コラム 2018.01.20

アルザス Domaine Gueth

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▲ドメーヌ・ゲットの醸造所外観

 ジュラ紀石灰岩地質のグラン・クリュ、ゴルデールの丘最上部に区画を有するドメーヌである。現当主ジャン・クロード・ゲットの父親は、1982年にアルザスで最初にステンレスタンクによる発酵・熟成を行ったひとり。また空気圧圧搾機の導入も最も早かったと、ジャン・クロードの娘で共に醸造を行うミュリエルさんは言う。なかなか野心的なドメーヌかと思うが、ワインはいたって普通。地に足のついた、国内市場向けの味。輸出はまったく行わず、すべてフランス国内のみで販売される。それなのにどうしてうちに来たのかと聞かれた。もちろん、地元でしっかり支持される類の味だから、だ。

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▲ドメーヌ・ゲットの醸造所内部のステンレスタンク

「ワインは自分の好きなように生産するものではなく、自然の声を聞いて、自然が望む方向性を変えないように、自然を再現するもの」とミュリエルさんは言う。正直、誰でも同じことを言うものだ。言うのは簡単だが、実際に結果がそうなっているかが重要だ。栽培も醸造も特別変わったことがないゲットは、上記の発言のあとに普通なら続くだろうオーガニック栽培でもSO2無添加でもない。それでもゲットのワインは、自分にとっては最上のグラン・クリュのひとつであるゴルデールそのものの味がする。もちろんオーガニックだったら今よりよくなると信じるが、それでも非オーガニックでゴルデールらしいワインとオーガニックでゴルデールらしくないワインのどちらかを選ばなければいけないなら、私は前者を選ぶ。
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▲ミュリエル・ゲットさん。村をはるか下にみおろす標高の高い畑の前で。
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▲ゲットの区画の北隣にクロ・サン・ティメールが見える。

 この際、オーガニックかつ最上部というチョイスがない以上はしかたない。ゴルデールは最上部が特別な味がする。誰も否定しないゴルデール最上の区画はクロ・サン・ティメールであり(それはオーガニックではない)、その南側の同標高地点にゲットの区画がある。丘の頂上部には森があり、その地質はジュラ紀の石灰岩ではなく砂岩である。実際に森の中に転がる石を観察すると、確かに砂岩だった。「砂岩が風化して崩落し、その下の畑の土に混じる。砂岩が含まれる部分のゴルデールは塩味がある」。クロ・サン・ティメールの話をいまさらしてもしかたないが、砂岩が含まれると聞いて、なるほど、と思った。ゴルデールはミュスカで有名で、クロ・サン・ティメールのミュスカはアルザスを代表する一本。そしてミュスカは重い土に植えてはあのミュスカならではの軽やかな香りが出ないものだ。さらにゴルデールの石灰岩は魚卵状石灰岩であり、ワインの味わいには適度なメリハリと硬質な芯が備わる。また同じ魚卵状石灰岩でもフォルブルグより硬いという。石灰岩も粘土もありながらゴルデールの味わいに過剰な粘りや重たさがない理由が今回はじめてはっきりと見えてきた。
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▲ゴルデールの固い石灰岩。
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▲ゴルデールの上にある森は砂岩。これが風化、崩落して、ゴルデールの土壌に含まれる。

 さらなるゴルデールの魅力は、ジュラ紀ならではのパワー感やスケール感と共に、涼しげな風味や細やかで軽やかな質感が備わっているところにある。「ゴルデールは東向きで、朝早くから日光を浴び、夕方の強い光は受けない。そこが隣のハッチブールのように真南を向いていて夕方まで暑い畑と違う点だ」。その東向きのエレガンスが、砂岩の礫の含有と標高の高さ(最高地点で330メートル)によってさらに強められる。ゲットのワインが好きな理由である。
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▲ゴルデール ピノ・グリ。メリハリがあるが少し薄く、ボトリティス風味の強い2010年。開放的でスケールが大きく躍動感のある2011年。おとなしくフルーティーな2012年。極めてパワフルでいてバランスのとれた2015年。基本的にはゴルデールは涼しい年より暖かい年のほうが成功する。2014年は生産されなかった。

ゲットの考えは、「早摘みをしない。早摘みしてはフレーバーが出ない。2017年の収穫は、他の人たちは9月初旬から12日ぐらいだったが、うちでは9月26日だった」。だからたとえばゴルデール・ピノ・グリ2011年でアルコールは13・7度と高く、残糖は57・4グラムもある。涼しい2010年でもアルコールは13・79度、残糖は28・4グラムである。それでいいのだ。完熟しなければ、ゴルダールの金色な感じの味、ゴージャス感が出ない。そして完熟しても、先ほど理解したように、ゲットの区画ではワインの味わいが鈍重にならない。
ゲットはゴルダールにピノ・グリを植えている。ゴルダール全体の栽培面積比率を見ると、ミュスカ3ヘクタール、リースリング4ヘクタール、ゲヴュルツトラミネール11ヘクタール、そしてピノ・グリ3ヘクタール。マイナーな存在である。ピノ・グリは通常どっしりと重めの、酸の冴えがあまりない、重心の低い味になるものだ。しかしゲットのゴルダールは、この品種として例外的なほど華やかで軽やかで重心が高めのワインとなる。いかにもピノ・グリらしい温厚で骨太な包容力をもちつつ、くっきりとしたエッジの効いたミネラル感も備わり、さらにここまで上品なたたずまいになるところに、ゴルダールのゴルダールらしいゆえんがある。そして国内向けワインの例に漏れず、破格の安さ。なぜ輸入されないのかと思うほどだ。
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▲もともとの醸造所は村の中にあり、今はテイスティングルームになっている。 このような造りならばさぞSO2の含有量が多いのかと思うだろう。ところが2015年(まだリリースされていない。大傑作だ)のラボ分析数値を見ると、残糖44・4グラム、pH3.25に対してフリーで18ミリグラムだけ。これは低い。「なぜならCO2を活用して酸素との接触を防ぐから。それにはCO2を逃さないステンレスタンクの使用が前提だし、そのために導入したステンレスタンクだ」。さらに言うなら、ゲットは一切輸出されないからだ。家の前の豆腐屋で買う豆腐が気密パックされている必要はないのと同じく、近隣の人たちがドメーヌに来て買うワインに、SO2によって長旅のあいだの品質の安定性へ保険をかける必要はない。

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