コラム 2018.01.20

アルザス、Domaine de l'Envol

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▲ドメーヌを切り盛りする若いオーナー、左からラファエル(31歳)、カトリーヌ(28歳)、ダニエル(25歳)
 2016年8月に誕生したばかりの新しいドメーヌ。ドメーヌ・ヒルジンガーの娘カトリーヌ・ヒルジンガーが、メゾン・フロイデンライヒの息子ラフェエル・マルシャルと結婚し、そこにカトリーヌの弟ダニエルが栽培担当として加わり、両家が合体してドメーヌ・ド・ランヴォルとなった。ヒルジンガーはもともとオーガニック栽培をしており、2010年にオーガニック認証、2011年にビオディナミ認証を取得している。
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▲カトリーヌは以前アルザスのワインプリンセスに選ばれた。その時の油彩肖像画がテイスティングルームの壁に掛けられている。
 これほど出来たてのドメーヌを訪問するのは珍しい。ワイナリーの建物は2017年に完成したばかりで光り輝き、まだ訪問する人も少ないので対応は初々しい。両親まで登場して、クグロフを焼きました、と試飲中に持ってきてくださった。そこかしこにポジティブな気持ちが溢れ、ワインもまた、経験不足からか出来不出来はそれなりにあるにせよ、すべて若々しくも明るいエネルギー感に満ちている。
 畑は20ヘクタールとずいぶんと広い面積を所有する。すべて自社瓶詰めで販売するのは無理なのは確かで、生産本数は「霜の影響で収量が通常55hl/haのところ28hl/haになってしまった2017年は25000本」。そこから計算すると三分の二のブドウはネゴスに販売しているようだ。「ブドウ販売価格は、オーガニックだと通常のものより25%増し、ビオディナミだと35%増し」だという。これだけの価格差があれば産地全体のオーガニック化に対して有効な動機付けとなる。またオーガニックやビオディナミのブドウに対する高い需要の証左である。
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▲真新しいセラーの内部。
 グラン・クリュは、シュタイネール、フロリモン、ヴィネック・シュロスベルグの3つを所有する。しかしドメーヌのホームページに掲載された生産ワインリストにグラン・クリュは見当たらない。すべて2017年が初ヴィンテージで、まだタンクの中だからだ。いろいろ試飲すると、ヴィネック・シュロスベルグだけがビオディナミの味がしない。この畑は誰が造っても安定して一貫した味のするグラン・クリュだという印象があるだけに、他のワインとはまるで別人が造ったかのように、水平的で淡々として短いのが不思議だ。聞けば「カトリーヌの友人の畑2区画50アールを昨年売ってもらったばかりでビオではない」。やはり農薬の影響は飲めば明白に分かってしまうものだ。
 フロリモンは第三紀泥灰岩・石灰岩地質で、柔らかい厚みのある果実味とゆったりした緊張感のない性格が特徴だと思う。彼らはここに「ゲヴュルツトラミネール60から70a、ピノ・グリ20a、リースリング50aを所有する」。ジュラ紀グラン・クリュと明らかに違うのは、前2者のワインの出来がリースリングよりはるかに優れていることだ。これは第三紀では普通。ゲヴュルツやピノ・グリではやさしさ、丸み、厚みとしてプラスに感じられるフロリモンの特徴が、リースリングでは水平的な緩さへと若干傾いてしまう。本来ならフロリモンは混植混醸したらずっとよいワインになると思う。
 シュタイネールではグラン・クリュのワインを造っていないようだ。このグラン・クリュの畑から造られるのはピノ・ノワールとシルヴァネル。前者は固いタンニンが軸となる剛直な性格で、炭やスモークやチェリーの重たい香り。若気の至り的な力の入りすぎたところがある。立体感や余韻を見ると、さすがにジュラ紀石灰岩とピノ・ノワールという黄金の組み合わせだと感心させられるだけに、もったいない。アルザスでは完熟したブドウを軽く抽出し、樽をかけず、ドイツで言うところのミルト程度の甘さを残せばベストだと思っている。ブルゴーニュの方向を向くのではなく、昔のドイツのスタイルを現代的な視点で復活させればいい。もちろん、そのようなワインに市場性はないため、夢でしかない。
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▲グラン・クリュ畑から造られる、Sylvaner Manala 2016。
 最後に、今回の訪問の主眼、シュタイネールから造られる(ホームページには書いていないが)、シルヴァネール・マナラ。これは既に瓶詰めされて売られている。ジュラ紀のグラン・クリュのシルヴァネルと言えば、そう、ゾッツェンベルグである。こちらが泥灰岩土壌なのに対して、シュタイネールは魚卵状石灰岩。この差が大変におもしろい。高名なゾッツェンベルグはとろりとしたチーズフォンデュ的な、ないしMLFをしたシャスラー的な質感だと思うが、このシュタイネール畑のシルヴァネルはより堅牢でリズム感があり、のびのびとしている。重心が下でコクがあり、豚肉料理によさそうだ。こうしたグラン・クリュに植えられたシルヴァネルを飲むと、この品種の高いポテンシャルが分かる。味わいは明らかにグラン・クリュなのに、アペラシオンはグラン・クリュではないからか、値付けはグラン・クリュの半分以下。これはお買い得なワインだ。

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