コラム 2017.08.22

ジャパン・ワイン・チャレンジ2017-2

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【田中克幸氏による解説を解説する】
今年で20回目を迎えたワインコンテストJWCが、本日、終了しました。私にとっては17回目の審査員。本年も興味深く参加することが出来、機会を得られた事に感謝致します。

さて、同じ審査員仲間のワイン評論家である田中克幸さんが、自身のFB ページの中で、JWCを題材にしつつ、ワインの評価方法に関しまして持論を展開していて、これが実に興味深い。そして、その内容は"昨年、一緒に対談した際の記事(ジャパンワインチャレンジを振り返って)"とも繋がっているのです。

FBページ記事の行間を読めば(私は会場にいなかったので推論ですが)、JWCのパートナーでもあり、世界的ワイン教育の標準スキルでもあるWSETの上級資格,Diplomaで行われるテイスティングアプローチとは、異なる意見を持っている・・と言うよりか、相容れない部分があると・・。そう理解出来るのです。

さて、私自身はWSET Diploma Holderを育てる立場。ここで反論すべき・・なのでしょうが、田中さんの仰る事は良く分かる。何故ならワインを評価する行為は、システム(テイスティング・アプローチ)だけで成立する訳ではなく、テイスターの属人性によるもの、例えば個人の経験、思考能力、嗅覚・味覚の感度と統合能力、感覚を言語化する力・・等々の、その人の天賦の才、並びに鍛練による部分の働きが大きいと。

では、WSET Diploma のテイスティング・アプローチが役にたたないかというと、そんな事はなく、キチンと活用することで、ワイン評価に寄与することに繋がる。

では何故、ロンドンから来たWSETの教育担当者と田中氏と意見の相違が出るのか。それは二人の評価アプローチが異なるので当然な事なのです。

そこで田中さんのテイスティング・アプローチを"演繹法的ワイン評価法"。WSET Diploma のアプローチを"帰納法的ワイン評価法"と仮に名付けて、その違いを考察してみたいと思います。

先ず"演繹法的ワイン評価法"では、一般的なルールや約束ごとに観察事項を加えることで、先に大前提を決め(仮定の結論をセットする)て、その要素を分析、分解して結果的に必然(普遍のルール)を導きだすというアプローチです。閃きや発想を大切にし、ある意味、因数分解の様にアプローチすることもあり数学的方法と言えなくもないです。

例えばFBページの記事のカリフォルニア シャルドネを例に取りますと:
田中さん的演繹法では、テイスティングして「バランスが悪く高品質とは思えない(感想)」
→評価の為の分析→「各コンポーネンツのバランスが悪い」→「栽培品種の選択、目標ワインのスタイルの選択が間違っている」→「行われているであろう灌漑や補酸は芳しくない」→「よってこのワインは低品質である」←結論・・となる訳です。

一方、"帰納法的ワイン評価法"は多くの観察事項(事実)を積み上げて考察し、得られた結果から必然(評価)を導くというアプローチです。実験による記録を積み上げる方法にも似たこのアプローチは、理科的評価とも言えなくないでしょう。

つまり上述のシャルドネを例に例に取りますと「濃い色」+「風味も強くオークトリートメント」=インテンシティ強、「バランスの取れた酸味(補酸はネガティブ要素ない)」、「フルフレーヴァー+フルボディ」。全体的に大きいサークルを描くバランスの取れたリッチなシャルドネ→とても良い品質の高級ワイン・・といった結論となる訳です。

と、二つの評価方で評価そのものが異なってしまっているのですが、その判断の差異が生じるのは上述のように属人的な要件の方が大きいと思う一方、原則的に演繹法的アプローチと帰納法的アプローチには以下の特徴があると考えられます。

まず演繹法的評価法は、仮定を事実かどうか一つづ検証していくため、時間はかかるが、得られた結論は力強いものになる。

一方、最初の大前提である「ワインの感想」に偏見や誤りがあれば、正当な結論とはいえず、また、途中で論理が破綻すると結論までたどり着けない。

一方、帰納法的評価法に於いては短時間に結論を導き出せるため、結果重視の場合に向いている。また、最初に全体像を捉えられなくとも、論理的に結論へ導いてくれる。

しかし、その結論は統計的に導きだされたものであり、データ数(情報量)が少なければ推論にしか過ぎない場合もある。

つまり、ある分野に深く精通していれば、その分野の対象物に関しては演繹法的評価法が有効なのに対し、そうでない場合は、帰納法的評価法が有効なアプローチと考えられる訳です。

ワインの分野でもスペシャリティを持つことが重要だと、理解出来ますね。

という訳で、田中さんとWSET Diploma的なアプローチと、どちらが正しい・・ということではなく、その特徴を把握した上で、TPO合わせて使い分けをしていく。そこら辺を自在に操れる様になると、ワイン審査員ワークも、もっと充実したものになると思います。

「田中克幸さんの記事:日本橋浜町ワインサロン ジャパンワインチャレンジの事前セミナー」
https://m.facebook.com/story.php…
*参考「Wine Communicate ジャパンワインチャレンジを振り返って」
https://www.wine-communicate.com/column/about-jwc/

numata
沼田実
ワイン輸入会社での勤務経験、醸造家としての海外実習およびソムリエ経験を活かした多彩な講義内容が特長。特にコンテストの審査員として培われた論理的テイスティングには定評がある。
テイストアンドファン株式会社代表取締役
WSET®認定Level4Diploma
公式プロフィールはこちら

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