コラム 2016.07.11

ウェハースとワインのファミリー ロアカー

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※ボーゼン北東の山中、シュヴァルホフ・エステートの中に建つロアカーのワイナリー。文献上1334年まで遡ることができる、歴史ある地所だ。

 ロアカーのワインは以前から信頼して飲んでいた。1979年創業当時からオーガニック栽培を行い、ビオディナミに長年取り組んでいるワイナリーだけあって、緻密かつしなやかな質感で、芯の通ったミネラリーな味わい。オーガニック系の試飲会でも時を問わず安定した品質が印象的で、「ビオ」な不安定さが微塵もないのがいい。オーガニック認証はあるがビオディナミ認証はない。「この地でビオディナミを我々が初めて行ったのに、なぜデメテールにお金を払って認めてもらわねばならないのか」と、ライナー・ロアカーさんは言う。

 彼らの本業はワインではない。「うちはお菓子屋さんなんだよ、知っていたか」と言われて、「ああ、あの、よくスーパーや高速道路のサービスエリアで見るブランドか」と思い出した。ヨーロッパはむろん日本でも、言われてみれば同じロゴのついた袋菓子を見てきた。意識してみると、うちの近所のスーパーのレジ横にも置いてある。ウェハースでは世界を代表する生産者だろうし、一般の消費者にとって南チロルで一番有名な食べ物かも知れない。しかしワインとお菓子が一致しないのは、日本ではワイナリー名はロアカー、お菓子のほうはローカーと呼ぶからだ。

※オーナー一族でセールス担当のライナー・ロアカーさん。シュヴァルホフの二階のオフィスで。

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 お菓子に関しては世界的大企業だから、最先端の建築の中で有能なワインメーカーに任せて造らせているのかと想像するかもしれないが、見れば普通の質素な田舎家。その中にロアカーさん本人が座って働いている。「あなた自身がちゃんと働いているんですね」と言うと、「他に誰が働くんだ、うちは小さな企業だ」。お菓子のほうも、着色料なし、保存料なし、水素化油脂なし、のナチュラルな味を一貫して追求しているという。兄のハイアーさんはディジョン大学を出てワインメーカーを務める。もうひとりの兄弟はホメオパシー薬品の専門家だそうだ。金儲けのお菓子&道楽のワイン、ではないのだ。

 畑はザンクト・マグダレナーの生産地区にあるワイナリー周囲のシュワルコフに3・5ヘクタール、近隣のコールホフに2ヘクタール、アイザックタラーに1・5ヘクタール。年間生産量は6万本。名声のわりには少なくて驚いた。彼らはトスカーナにも進出し、96年にモンタルチーノのコルテ・パヴォーネ、99年にマレンマにヴァルディファルコを創立し、こちらの総生産本数は30万本もある。モンタルチーノのワイナリーには行ったことがあるが、実直かつ陰影のある味で、南チロル出身のセンスを感じるものだった。

※渓谷の北側、南向き斜面に畑がある。ヴェルナッチやラグレインはペルゴラ仕立て、国際品種はグイヨ。

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 ザンクト・マグダレナー・クラシコは、ロアカーならではのくっきりとしたミネラル感があり、酸が高めで、アペラシオンの隠されたシリアスさを感じさせる味。ラグレイン品種のワイン、グラン・ラレインは、よくある泥臭いラグレインとは異なり軽快なリズム感が見事。香りに華やぎがあって、この品種に対する認識を新たにする。カベルネ・ソーヴィニヨンとラグレインのブレンドであるプレミアム・キュヴェのカストレットは堂々としてのびやか。ふくよかな果実味と堅牢な構造の高度な両立に感心する。ザンクト・マグダレナー・クラシコ地区の秀逸なテロワールはここでも明らかだし、それを生かす彼らの長年の取り組みの成果は、きちんとどのワインからも受け止めることができる。<田中克幸>

※赤ワインは清澄せず、樽熟成ワインであるラレインやカストレットはそれに加えて無濾過が基本。

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