コラム 2016.08.27

チリ、コルチャグアの未来形 カリテラ

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※コルチャグアにあるカリテラの畑はべたっとした平地ではなく、小さな丘の集合体。いろいろな方角に向き、土壌もいろいろ。

 1996年にモンダヴィとチャドウィックが共同出資してコルチャグアに創立されたワイナリー。その当時に訪問して以来、今回久しぶりにカリテラを訪ね、あまりにおいしく、あまりに楽しくて時間を忘れた。日本では十数年口にする機会がなかったが、今のカリテラがこんなにすごいワイナリーだったとはまったく知らなかった。以下、興味深い点を列挙する。

1、単一畑ワイン

クオリティ・テロワールという意味の名前をつけられたカリテラの基本的な考えは、チーフ・ワインメーカーのロドリゴ・ザモラーノさんによれば、「ひとつのテロワールのベストを造る。つまり、単一畑ワインということ」。山に囲まれた1085ヘクタールの土地の斜面から谷の部分に連続する288ヘクタールが、その単一畑だ。

しかしその中は一様ではなく、崩積土壌、沖積土壌、シスト土壌、花崗岩土壌の四つがあり、それぞれにふさわしい品種を植える。つまり、それぞれ、カベルネ、カルメネール、マルベック、シラーである。特にトリビュート・シリーズはそれぞれ単一土壌で造る。

2、自根

ザモラーノさんは自根の優位性を信じているから、私と話が合う。「96年に植えた210ヘクタールは自根だった。2008年の植栽は乾燥している区画には接ぎ木で行った。カルメネールは自根。自根のほうがいい。接ぎ木はワインのフレーバーによくないという研究結果が出ている」そうだ。それは心強い。

3、除草剤不使用

オーガニックを推進している。現在でも55ヘクタールがオーガニックだが、残りも厳格なサステナブル。除草剤は使用しない。「カリテラはチリにおけるサステナブル農業のパイオニア。07年に自社で“カリテラ・コード”を設定し、それをワイン・オブ・チリが09年に採用して全国的な基準となった」。

4、棒仕立て

シラーに関してはワイヤーを使用せず、伝統的な北ローヌと同じエシャラ仕立て。「ブドウがひしめきすぎず、キャノピーの内側に房が入るのがいい」。まったくその通りで、日照の強い新世界産地ではもっと採用されるべきだと思う。チリのシラーの風味だと思われているゴツいスパイシーさは、単に果皮が焦げているだけだ。エシャラでは機械化は難しくなるが、カリテラは本来安いワインを造るべきワイナリーではない。
※花崗岩質の斜面に植えられたシラーは、コート・ロティやエルミタージュのようなエシャラ仕立て。
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※ブドウの房はこうして内側に隠れている。「昔はエフォイヤージュをしていたが、07年頃にそれが間違いだと分かった。チリはまだ若い国だから試行錯誤はしかたない。ここでは木を大きく育て、ブドウが焦げないように葉で隠さねばならない」。
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5、新しい熟成法

「以前はバリックを5000樽使用していたが、今では3800樽に減らし、残りはアンフォラとコンクリート・エッグと昔ながらの大樽を使う。大樽に戻るのがいいと思う」。その通りだ!

6、マルベックへの注目

「カリテラはチリで、ヴィウ・マネントに次いで二番目にマルベックのワインを発売したワイナリー。マルベックはカリテラに向くブドウ。鉄分を多く含むシスト土壌の斜面に植えたばかりだが、その出来には期待している。自分がカオールで学んだことは、マルベックは鉄を好むということだ」。その斜面のマルベックが全体の3%だけと僅かではあるものの初めて使用されたのがカリテラのアイコン・ワイン、セニット。平地のマルベックが使用されているエディシオン・リミターダAとは次元が違うミネラリティの偉大なワインだが、きっとその斜面のマルベックが質に寄与していることだろう。
※マルベックの畑を掘ると、こうした赤いシストが出てくる。カオールの優れた畑も鉄鉱石が多い。
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7、細心のブレンド

50%50%とか60%40%とかの何も考えていないブレンド比率や安直な単一品種ワインが目立つチリで、カリテラは精妙なブレンドを行う。例えばトリビュート・カルメネールはCrm93%, M5%, PV2%。比率だけ見てもセンスがある。エディシオン・リミターダBはPV46%, CS27%, CF23%, M4%とユニークだが、コルチャグアという場所を考えたら首肯出来る見事な比率。そして同MはSy45%, Ca43%, Sg8%, ルーサンヌ3%, ヴィオニエ1%と、伝統的なシャトーヌフの赤やコート・ロティやパレットや昔のキャンティのように白ブドウを含む。私がよく「白ブドウを赤ワインに入れよ」と言っているのを読者の方々の何人かは知っていると思う。いつも怪訝な目で見られるだけに、同じ考えの人がここにいてとても嬉しい。
※チーフ・ワインメーカーのロドリゴ・ザモラノさん。尊敬する人は、ラウル・ペレス、アルヴァロ・パラシオス、ミシェル・リジェ=ベレール。ゴディーリョとメンシアの復活に類する仕事をチリでするとなれば、将来はトロンテルとパイスに取り組むということか。「今、チリでしなければならないのは、我々のルーツを取り戻すことだ」。その通りだ。安いカベルネとかシャルドネに関わっている暇はない。
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もうお分かりのとおり、カリテラのワインは世界最先端の味がする。素晴らしいテロワールをもとにして、ふさわしい品種を植え、正しい栽培・醸造を行い、卓越的なセンスでブレンドした、あるべき要素があるべき場所に自然におさまった味がする。これほどよどみなく軽やかで、まるで一筆書きのように自由闊達で、しかし見れば見るほど一分の隙もないほど完成されたワインはめったにない。それこそマティスがモロッコやニースで描いた油彩のようだし、新古今での後京極摂政の歌のようだ。「かさねてもすずしかりけり夏衣うすき袂にうつる月かげ」。さりげない。シンプルだ。ふつうに感じる。しかしなんという美しい響き。誰でもできると思っても、誰にもできない天才の筆。ああ、かっこいい。

とはいえ、日本ではカリテラはまったく違う位置づけのブランドのようだ。オーナーのエデュアルド・チャドウィックが、日本の輸入元のホームページ上でインタビューに答える形でカリテラにつて述べている。そのまま後半部分を引用させていただくと、

 

Q:「カリテラ」と、他のチリワインとの違いは何ですか?

A:ぶどう品種ごとのピュアリティ(純粋性)です。例えば「カリテラ」のカベルネ・ソーヴィニヨンは、いかにもカベルネ・ソーヴィニヨンらしいカシスの風味があります。シャルドネなら、いかにもシャルドネらしいフローラルな果実味があります。ぶどうが持つ特性をそのままピュアに表現することが、“大地の品質”を表現することに繋がると考えています。

Q:そんな「カリテラ」を飲むお勧めのシーンはありますか?

A:少し難しいことばかり話してきましたが(笑)、「カリテラ」は本来カジュアルでフレンドリーな“楽しい”ワインです。料理との相性など細かいことは気にせずに、家族や親しい友人たちと楽しく飲んでください。

 

それは今回私が見聞きし味わったカリテラとはずいぶん違う。もちろん私が文中で触れたワインはひとつも輸入されない。よいワインに限って輸入されない。それが「安くて濃くてうまいチリカベ」から脱することができない日本という国の現実である。
※斜面に植えられた自慢のマルベックの畑。これからカリテラの上級キュヴェでこのブドウが活躍することになる。
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