コラム 2016.07.20

トレンティーノに行ったらホテル・ロヴェレートへ カステル・ノアルナ

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※アディジェ川とロヴェレートの町を見下ろす山の上に城と畑がある。標高は320メートルから400メートル。石灰岩土壌がメインで、斑岩、石英、玄武岩、粘板岩の礫も混じる。

 トレンティーノの南端、ロヴェレートの町から川を渡って山を登ると、カステル・ノアルナの古城が建っている。ローマ帝国時代からの要衝の地であり、6から7世紀には城塞が出来ていたらしい。記録に初めて登場するのは1177年。現在の形に改築されたのは16世紀後半だ。800年から900年頃に城が出来たという。19世紀末まではオーストリア貴族が住んでいたが、そのあと廃墟に。それを現オーナー、マルコ・ザニさんの父親が1974年に購入し、ホテルに改築しようとしたが、いざ計画してみると莫大な金額がかかることが判明し、断念。70年代初頭に植えられていたヴェルナッチを引き抜き、88年から90年にかけてシャルドネ、ノジオラ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ソーヴィニヨン、テロルデゴ、ラグレインを植えて、ワイナリーを興した。2007年にはオーガニック認証を取得。イ・ドロミティチのメンバーでもある。

 マルコさんに城を案内してもらったが、まるで映画に出てくるような本物の城。入口階段の天井にはヴァティカンのシスティナ礼拝堂の絵のコピーが描かれているのがおもしろい。コピーを見ると、逆にミケランジェロがいかにすごい画家だったのかが分かるが、それはともかく、システィナ礼拝堂天井画が完成してすぐに描かれた、模写としては最も古いものだという。

※城の入口の天井には、システィナ礼拝堂天井画の模写が描かれている。

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 城の一部を改造してマルコさんが住んでいる。ソマリア出身イタリア人の奥さんが手掛けた絵画、装飾で溢れるアフリカ的にカラフルなダイニング・キッチンでテイスティングした。ワインはどれもエネルギー感が尋常ではない。ぐいぐいと押してくる力と、跳ね回るような力。マルコさんは楽しそうに話すが、その楽しい雰囲気がワインからも伝わってくる。これはワインマニアが造る趣味のワインだ。そろばん勘定やマーケットへの目配りといった雑念がまったく感じられないから、飲んでいてひたすら楽しい。値段も高いわけではない。「こんなところでこんなワインを少しだけ造っていても儲からないでしょう」と聞くと、「本業はホテルとレストラン。ワインは趣味」。やっぱり。つまり、ワインは自分のレストランで売るから、セールスさえ考えなくていいのだ。

※オーナー、ワインメーカーの、マルコ・ザニさん。55歳。

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 ノジオラの軽快な複雑性、ブラン・ド・ブランのダイナミズム、ラグレイン(ワイン名はチンバー・ロッソ)の垂直的な形もいいが、最上のワインはソーヴィニヨンと、カベルネとメルロのブレンド、メルキュリア。どちらも驚異的に余韻が長く、フルーティさと堅牢さが高度に両立している。ソーヴィニヨンはこの品種としては珍しくMLF。だから厚みがあるし、SO2添加も少なく、無濾過で瓶詰めできる。MLFを行っても酸がビビッドなのはオーガニック栽培のおかげだろうし、山の上の畑という立地ゆえだろう。すっきりさっぱり系の工業的ソーヴィニヨンとは次元が異なる、しかしソーヴィニヨンらしさはピュアに表現されている、存在感の強い味わい。これはトレンティーノ最上レベルのワインだろう。

※「DOCが名乗れる地区にあるが、DOC制度はにせものだからいやだ。だから、ワインはあえてIGP」。

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 テイスティングのあとは城を下りて、町の中心に建つ彼の本業、ホテル・ロヴェレートに連れていってもらった。立派なホテルだ。ザニ家はもともとロンバルディアのマントヴァの出身で、1945年にホテル業を始めて成功し、1961年にロヴェレートに移住したのだという。自慢のメイン・ダイニング、リストランテ・ノヴェチェッリで、彼のおすすめを食べる。「ここはもうヴェネト州に近いから、料理もヴェネトの影響を受けて、バッカラがポピュラーだ」というので、前菜はバッカラ。メインは、他のお客さんの多くが食べている、ボリート・ミスト。トレンティーノにもボリート・ミストがあるのかと思ったら、「マントヴァ時代からの名物」。サルサ・ヴェルデを添えて食べる。これがうまい。ものすごくうまい。大量に作るからこその深みと広がり。おでん等と同じで、量は質に転化する。トレンティーノに行ったら是非ホテル・ロヴェレートで足をとめて、彼の料理とワインを味わってほしい。

 しかしおかしいのは、ホテルに入った瞬間、道楽者のへんなおじさんからぴしっとしたビジネスマンになったことだ。もう目つきがしっかりホテル・オーナー。従業員や内装の隅々への視線がプロ。きびきびとテーブルを回ってお客さんに挨拶している姿は別人としか思えない。ここで儲けなければ好きなワインも造れないのだから、頑張ってほしい。

※本業のレストランで提供するボリート・ミスト。ワゴンサービスで、好きな肉や部位を切り分けてくれる。

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