら、クロード・ウンブレヒトと並んでルイ・シェルブの名が挙がる、はずだ。両者とも2013年に認証を取得している。しかし後者は日本には輸入されない。ものすごく安く、ワインはおいしいのに、日本人はゴルデールが好きではないのかと訝しく思うほどだ。
ルイ・シェルブは現当主アントワーヌの妻の祖父の名前。1690年から続く農家だったシェルブ家はルイの代に複合農業からブドウ栽培に専業化したそうだ。12ヘクタールの所有畑からアルザスの例に漏れず数多くのワインを造るが、ゴルデール以外は、まあ、普通のワイン。アルザス・リースリングとアルザス・グラン・クリュ・ゴルデール・リースリングの価格差は二倍弱なのに、その品質差は二倍どころではない。比較しようもないほど違う。逆に、こうして飲むと、いかにアルザス・グラン・クリュがお買い得かが分かるし、どれほどゴルデールが優れたテロワールかを思い知る。
Louis Scherb3
▲テイスティング・ルームに置かれた価格表。ゴルデールの質を思えば安すぎると思える。 ゴルデールの丘のあちこちに数多くの小区画を所有する。ゆえに味わいに多面性があり、ゴルデールの全体像をとらえるには有益なワインだ。シェルブはここからリースリング、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネールを造る。必ずしもリースリング向きの土壌ではないのになぜ、と聞くと、「アルザスではゲヴュルツトラミネールが成功する畑はどの品種でもうまくいくものだ。ゲヴュルツトラミネールの栽培が一番難しい」。それは大変に興味深い意見だ。アイシュベルグやフュルステンタムやキルシュベルグ・ド・バールのように最上のゲヴュルツトラミネールが出来る畑は、石灰質土壌でも確かにリースリングも素晴らしい。
Louis Scherb4
▲ドメーヌの前のリースリングの区画。 実際、シェルブのゴルデール・リースリング2015年は、今回の取材のひとつのテーマである“石灰のリースリング”の魅力を最大限伝える傑作である。引き締まって堅牢でいながら外向的なパワーがあり、垂直的で下半身が安定し、クリーミーな果実の滑らかさと芯の粒々したミネラルの固さが調和して、スケールの大きな、飲みごたえのあるワインになっている。リンゴ、レモンのコンフィ、グレープフルーツといった塩辛さのある清涼系果実の香りはいかにも石灰のリースリングで、そこにアプリコット的な快楽的で豊満な香りが加わり、香りの面からもスケールが大きい。余裕の力がもたらすある種のふてぶてしさはジュラ紀のグラン・クリュに期待するとおりのものだ。とはいえ、毎年がこれほどの完成度ではない。天候に恵まれた2015年はブドウの状態がよく自生酵母で発酵されたのに対して、翌2016年は培養酵母での発酵。自生酵母での発酵はやはり複雑性が違う。
Louis Scherb5
▲セラー内部。写真左に見えるパイプに水を流して温度調整する。 ワインの質はオーガニックになってから明確に向上している。オーガニック転換中の2011年を飲むと、それ自体では大変によいワインだとしても、2015年と比較すると余韻が短く、焦点が緩く、下半身が弱いと思えてしまう。もう誰でもわかっているとおり、オーガニック栽培(認証の有無はともかく)は現代の高品質ワインにとって前提条件なのだ。
Louis Scherb6
▲ゲヴュルツトラミネールはゴルデールに期待する通りの安心の味。リースリングは、石灰系グラン・クリュにおけるリースリングの可能性を知る興奮の味。

ゴルデール・ゲヴュルツトラミネール2015年は想像どおりの素晴らしさだ。すっきりと伸び上がる美しい香り。凹凸のない球状の形。空気感があるのに密度が高く、46グラムと多めの残糖だが酸がしっかりしていてバランスがよい。あまりの完成度ゆえに逆におもしろくないと思ってしまうほどだが、そのようなワインは最上のグラン・クリュでしか得られない。ゴルデール恐るべし、としか言いようがない。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加