コラム 2016.01.10

【オーストリアのワイナリー】温かみのあるソーヴィニヨン・ブラン「ハネス・サバティ」

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※ハネス・サバティ。2005年に父からワイン造りの任を引き継ぎ、このワイナリーを一気に表舞台へと引き上げた。

ハネス・サバティ 

 ウィーンのホイリゲは有名だが、ズュートシュタイヤーマルクにもワイン居酒屋、ブッシェンシャンクがある。多くのワイナリーはワインを作っているだけではなく、敷地内にブッシェンシャンクがあって自家製のワインと軽食を楽しめるようになっている。風光明媚だし、ワインの平均的品質が高くて値段は手ごろだし、ワイナリーは個性豊かだし、食事もおいしいし、ここはワイン好きの旅行先として筆頭に挙げられるべき産地だ。そして1860年創業の老舗、サバティでも、当主である若いハネスがワインを造り、祖母がキッチンで指揮を執る。野菜も栽培しているし、ハム等はおじが作っているらしい。

※シュタイヤーマルク名物の巨大な豆のサラダに、かぼちゃオイルをたっぷりかけて。ブッシェンシャンクの料理はどれもシンプルでおいしい冷菜。

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 ハネス・サバティによれば、「ここは1800ヘクタールの畑に対して1500軒のワイナリーがある。つまり競争が激しく、みんな頑張るから、産地全体のレベルが上がる。ワインだけ作っていても商売にならないから、ワインツーリズムも盛んになる」。しかし現在のような状況になったのはここ15年ほどのことで、1990年頃まではどこも複合農業で、ブドウは大手生産者に売っていたのだという。

 ズュートシュタイヤーマルクは新しい産地だと言っていい。いまは誰でも代表的品種がソーヴィニヨン・ブランだと思っているが、それさえ30年前ぐらいに始まった変化の結果。サバティでも「祖父の代はミューラー・トゥルガウ、ショイレーベ、ウェルシュリースリングが主な品種。ソーヴィニヨン・ブランもあったが、5から10%程度。そもそも20年前まではムスカート・シルヴァーナーと呼ばれていた」。

香港でオーストリアワインマーケティングのウィリー・クリンガー会長に会った時に当時の事情を聞いてみると、「1985年以降の大変革の中、いろいろな品種が植えられていて産地のアイデンティティが不明瞭だったズュートシュタイヤーマルクでは、植えるべき品種は何かという研究が始まった。その音頭を取ったのがファルスタッフ誌だった」。

ハネスも「昔は質より量のための品種が多かったし、ここは雨が多いから栽培が難しい。ヴァッハウの2倍、ブルゲンラントの4倍の降水量だ。そこで、毎年いい品質のワインが出来る品種は何か、というのが大きなテーマだった。そうしてまずシャルドネとソーヴィニヨン・ブランが選ばれ、そのあとソーヴィニヨン・ブランがメインとなった」と言う。

 ハネスによれば、産地は主な土壌によって4つのエリアに大別される。「南西部がオポック。北部もオポックだが実質的にはブドウ畑がないので除外。西部はシスト。東南部は石灰を含むオポック。そして我々の畑があるゲームリッツ村といった中央部は砂岩や砂、砂利」。そして「標高は中央部から北部が一番高く、最高地点は600メートル。ワイナリーのある場所は498メートル」。

 ここから想像がつくとおり、ハネス・サバティのワインは、軽い土壌ならではの明るいフルーティさと雨の多さがもたらすしっとり感と標高が高い斜面の畑らしい冷涼感と抜けのよさが合わさった味がする。つまりゲームリッツは、多くの人がソーヴィニヨン・ブランに期待したい性質がよく表現されるエリアなのだ。オポック(泥岩)のエリアが日本では有名だが、そこでは味がトロリとして重たくなる。土壌的には同じフリウリ・コッリオのソーヴィニヨン・ブランと同じだ。もちろんそれはそれで素晴らしい個性だが、一般的にはやはりこの中央部のソーヴィニヨン・ブランを基本とすべきだろう。

※ソーヴィニヨン・ブラン・シュタイリッシュ・クラシック。このベーシックなワインが、サバティの実力をよく物語る。

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サバティもこの地の多くのワイナリーと同じくオーガニックへの関心が高いから、オーガニック認証こそないものの、もちろん除草剤や殺虫剤や化学肥料は使用せず、きちんと地に足のついたミネラル感がある。その心地よいミネラル感がよく分かるのが、Steierischer Mischsatzシュタイリッシャー・ミシュサッツ。シャルドネ、ゲルバー・ムスカテラー、ソーヴィニヨン・ブラン、ショイレーベ、ヴァイスブルグンダー、ヴェルシュリースリングの混植混醸ワインだ。軽やかでいて複雑で、いろいろな料理に合う、まさに食卓のためのワイン。あえて一般的な呼称であるゲミシュターサッツと言わないのは、「それはウィーンの名前であって、ここでは伝統的にミシュサッツと呼ぶ」からだ。

ゲームリッツの高名な畑、砂礫質のクラナッハベルクのソーヴィニヨン・ブランはトロピカルでリッチな果実味と低めの酸がいかにもこの土壌の味。しかし個人的に好きなのは、一番安いソーヴィニヨン・ブラン、Steirisch Klassikシュタイリッシュ・クラシック。これはサバティが所有するあちこちの畑のブレンドで、ゲームリッツ村の砂質畑のブドウを中心として、オポック、シスト、石灰の畑のブドウをも含む。つまり、ズュートシュタイヤーマルク全体を包括するような、すっきりしつつもさりげなく重層的なワイン。より上級で高価な単一村ワイン、ソーヴィニヨン・ブラン・ゲームリッツよりも複雑で、イキイキしている。そしてこのワインもまた、ブッシェンシャンクの軽やかな料理とよく合う。

安いワインのほうがおいしいというのはオーストリアでよく経験すること。地元で愛され、居酒屋で楽しまれる、いい意味で力の抜けたそういったワインの質の高さに、ワイン文化の国であるオーストリアの底力を思い知らされる。<田中克幸>

レヒニッツの新星「ストラーカ」に続く

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