コラム 2017.01.12

ジャン・リュック・テュヌヴァンに聞く ボルドーのオーガニック

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Bordeaux Rioja 112

※サンテミリオンの町中にある、ジャン・リュック・テュヌヴァンのオフィス兼ワインショップで話を聞いた。
1991
年を初ヴィンテージとして僅かな土地と資金で始めたシャトー・ヴァランドローを、2012年にはプルミエ・グラン・クリュ・クラッセの地位まで高めた、現代ボルドーの最重要ワインメーカーのひとり、ジャン・リュック・テュヌヴァン。常に最新のトレンドに目を配り、品質向上に余念のない彼は、冷静に業界とワインを分析することができるワイン界最上の知性でもある。そんな彼をサンテミリオンに訪ね、ボルドーのオーガニックと、最近の彼の関心事について聞いてみた。

※「白ワインのほうが純粋だ。いろいろなことがよく分かる」。インタビューは、ヴィルジニー・ド・ヴァランドロー・ブランを飲みながら行われた。確かに彼の繊細さ、生真面目さ、知性を感じるためには、赤より白のほうがいいと思う。私には彼の白は精巧なガラス細工のように感じられ、飲んでいて緊張するほどだ。

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田中克幸(以下田):近年多くのシャトーがオーガニックを取り入れています。この流れについてコメントをいただきたい。
ジャン・リュック・テュヌヴァン(以下J):「ボルドーでは昔からオーガニックは存在していた。我々も2014年からクロ・バドンでオーガニックを始めた。それ以前に2000年から2001年にかけて、同じくクロ・バドンでオーガニックの実験をしたが、風味が青臭く、ブドウが熟す前に腐ってしまった。だからその時は実験をやめた」。

田:なぜ再び始めたのですか。
J:「それは銅の質がよくなり、効能が大きくなったからだ。また昔の銅はブドウの成熟を遅くしてしまったが、最近では相当改善されてきた。銅はよくない。我々の土地でも草や虫が死んでしまった」。

田:銅そのものの質?
J:「そう、だから使用量も減らすことができるし、実際オーガニック生産者は毎年少しづつ銅の使用を減らしてきている」。

田:なぜクロ・バドンを選んだのですか。ヴァランドローはオーガニックにしないのですか。
J:「オーガニックにするとpHが低くなり、銅の質が向上したとはいえやはり成熟が遅くなるから、砂質土壌でpHが高く、ブドウの成熟が早いクロ・バドンがちょうどいい。現時点のオーガニック薬剤の性能では、冷たい土壌でクロ・バドンより成熟が2、3週間遅いヴァランドローには無理だ。今のペースで進歩すると数年たったらヴァランドローでも使えるぐらいの性能になるだろう」。

田:そもそもなぜオーガニックにするのですか。
J:「果物より肉よりシャンプーよりワインに対してオーガニックが期待される。それはワインがファンタジーの商品だからだ。しかしオーガニックにする最大の理由は、畑で仕事をする人の健康のためだ。ワインそのものへの農薬の残留は計測すると非常に少ないが、労働者の健康は被害を受ける。誰でも人間は病気になるのが一番こわい。ボルドーの将来を考えれば、皆オーガニックになるだろう」。

田:SO2に対する関心も高まっていますね。
J:
「近年ではエノロジーの知識が進歩し、皆が衛生の観念をもつようになった。昔はブレタノミセスが当然だと思われていたのに、今では皆がそれを欠陥だと思う。いま求められているのは純粋なワインだ。過去20年間でSO2は30%削減されたが、それは衛生のおかげだ。昔なら白ワインを飲んで頭が痛くなったものだが、今はそんなことがない。甘口でも頭が痛くならない。以前は悪質なカビの害をなくすためにSO2を大量に入れる必要があったが、今では選果をするからカビが少なくなり、SO2も少なくなった。樽も昔は汚かったが今では古樽でもスチームできれいにするからSO2使用は少なくて済む。カビは発がん性がある。一番大事なのはきれいな粒のブドウだけからワインを造ることだ。カビを防ぐにはグレープフルーツの種の油を散布するとよいということがアメリカで研究されている。最近はいろいろな実験がされ、栽培技術が進歩している。クロ・バドンでも油と銅を混ぜて使っている。とはいえ、いいことだけとは限らない。将来は新しい製品が出てきて味に変化があるかも知れない。化学製品を使ってイチゴの味になるとか」。

田:サンテミリオンについて何かひとこと。
J:「サンテミリオンは競争が激しく、妬みもある。投資家がシャトーを経営するようになったが彼らはサンテミリオンに愛情がない。進歩するにはサンテミリオンではすべてにお金がかかる。今のサンテミリオンはファンよりスターの数のほうが多い」。

田:ここ5年ほどサンテミリオンに来ていないので、そのあいだヴァランドローで何が起きていたのかキャッチアップしたいと思います。
J:
「SO4台木やよくないクローンの区画を植え替えた。メルロとカベルネ・フランの新しいクローンは素晴らしい。比重選果機Tribaieを導入した。これを使うことでセニエを少なくできる。樽屋さんと相談して樽もさらによいものにした。トーストはさらに弱くし、もっと果実を感じ、ヴァニラ風味が弱く、ブリオッシュ風味がより多くなるように。樽屋さんも進歩している。技術は日々進歩している。だからいつも最新技術を研究している。私はワインがさらによい質になるよう、いつも考えている」。

田:最後に、あなたが評価するオーガニック生産者はいますか。
J:
「リベラ・デル・デュエロのピーター・シセック。彼はビオディナミに真面目に取り組んでいて、変な思想をもっていない。彼は一番賢い生産者だし、自慢しないし、優しい人だ。彼はうちで研修したが、今では先生より生徒のほうが背が高くなった」。

※シャトー・ヴァランドローは「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセに昇格したあとのほうが値段が下がった」という。昔は投機的ワインの代表のように揶揄されていたが、今ではまっとうすぎるほどまっとうなグラン・ヴァンだ。最上質のサンテミリオンが飲みたい人には素直におすすめできる。しかし、サンテミリオンが心底好きで普通に飲むという人はあまり見たことがないし、そうしたくとももはや無理な値段の産地だ。
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