コラム 2016.01.10

【オーストリアのワイナリー】淀みのないワイン表現「ハーガー・マティアス」

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ハーガー・マティアス

 カンプタルはもともと温暖なこともあって、パワフルタイプのリースリングとグリューナー・ヴェルトリーナーで人気を博してきた産地だ。酸が低くアルコールが高くトロピカルな風味のあるそれらのワインは、クリエイティブなガストロノミー的な文脈においては興味深い相性を生み出すことができるとはいえ、最近の主流ではない。近年ではよりミネラリーで酸のしっかりした過熟感のないワインへと変化してきており、それは喜ばしいことだと思う。

※ハーガー・マティアスのワイナリー前にあるグリューナー・ヴェルトリーナーの畑。土壌はレス・ロームで柔らかい。

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 ヴァッハウと比べてカンプタルが秀でている点は、なんといってもビオディナミへの意識が高いことである。ブリュンデルマイヤー、ユルチッチ、ロイマーといった日本でも高名な生産者が揃ってビオディナミだという事実の意味は大きい。カンプタルにはもうひとり、忘れてはならないビオディナミ生産者がいる。マティアス・ハーガーである。この地で6代続く老舗ワイナリーで、2009年にオーガニック、2010年にビオディナミの認証を得た。上記の3人とは「一緒にビオディナミを学んで皆で2006年に始めた」仲間である。

マティアスによれば、カンプタルでビオディナミが盛んな理由は、「ルドルフ・シュタイナーの両親がカンプタル出身だったから。彼らはここ(モランド村)から20キロほど離れた村の人だったが、クロアチアに引っ越してルドルフ・シュタイナーが生まれた」。実際は両親が住んでいたのはモランドから北に30キロ強の、チェコ国境に近いゲーラスで、ワイン産地的にはヴァインフィアテルなのだが、まあ近い。お膝元意識が高いのだろう。

※辺鄙な場所にあるが、モダンなレストランを併設。弟が料理を作り、奥さんがサービス。ワインと料理の一体感、そして家業的な温かいノリ。オーストリアはこれがいいのだ。

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 ハーガーがいまひとつ有名ではないのは、カンプタルの中心地ランゲンロイスからはずいぶん離れた場所で、ランゲンロイス北側の丘を中心とする日本でも知られる一連の畑(ガイズベルク、ケーファーベルク、シュタインマッスル、ハイリゲンシュタイン等)を所有していないからかも知れない。

ブルゴーニュ的思考を敷衍して常識的に考えれば、それらエアステ・ラーゲに認定されている畑がよいテロワールであり、そこからのワインが優れた品質ということになる。ハーガーの畑はいかにもゴージャスな巨大な急斜面ではないし、土壌はレス・ロームで、皆が好きな変成岩や火山岩ではない。しかしカンプタルの非レス・ロームのエアステ・ラーゲは基本、灌漑を必要とする。見た目はよくとも灌漑必須の急斜面の畑と、見た目は盛り上がらないが灌漑不要の畑と、どちらが農業として自然なのかと思う。私は常々灌漑には疑問を呈しているが、そうするといつも「灌漑しなければ枯れてしまうではないか。そのほうがいいのか」と批判される。それは論点が違う。再び言うが、灌漑しなければ枯れる土地にブドウを植えるべきか、そのまま育つ土地にブドウを植えるべきか、どちらが筋か、ということだ。オーストリアワインが好きな人は自然の則を意識し、ビオディナミに造詣が深い人ばかりなのだから、ビオディナミ的にどちらに正当性があるかを考えていただきたい。

※収穫日寸前のグリューナー・ヴェルトリーナーを、「道中食べて下さい」と渡されたが、ブドウの味があまりに濃密・パワフルで、少し食べたら満腹。

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 ハーガーは何十種類ものワインを造るが、お勧めはゲミシュター・サッツだ。グリューナー・ヴェルトリーナー、フルーローター・ヴェルトリーナー、マルヴァジア、ミューラー・トゥルガウ、ピノ・ブラン、リースリング、シャルドネ、ムスカテラーの混植混醸。

極めて複雑な風味は当然ながら、ぴしっとした中心の筋が通っている垂直的な形が素晴らしい。個人的に大好きなワインは、ワインリストの端のほうにある、セッコ。ドイツでもセッコはよく見かける。低価格の炭酸ガス注入方式安直スパークリング。プロセッコ協会から訴えられないかと心配になる名前も、到底まともなワインとは思えない。当人もこれをまともなワインだとみなしていない風だ。これはツヴァイゲルトをダイレクトプレスした薄いロゼ(というか白)で、アルコールは10・5度しかなく、2014年が8割に2013年が2割のブレンド。残糖は10グラムから15グラム。しかしその味わいは、驚くほど鮮やかな筋の通った酸に強靭なミネラルを備えたシリアスな高品質。かつ外向的なエネルギー感にあふれて、飲んでいて楽しい。こういうワインがさりげなく低価格でできてしまうところに、逆にカンプタルそしてオーストリアのポテンシャルを感じるし、ビオディナミの威力を感じる。

 マティアスのワインに特徴的なキャラクターは、考えすぎていないこと。まるで一筆書きのように闊達で、エネルギーの流れに淀みがない。「僕は頭がそんなによくなくて学校の成績もだめだった。学校より家で、ワインを働きながら学んだ」と謙遜するが、ようするに理論的というより直観的・感性的なワイン、技術より芸術のワインだ。だからこそ他の生産者とは異なる独自の味が生まれ、他では得られない世界が見える。小賢しい味、理屈っぽい味、いい子ちゃんの味が好きではない、頭のよさとは無縁の私にとっては、うれしくなるようなワインなのだ。<田中克幸>

ズュートシュタイヤーマルク、温かみのあるソーヴィニヨン・ブラン「ハネス・サバティ」に続く

 

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