コラム 2018.01.26

アルザス Domaine Leipp-Leinninger

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バールの町の中心部にあるドメーヌ。キルシュベルグ・ド・バール、ゾッツェンベルグ、ウィーベルスベルグのみっつのグラン・クリュを所有する。
 2010年からオーガニックを始めており、自然なワイン造りに対して意識が高い。同じように考える若手生産者との交流も多く、彼らのキルシュベルグ・ド・バールの一部をクライデンヴァイスのウィーベルスベルグの一部と交換したほどだ。「そんなことをした人は我々が初めてではないかな」とジルベール・ライニンガーは言う。「どうせならウィーベルスベルグではなくカステルベルグがいいと提案したらよかったのに」と冗談で言うと、「それは無理に決まっている。カステルベルグは小さいし」。

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▲こじんまりした試飲カウンター。

 ワイン造りは着実で、むしろ古典的と言ってよく、気合が先走った若手オーガニックワイン生産者の一部のように、アンフォラ&SO2無添加のオレンジワイン=自然なワイン、といった短絡的な考え方は持っていない。それだけに地味な性格だとはいえ、低い収量ゆえに十分な凝縮度があるワインは安定感がある味わいだし、酸化しない程度の塩梅をわきまえた低いSO2の添加量ゆえに不快に思うこともない。現時点でのよい落としどころだと思える。

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▲セラーの中には伝統的な大樽が並ぶ。

 キルシュベルグ・ド・バールの畑に行くと、あらためてこのグラン・クリュの特別な性質を確認することになる。畑は相当な急斜面で、雨後だというのに表土がぬるぬるとせず、あまり粘土っぽくない。ゾッツェンベルグと比べて冷風が当たらないので、収穫が早い。だからワインの味は、三畳紀泥灰岩・石灰岩土壌にありがちな重たさが皆無で、抜けがよく、ふっくらとした優美な果実味が備わる。すくすくと育ったかのように平和で、ある意味良家のお嬢さん的な明るい品のよさがある。典型的な“グラン・クリュ味”という点では、1983年認定グラン・クリュと1992年認定グラン・クリュのあいだには平均をとればレベル差があると常々思うが、キルシュベルグ・ド・バールはカステルベルグやウィーベルスベルグやキルシュベルグ・ド・ベルグビーテンと並んでバ・ランでは少数派となる1983年組。この畑がそうでなければいったい何がそうなのだと思う、グラン・クリュらしいグラン・クリュ。ゆとりのある完成された味わいだ。

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▲バールの町に向かって転がり落ちるほど斜度のきついキルシュベルグ・ド・バール。

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▲キルシュベルグからバールの町、そしてその向こうにあるミッテルベルグハイム村のゾッツェンベルグを臨む。

 セラーでみっつのグラン・クリュを比較すると、典型的な個性が正確に描き出されていることが理解できる。ウィーベルスベルグのタイトで直線的な構造となめらかな表面と丸みのある酸とリンゴや洋ナシ的な白っぽい果実味と粒々した芯。ゾッツェンベルグのむっちりとした粘りと重心の低さとグレープフルーツ的果実味と太く強い酸。そしてキルシュベルグの華やかな広がり感とフローラルな香りと見事な垂直性とリズミカルかつしなやかな酸。どれが一番好きかを決めねばならないなら、私はキルシュベルグを選ぶ。ここでも石灰のリースリングが光る。
 ふつう、キルシュベルグ・ド・バールといえばゲヴュルツトラミネールだ。作付け面積中53%がこの品種。もちろん期待してテイスティングしたのだが、このドメーヌでは残糖過多で形状がフラットで気配感が乏しい。他生産者での印象を総合すると、もはやゲヴュルツ最高の畑としてのキルシュベルグという評価は再考せねばならず、リースリングに注目せねばならない時代なのかと思う。その点ピノ・グリはゲヴュルツより空気の通りがよいような印象で、このグラン・クリュに期待したい伸びやかさが感じられた。

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▲キルシュベルグ・ド・バール畑からはリースリング、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・ノワールが造られる。

 キルシュベルグ・ド・バールの歴史的評価を決定づけた、フィロキセラ以前にはアルザスで最も高価なワインを産出していた区画、クロ・ツィセールを通りがかった。今では知る人しか知らないので、テロワールは偉大でもワインは安い。2007年や2009年のクロ・ツィセール・ゲヴュルツトラミネールは、栽培醸造上のもろもろの問題点があるとしても、圧倒的な高貴さをふりまいて印象に強く残る。私にとって最も好きな畑。しかし「1年前に売却されて今では銀行所有になった」。なんと。「そうなって投資がなされてかつての栄光を取り戻すことができると思うか」と聞くと、「そうは思わない。機械収穫しているのを見た。時代に逆行している」。困ったものだ。この畑がバール村とは関係ない所有者のものになるのがいいことだとは思えない。このような国宝級の畑はバール村の共有財産にして、皆で畑の手入れを行い、毎年別々のドメーヌに醸造させたらいいのにと思った。
 ライプ・ライニンガーではキルシュベルグの一部をピノ・ノワールに植え替えている。既に稼働している場所もあるし、これから植える場所もある。ピノの畑としてキルシュベルグをとらえなおす動きはこのドメーヌでも見られる。むしろこのドメーヌではピノに未来を賭けていると言えるほど積極的だ。それは正しいことに思える。しかしワインは期待に一歩及ばない。アルザスでは悲しいかな一般的に見られる問題がここにもある。樽のなじみの悪さが顕著で、ミッドが薄く、グラが足りず、腰の安定感に不足する。それは自覚されていることなので、どうすればよいのかは、ライニンガー夫人に作っていただいたランチを食べながら十分に議論した。以降どう進化していくのか楽しみだ。
 このドメーヌは伸びしろが大きいと思われるので、あえてワイン全般に見られる問題点を指摘するなら、垂直性、特に上方への開放感の不足である。もちろん既に十分な品質であるとしても、ポテンシャルはさらに高いはずなのだ。日本のワインファンの多くはビオディナミのスペシャリストだから、上方垂直性を増幅するためにはプレパラシオン501を使えばよい、とアドバイスできるだろう。しかし501は500と相補的な存在であって、オーガニックであってもビオディナミではないライプ・ライニンガ―が501のみ使用しても効果があるか否かは疑問だ。さらに501は成熟促進剤とみなすことができる以上、地球温暖化の中ではアルコール度数の上昇というマイナスの側面もある。私は私なりのアイデアを伝え、その場でできることは実験して見せた。ダメだと言うのは簡単だが、重要なのはどうすれば改善できるかを共に考えることだ。皆さんもこのドメーヌを訪問したら各人のアイデアを伝えて欲しい。ライプ・ライニンガ―は必ずや期待に応えてくれると信じている。よいアイデアを着実に具体的な形へと仕上げてくる、研究熱心で地に足がついた生産者だからだ。

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