コラム 2016.03.01

【レバノンのワイナリー】430ha擁する大生産者 シャトー・ケフラヤ

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シャトー・ケフラヤ Chateau Kefraya

 1946年に設立され、51年に9ヘクタールの植栽から始まったシャトー・ケフラヤ。現在は430ヘクタールを擁する大生産者であり、35か国に輸出され、日本でもその名を知る人は多いはずだ。

 このワイナリーでは、畑を見て回ることに時間を割いた。畑は基本的に丘のふもとにあるが、よく見ると平坦ではなく、微妙にうねっている。ではどこの部分のブドウがどういったワインになるのかと言うと、底になっている部分(つまり水が溜まる部分)が最高級ワインになり、斜面上がエントリーレベルのワインになり、その中間部分がミドルレンジになるのだという。つまり、ブドウにストレスがかからない区画がよい区画だということだ。夏にはほとんど一滴も雨が降らないベカー高原ならではの話だし、また、植えられている品種がカベルネ・ソーヴィニヨン主体だからだろう。

※カベルネ・ソーヴィニヨンの畑は平地に広がっている。地質的には第三紀のマールだが、表土には丘陵を形成する白亜紀の硬質石灰岩の礫が含まれる。同じ畑のカベルネ・ソーヴィニヨンでも、手前の盛り上がっている部分はエントリーレベルのLes Brethechesに、窪んでいる部分はプレステージのComte de Mに使用される。

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またここでは畑の区画ごとのカベルネ・ソーヴィニヨンをテイスティングすることができた。すべて1996年に植えられた樹で、栽培法、醸造法は同一。差異は区画だけだ。その結果は以下のとおり。

Bas Chateau Ouest区画

非常に深い表土。中新世のマール。平地。礫はほとんどない。

よく熟したタンニンとくっきりした固めの酸を備える、なめらかにフルーティなワイン。水平的。

Taht El Ras, Accueil Ouest区画

深い表土。中新世のマール。平地。礫はそこそこある。

タンニン粗く、酸強い。スパイシー、ミンティ、フローラルな香りと甘みの強い果実味。力があって、前者より余韻が長い。

Bas Chateau Est区画

深い表土。中新世のマールと白亜紀セノマニアンの硬質石灰岩。平地。礫は大変に多い。

スケールは小さ目で、乾いた味がするが、香り味ともにメリハリがあって、極めてミネラリー。

Saalouke区画

深めの表土。中新世のマールと白亜紀セノマニアンの硬質石灰岩。斜面。礫は多い。

さらりとした味だが、存在感が強い。しかし味わいの要素の数はそれほど多くない。

Dahr El Mogher区画

非常に深い表土。中新世のマール。平地。礫はほとんどない。

黒系果実の熟した風味が特徴的。スケールは小さく、エネルギー感が弱い。

 こうして見ると、同じような土壌でも味わいは異なり、まだまだ隠れた変数があるのだと思う。しかしよく言われるように、礫が多ければミネラリーに、礫が少なく表土が深ければフルーティになるというのは分かる。いずれにせよ、どのワインも帯に短し襷に長しであり、適切なブレンドがバランスを生み出すことを理解した。

 試験的に造られたグルナッシュ、サンソー、テンプラニーリョ、カルメネールそれぞれ単一のワインを、マセラシオン中の樽からテイスティングすることもできた。バリックを縦にして板を外して発酵に使用している。すべて同じ樽メーカーの樽であり、ピジャージュのやり方も同じだという。これがおもしろい。グルナッシュはのびやかで腰が据わり、酸もフレッシュ。サンソーはジューシーかつスパイシーで複雑で、濃密で、気品があり、余韻が大変に長い。テンプラニーリョは小粒で単調。カルメネールはグリーンペパーの風味と強調されたメリハリ感が興味深い。ここでも南仏品種の圧倒的な優位性が確認された。特にサンソーは、この品種単一のワインとして(それほどあるわけではないが)、今まで飲んだ中で最高だった。やはりレバノンではサンソーとグルナッシュを主軸に据えるべきなのだ。

※2009年に最先端の醸造設備へと一新されたワイナリーの内部。

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 しかしワインメーカーによれば、意外なことに、「南仏品種をレバノンに植えると酸が燃えてしまう」のだという。顕著なのがクレーレットとブールブーランで、TAはなんと2・5に下がる。ところがミュスカ、ヴィオニエ、シャルドネ、そしてもろもろの国際品種は酸が保たれ、TAは4・5と通常の値になる。南仏とは事情が正反対だ。これはどういうことなのか。どれほど酸がなかろうと私は南仏品種のほうがおいしいと思うし、酸の量と質とは別だと思うが、醸造する立場としてはTA2・5、pH4など論外だというのは分かる。

 というわけでシャトー・ケフラヤではサンソーを避ける傾向にある。サンソーは彼らのエントリーレベルワイン、Les Bretechesに含まれているのだが、2008年、2009年、2010年、2011年とヴァーティカルで飲んでみると、サンソーの比率が下がる近年のヴィンテージのほうが質は劣る。なぜ自分以外はそう思わないのかが不思議なぐらい、以前のほうが優美で広がりがあり、酸がこまやかで涼しげな気配がある。それは2008年というエレガントなヴィンテージのせいではない。確かにレバノンにおける温暖化は急激で、15年前はカベルネの収穫は9月末から10月初頭だったのに今では9月半ば。これでは最近になるほどワインから涼しい気配が失われるのも分かる。とはいえ、サンソーを含まないミドルレンジワインであるChateau Kefrayaの2008年は、やはりおいしくない。

 テイスティングの最後に、Chateau Kefraya 1988が出てきた。今回テイスティングした中で、サンソー単一と並んで最高のワインだった。これだけの歳月がたっても抜けがよく、チャーミングな赤系果実の風味があり、構造が堅牢でいて味わいが優雅で、美しい熟成感に惚れ惚れするワインだった。聞けば当時の品種構成はサンソー、カリニャン、グルナッシュ、、、、、。何度同じことを言えばいいのか。ではこの温暖化傾向の中、サンソーに代わる品種は何か。フラッパートとネロ・ダヴォラとウヴァ・ディ・トロイアでも植えればいいのか(それはそれでよさそうだ)。彼らはこれからはサペラヴィがいいと考えているようだが、それではレバノンならではの軽快なエレガンスが抜け落ちてしまうのではないか、サペラヴィの強烈なタンニンが果たして辛口ワインにふさわしいものなのか(私はキンズマラウリのファンなもので)と、疑問がまた増えるのだった。<田中克幸>

※バリックで発酵されたグルナッシュの試験的ワイン。これをバリック発酵サンソーやシラーとブレンドして、新たなプレステージワインとして発売してもらいたいと切に願う。

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美しいワイナリー ドメーヌ・デ・トゥーレルへ続く

 

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