コラム 2017.01.07

Domaine de Chevalier

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※ドメーヌ・ド・シュヴァリエのワイナリーは、もともとの建物につなげて1984年と1991年に建造された。なかなか端正なポストモダン様式で、機能主義に貫かれている。
 近年のドメーヌ・ド・シュヴァリエにはいつも感心させられてきた。農薬っぽい味がしない。プリムール・テイスティング等で一連のペサック・レオニャンと並べて飲んでみても、とりわけ秀でたミネラル感と余韻の長さがある。オーガニックと言われたらそうだろうと思う。以前プリムール会場で会ったオーナーは、「除草剤は使っていないし、オーガニック、ビオディナミを取り入れている。認証には興味がないが、さて将来はどうなるか」と言っていた。

 もともとドメーヌ・ド・シュヴァリエはよいテロワールであることは皆が知るとおりだ。砂利の堆積した年代が古い。いや知らなくとも飲めば分かる。抜けのよさ、精緻さ、上品さのレベルが凡百のグラーヴ地区のワインとは違う。土壌うんぬんは難しい話だが、このシャトーを訪れれば、55ヘクタールの畑は林に囲まれた一枚畑で、心地よい静謐さが広がる独自の世界を作りあげていることを知る。いわばブルゴーニュの「クロ」だ。他からの雑音も、悪い気も、農薬も、進入してこない。一言で言って、おいしそうな気配のある畑だ。シャトー・オー・ブリオンが好きな人なら特に同感していただけると思うが、同じく繊細でフローラルな方向性にあるワインの中でオー・ブリオンに次ぐのはこのワインだと思う。価格を考えればなおさら魅力的で、現在の高級ボルドーの中では格別なお買い得だと断言できる。
※案内してくださったアシスタント・マネージャーのレミ・エダンジュさん。熱心な語り口に引き込まれる。後ろに見えるのは畑で、周囲を木立に囲まれているのが分かる。
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 シャトーを案内してくださったレミ・エダンジュさんに、「とてもナチュラルな味がしますが、オーガニックではないんですよね」と尋ねると、「100%オーガニックでもないし、100%ビオディナミでもない。そもそもオーガニックはあまり好きではない」と、なかなか気になる答え。彼の言を続けて聞いてみよう。
※見ての通りの軽い土壌。ワインの味わいも抜けが良い。
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 「オーガニックと人が言う時、それは工業的ではなく、クリーンだ、という意味だ。その意味では我々と同じだ。しかしオーガニックは銅を多用する。銅は畑の微生物的環境に対するアル・カイダであり、よくない。そもそもなぜ銅を使うのか。ミルデューに対応するためだ。大西洋気候であるボルドーはイルーレギーの次に雨の多いフランスのアペラシオンなのだから、ミルデューと戦わねば最高品質のブドウは収穫できない。ミルデューの被害を受けては決して最高品質のブドウとはならない。ブドウの品質でワインの品質が決まるのは当然だ。大切なのは、エコシステムを尊重し、正しくコントロールし、保全し、発展させることだ。我々は葉の表面にしか作用しない銅の代わりにフォスフィル・アルミニウムを使う。これは葉の中にまで浸透するから効率がよく、使用量も削減できる。銅に固執するのではなく、何をどう使えば最良の結果になるか、グローバルな探究が必要だ。もちろんヴィンテージによっても使用量は違う。2007年は大問題だったからたくさん必要だったし、2009年は6月には必要だった。しかし2010年はまったく何もしなかった」。

 耕作には馬も使う。「4、5頭の馬を借りて毎年5、6ヘクタールづつ耕す。土の状態がよいところではミミズが増える。アフリカから渡り鳥がやってきてミミズを食べる。毎日畑にいれば、鳥がいる場所といない場所があることに気づく。いない箇所を馬で耕してコンポストを鋤入れれば、そこにミミズが増えて来年は鳥が来る。我々は自分たちで何をすべきか分かっているのだから、なぜ認証団体に1000ユーロ払って、既に知っていることを教えてもらわねばならないのだ」。

 畝の長さは最大で50メートル、ひとつの区画はそれが100畝。「仕事は人間がする以上、一度に集中して作業できる長さは50メートルが最大。作業の質が下がればブドウの品質も下がる」。大規模組織であるボルドーのシャトーらしい観点であり、理念はそれを実行すべき人が実際に実行できて初めて実現できるという、当たり前だが極めて重要なことを確認させてくれる。
※2014年ヴィンテージ以降の赤ワインの一部は、このイタリア、ヴェネトにある高名なNico Velo社のコンクリートタンク、「チューリップ」で発酵される。今まではステンレスタンクだったが、これからより厚みのある質感が得られるだろう。最初のタンクは自然酵母で発酵。それを酒母として残りを発酵し、「1992年以降は市販の培養酵母を使用したことはない」。
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※2015年からは80ヘクトリットル容量の楕円形オーク製木桶でも発酵。ルモンタージュの他、人の手でピジャージュする。こういったあたりは、コンサルタントであるステファン・デュルノンクールの影響だろうか。それにしても最近の変化は激しい。
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 ビオディナミは5、6ヘクタールで実験しているという。「2015年からはプレパラシオン501を使用している。ビオディナミとはさらなるエネルギーをブドウに与える方法。微生物のライフサイクルを尊重し、ブドウの樹を邪魔しない」。個人的にはさらにビオディナミを推進して欲しいが、認証が目的でなくてよい。デメテールにあらずんばビオディナミにあらず、という1か0かという考え方もあるだろう。しかし今は、あまり堅苦しいことを言ったり、ハードルを上げたりする段階ではない。シュタイナーの思想を多くの人が考え、個々人が判断して現実の中に取り入れていくことを奨励するほうがいい。譬えて言うなら、三位一体説を信じるか信じないかより、異端審問所を設置するより、まずは多くの人が聖書に触れるほうがいい。

 醸造に関しての発言を聞けば、彼らが相当程度ビオディナミストだということが分かる。「2013年に設置し2014年ヴィンテージから使いはじめた特別な形をしたコンクリートタンクの中では、マストの動きが止まることがない。完全な四角など自然には存在しない。バランスのとれた容器によってワインのバランスが生み出される。生命とはエネルギーであり、ダイナミックスのことなのだ」。2015年は8000リットル容量の楕円形の木桶も使いはじめた。早く2015年ヴィンテージが飲んでみたいものだが、2013年ヴィンテージですらそれ以前とは違うディティール感を備えており、2012年までの印象より軽快なリズム感がある。ドメーヌ・ド・シュヴァリエは、「1983年以降常に同じ方向で考えてきた」と言う。それでも最近の変化たるや急激だ。認証オーガニックでなくとも「オーガニック化」することでボルドーがどれほど進化するかの好例であり、もともと優れたワインであってもどれほど発展の余地があるかを示す好例でもある。これだからワインは楽しいし、飽きない。
※2011年以降白ワインの一部はタランソー社製の2000リットル容量オーク製卵型タンク、OVUMで発酵される。価格は3万ユーロらしい。私個人は縦型卵は理屈が通らないと思っているし、コンクリート製縦型卵はおいしくない場合のほうがおいしい場合より多いぐらいだが、OVUMの味は飲んでいないのでわからない。値段だけの価値があると信じたい。
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