コラム 2016.05.11

【ブルゴーニュ】オーガニックの老舗 ジャン・ジャヴィリエ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
DSC00128

※「うちはお金がないから7ヘクタールの畑を身内の3人で面倒を見る。正直、大変だ。本当なら4人は必要なんだ。オーガニックはお金がかかるし、リスクも大きいから、小規模生産者には厳しい。瓶だってラベルだって小ロット発注になるから割高」と、苦労話を語る、アラン・ジャヴィリエさん。

ジャン・ジャヴィリエ

 

 多くの人がオーガニック・ワインとブルゴーニュ・ワインを好むのだから、当然オーガニックのブルゴーニュに興味がある人ばかりだと思う。その割には、オーガニック・ワインの話を誰もしなかった時代から孤軍奮闘してきた最初期の功労者、つまりドメーヌ・デ・ヴィーニュ・デ・メーヌ、ドメーヌ・ギ・ショーモン、そしてドメーヌ・ジャン・ジャヴィリエの名前を聞くことが少ない。例えばみつまめの話をするなら創始者「若松」の功績を語らないわけにはいかないだろうに。今は知らないが、何年か前にギ・ショーモンを訪ねた時、「日本には輸出されていない」と聞いて逆に驚いた。彼らの努力があればこそ今の素晴らしいブルゴーニュがあるのだから、輸入してくれとはいわないが、最低限表敬訪問をして感謝の言葉を直接伝えなければ不義理になってしまう。

というわけで私も遅ればせながら訪問したジャン・ジャヴィリエ。1972年にオーガニックを始め、76年にナチュール・エ・プログレの認証を取った、ブルゴーニュで三番目、ムルソーで最初のオーガニック生産者だ。現当主アランも、「今はコンサルタントがいるから簡単だが、昔は教えてくれる人がおらず、すべて自分自身で試行錯誤するしかなかった」と言う。それだけの苦労をあえてするには、真剣な理由がある。「父親のジャンはアレルギー体質で病弱だった。記憶障害があり、通常の薬を飲んでも治癒しなかったのだが、ホメオパシー療法に切り替えたらよくなった。さらに伯父がパーキンソン病になって死んだ。それは農薬のせいだった。昔の農薬は現在のものより有害で、神経毒だったからだ。だから化学的な農薬はやめてオーガニックにしようと思った」。我々が「オーガニックのほうがおいしい」とか「地球環境によい」とか気楽に言うことができる今という時代は、ある意味ありがたいものだと思う。

ドメーヌの所在地はムルソーだが、造るワインはムルソーの他に、ジャンの妻から引き継いだヴォルネイとポマールがある。ムルソー1級ポリュゾは広がり感や明るいパワー感が素晴らしいし、ナルヴォーと並んで村名の中ではよく知られるティレの単一畑ワインも硬質なミネラル感がよい。このドメーヌならではのワインは、ムルソー・ヴィエイユ・ヴィーニュ。ノーマルのムルソーが普通のシャルドネのワインなのに対して、これはシャルドネ・ミュスカテ品種のワインだ。「昔はシャルドネと一緒にブレンドされていた」亜種で、今でもマコンには比較的多く生き残っているようだが、ムルソーのような超有名産地でこの品種に出会ったのは初めてだ。名前から想像できるように、シャルドネよりもずっと香りが華やかで、フルーティな味わい。「女性はだいたいムルソー・ヴィエイユ・ヴィーニュのほうを好む」と言うが、通常のムルソーがリースリングなら、こちらはゲヴルツトラミネール。しかし酸はないし、構造も緩い。だから最上のワインは、ヴィエイユ・ヴィーニュ、ノーマル、ティレの3つのワインのブレンドだ。何度も言っているように、今のムルソーは村名のキュヴェを細分化しすぎている。本来なら素晴らしいワインができるポテンシャルをもつムルソー、村名でも素晴らしいムルソーは、自らの力を制限してしまっている。世の中の人はそれでいい、むしろそのほうがおいしいと思っているのだろうし、「素人は黙ってろ」とバカにされるだろうが、私は白いものは白く黒いものは黒いとしか言えない。シャルドネ・ミュスカテは畑面積の5%から10%ぐらいまで復活させるべきだし(それを言うならピノ・ブラン、ピノ・ブーロもそうなのだが)、ムルソー村名単一畑はやめて斜面下から上まで適切にブレンドすべきなのだ。

※シャルドネ・ミュスカテ品種で造られるムルソー・ヴィエイユ・ヴィーニュ。生産量は3樽から5樽。

DSC00131

※ワイナリーの裏にあるムルソー・ヴィエイユ・ヴィーニュの畑。ドメーヌ創業者である祖父が植えた、樹齢100年の樹。「収量が少ない品種で糖度が高い。昔はムルソーにたくさん植えられていた」と言う。

 

DSC00134

赤も素晴らしい。マセラシオンは13日間と短めで、色が薄く、軽快で抜けがよい。長年オーガニックだから土の状態がよいのだろう。ふっくらとして厚みがあって、なめらかでいて芯のしっかりとした、親しみやすくも気品のある味。「7度で低温浸漬して30度で発酵してさらにそのあと60度のマセラシオン・ショーをするたぐいの色の濃い現代的ブルゴーニュとは違う」、コート・ド・ボーヌならではの美点を備えた素直で欲のないワインだ。チャーミングなヴォルネイ・クロ・デ・シェーヌ、大きく力のある高貴なヴォルネイ・カイユレ、穏やかにフルーティなポマール1級(フレミエとコンブ・ドゥスーのブレンド)、かっちりとミネラリーかつ華やかなポマール・リュジアン(オーの最下部、バから5メートルの区画)。それぞれの畑に期待する個性が、さらっと上品に表現されている。

唯一の難点は、若いうちはSO2が目立つことがあることぐらいか。フリーSO2で白が90、赤が80という値は、現代のオーガニック・ワインとしては少し多いように思う。最大認可量が100なのだから、相当ギリギリではないか。「うちのクルチエが言うには、輸送や店舗の状態を考えれば輸出用ワインにはそのぐらいの量が必要だ、と。地元のみで消費されるのならそんなにはいらないだろうけど、輸出用と国内用と別々のワインを造るわけではないから」。これは難しい問題だ。確かに、セラーで飲めばおいしくても実際に店で買ったら酸化しているようなワインより、セラーで飲めばSO2が目立つとしても店で買っても同じ味のワインのほうがいい、と言われて反論はできない。もちろんフリーSO2が激減する5年後に飲めばいいだけのことなのだから。

質を思えば価格は良心的。おいしいけれど高くて買えないワインばかりになったブルゴーニュで、ここの値付けはうれしい。そして安心できる認証オーガニック。ムルソーのオーガニックは、他にラフォン、ルーロ、ピエール・モレ、レミ・ジョバールしかいないと思えばなおさらお買い得。自家消費用にお勧めのブルゴーニュはどこですか、と聞かれたら、私は今ならドメーヌ・ジャン・ジャヴィリエと答えたい。しかし生産量は少ないので(ワインによっては280本!)、見つけたらすぐに買わないといけないだろう。<田中克幸>

※補糖は少なく、2015年でゼロなのは当然としても、2014年のような熟度が低い年でさえ白でゼロ、赤でも0・5度分のみ。白赤ともに無濾過で、白はカゼインやベントナイト、赤は卵白で清澄。

DSC00127

  • このエントリーをはてなブックマークに追加