コラム 2017.01.16

初心者向け ボルドー赤ワインの基本

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redwine

 ボルドーワインが日本に輸入されるフランスAOCワインの半分を占める以上、日常生活においてフランスワインをより楽しむためには、好き嫌いは別としてボルドーに関する知識はあっても損することはない。ボルドーが皆無のワインショップやフランス料理店は珍しいだろう。サヴォワが選択可能なほど多く揃っているケースは逆に珍しいだろう。ならば同じ量の知識でも、役に立つ機会が多いのは前者の知識である。

 「ボルドーに関する知識」というと、すぐに1855年のジロンドの格付けや2012年のサンテミリオンの格付けを暗記することのように思われる。それはそれで大事なことだが、多くの消費者にとってシャトー・ラトゥールやシャトー・アンジェリュスはあってもなくても直接的には影響のない類のワインだ。基本はそこではない。格付けは全部暗記しているのに、「では、この料理に合うワインはどれですか。そしてそれはなぜですか」と聞いて即答できないなら、なんのための知識なのか。ネジの型番をすべて暗記しているのに扉のヒンジのネジを締められないようなものである。

 

 ボルドー赤ワインの基本とは、消費者にとって、ボルドー赤ワインの選び方の基本、である。いくつかの視点から述べてみたい。

 

1、          ボルドーは「水」のワインと認識する

 最初に認識しておくべきは、ボルドーは全体として見れば、柔らかい煮込み料理、しっとりとしたロースト、鍋物に合うワインである。なぜならボルドーは海や川のすぐ近くに畑がある水辺ワインの典型であり、水辺ワインはしなやかなものである。またボルドーは雨の多い産地であり、雨が多い産地のワインはしっとりした質感をもつ。フランス全土の中でもボルドーは場所的にも降水量的にも「水」がキーワードとなる。

 この個性は白ワインより赤ワインのほうによく出ている。ボルドーの白ワインは往々にして固い味で、ワインの使いこなしは白のほうがはるかに難しい。そもそもボルドーは全体としては赤ワインの産地であり、また日本の消費者のあいだでもそうみなされているだろうから、以下、赤ワインについてのみ述べる。
ジロンド川

 

2、          川からの距離で選ぶ

 1で述べたように、ボルドーは全体としては水辺のワインであるが、その中でも水により近い畑もあれば、遠い畑もある。しなやかな「水辺」性は前者のほうで顕著に表れるのは言うまでもない。ちなみに格付け上位のワインの畑は基本的に川の近くにある。つまり、ボルドーは伝統的に水辺の味をよしと認識しているということである。

 水に近ければよりしっとり、しなやか、こまやかな味になり、水から遠ければよりメリハリがあり、タンニンが太く、たくましい味になる。それは消費者にとって質的上下の問題というより、必要とする個性の選択の問題である。ひな鶏ささ身、牛ヒレ、ラム背肉のようにキメが細かい肉質の部位には水から近い畑のワインを、地鶏もも肉、牛ランプ、ラムもも肉のように相対的により筋肉質な部位には水から遠い畑のワインを選べばよい。調理法に対応して水から近いか遠いかを使い分けることもできる。同じ肉でも魚でも、焼いたら固く、煮たら柔らかいからである。

 ではどうやって水との距離が分かるのか。それは産地名とボルドーワインの地図があれば分かる。産地名はラベルに書いてあるし、地図はすぐに検索できる。

 水に近い産地としては、「メドック」、「サンテステフ」、「ポイヤック」、「サンジュリアン」、「ブライエ・コート・ド・ボルドー」、「コート・ド・ブール」、「フロンサック」、「カディヤック・コート・ド・ボルドー」、「コート・ド・ボルドー・サン・マケール」、「グラーヴ・ド・ヴェイル」の名前が挙げられる。

水に遠い産地は、「ムーリス」、「リストラック・メドック」、「モンターニュ・サンテミリオン」、「リュサック・サンテミリオン」、「ラランド・ド・ポムロール」、「カスティヨン・コート・ド・ボルドー」、「フラン・コート・ド・ボルドー」、「サント・フォワ・ボルドー」といったところだろう。
ボルドー地図

 

3、          土壌が砂系か粘土系かで選ぶ

 ワインの味は畑の土で変わる。だから望む味にたどり着くには土を知ればよい。畑の土はいろいろな視点から細かく分類ができるだろうが、大きくは砂系か粘土系のふたつに分けるのが便利だ。砂系の中には砂や砂利が含まれる。粘土系の中には粘土石灰が含まれる。砂、砂利、粘土、粘土石灰はボルドーでよく見る4つの代表的な土である。

まずはワインの性格に着目する。さらっとして軽快で開放的な性格と、ねっとりとして重厚で堅牢な性格に分けるなら、前者が砂系の土に植えられたブドウでできるワイン、後者が粘土系の土に植えられたブドウでできるワインである。この違いは、春向きの前者に秋向きの後者としてとらえることもできるし、昼向きの前者に夜向きの後者としてとらえることもできる。料理のタイプとも関係づけられる。さらっとした質感の料理(たとえば鍋物にポン酢)には前者、ねっとりした質感の料理(たとえばビーフシチュー)には後者である。

次に味の重心に着目するなら、前者は重心が比較的上であり、後者は重心が比較的下である。重心の上下は合わせる料理の素材と関連する。つまり、鳥類やラムには砂系を、豚肉や甲殻類には粘土系を選ぶ。いたって簡単なルールである。

 ひとつの産地の中でも砂が多いところもあれば粘土石灰のところもあり、なかなか産地名と土のタイプは一対一対応しない。たとえばポムロールやラランド・ド・ポムロールは西側は砂系、東側は粘土系、サンテミリオンは北、西、南が砂系、中央から東側は粘土系である。だがネットで当該ワイン生産者のサイトを見れば、必ずと言っていいほど畑の項目の中に土のタイプが書いてある。

 砂系が多い産地の代表は、「オー・メドック」、「サンジュリアン」、「フロンサック」であり、粘土系は「サンテステフ」、「リストラック・メドック」、ブライエを除く一連の「コート・ド・ボルドー」であろう。

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4、          品種で選ぶ

 ワインの味は品種によって変る。ボルドーの赤ワインの基本品種は、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランである。

 今まで見てきた味わいの違いは品種に関しても該当する。上記の並び順でねっとり系からさらっと系の味になり、また上記の並び順でだんだん重心が高くなる。柔らかいか固いかで言うなら、メルロは柔らかく、両カベルネは固い。実際のワインはこれらの品種のブレンドであり、各品種の比率を見れば、どういう味なのかは想像できる。この情報はワインの裏ラベルに書いてあることもあるし、ワイナリーのサイトを検索すればほぼ確実に書いてある。

 具体的には分からなくとも、左岸のワインや砂系のワインはカベルネ・ソーヴィニヨンが多く、右岸のワインや粘土系のワインはメルロが多いのが普通だから、産地名を見ればおおよその想像はできる。

 

 以上の項目を演算すれば、希望する味のボルドー赤ワインを探すことができる。きめ細やかでふわっとしてソフトなワインを求めるなら、水に近くて砂系土壌でメルロが多いワインを探せばよく、それは例えば「フロンサック」から得られるだろう。また、ざくっとしてどっしりとして硬質なワインを求めるなら、水から遠くて粘土系土壌でメルロが少なめ(前述したように粘土系土壌にはメルロを植えるのが常だから、カベルネが多いとは言えず、メルロが少なめとしか言えない)のワインを探せばよく、それは例えば「フラン・コート・ド・ボルドー」で得られるだろう。 

 このような基本を理解すれば、ボルドーの赤ワインは初心者にも選びやすいワインである。ボルドーに限ったことではないが、でたらめにワインを買っていても、当たる確率は大変に低い。
カベルネS

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