コラム 2018.01.26

アルザス Boeckel

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▲五代目となるジャン・ダニエル・ボエケルさん。
 戦争中に爆撃を免れ、古のアルザスの趣をそのままに残すミッテルベルグハイム村。ここで1853年に創業され、23ヘクタールの畑を有する生産者がボエケルだ。創業時にはネゴシアンであり、「村の人からブドウを買うのが伝統」で、評価の高いクレマンに使用するのは買いブドウである。今回訪問した生産者の中では珍しくも海外市場に力を入れ、輸出比率が7割。2016年ヴィンテージからオーガニック認証を取得している。
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▲趣のある外観と、二階にあるテイスティングルーム。

ミッテルベルグハイム村にあるグラン・クリュはジュラ紀の地質であるゾッツェンベルグ。シルヴァネルを認可品種にもつ唯一のグラン・クリュとして有名だ。当主ジャン・ダニエル・ボエケル曰く、「この畑が1992年にグラン・クリュになるまでは、そのシルヴァネルのワインはゾッツェンベルグの名前を冠して売られていたが、それ以降はシルヴァネル・ヴィエイニュ・ヴィーニュへと改名せざるを得なくなった。それから伝統的なシルヴァネルをグラン・クリュに認可させるべく村を挙げて運動し、2005年に晴れて認められた」。

ゾッツェンベルグは涼しい畑であり、かつ石灰岩ないし泥灰岩なので、早熟かつ石灰を好むシルヴァネルが成功するのは理解できる。もともと酸が低くふっくらとした質感のシルヴァネルはややもするとボケて緩い味になるが、ゾッツェンベルグにおいては、シルヴァネルのもつ柔らかさやボリューム感を保ちつつも適度な緊張感や締まりがもたらされ、素晴らしい結果を生む。土地と品種が合っていることは、余韻の驚嘆すべき長さと伸びやかなスケール感からもうかがい知ることができる。その余韻は同じ畑に植えられたリースリングを上回るほどである。

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▲地質地図中央上端の丸い形のところがゾッツェンベルグ。ボエケルの区画は南向き斜面のジュラ紀の泥灰岩部分。

ボエケルはアンドロー村のグラン・クリュのひとつ、ウィーベルスベルグ最大の所有者(3ヘクタール)でもある。この三畳紀砂岩のリースリングとゾッツェンベルグのリースリングを比較すると面白い。楚々として細身で洋ナシ的で芯に粒々感のある重心が上の前者と、こってりねっとりして酸が高く黄桃・白桃的で重心が下の後者。昔ならリースリングにとって最良の畑のひとつであるウィーベルスベルグのほうが単純に優れたワインであり、ゾッツェンベルグのリースリングはすっぱくて足取りが重たく野暮ったい印象だったが、今では両者はそれぞれに魅力的に思える。石灰系リースリングの質的向上はここでも顕著である。

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▲左のピノ・ノワールはゾッツェンベルグ下部から。中央のピノ・ノワールはキルシュベルグ・ド・バールから。右は代表作ゾッツェンベルグ・シルヴァネル。

ボエケルには隠れた傑作がある。ピノ・ノワール・Kである。Kはグラン・クリュ・キルシュベルグ・ド・バールの略。7年前にゲヴュルツトラミネールをピノ・ノワールに改植したものだ。これもまた土地と品種が適合した味がする。既に多くの生産者がキルシュベルグ・ド・バールにピノ・ノワールを植え始めており、この品種をグラン・クリュ認可品種にすべく申請中である。このKはSO2無添加だけあってピュアでなめらか、すーっとストレス感なく広がる心地よさがある。かつてのSO2無添加ワインは香りが汚かったり酸化していたりと、よい点もあれば悪い点もあるとしか言いようがないものも多かったが、Kはそうと知らねば無添加だと分からないほど。近年の進化がよく分かる。

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▲発酵はステンレス、熟成は古典的な大樽で。

輸出に積極的な生産者、つまりは世界各国の味の嗜好を聞くにふさわしい。「ベルギーは酸がないものが好き。北欧は辛口で酸が好き。リースリングはドイツ、スカンジナビア、東欧でよく売れる。中国はリースリングかゲヴュルツを好むが特にゲヴュルツ。日本はリースリングとゲヴュルツの安価なワインだけを買う」。品質を思えばアルザス・グラン・クリュは世界屈指のお買い得ワイン。ゾッツェンベルグのシルヴァネルとウィーベルスベルグのリースリングを買わないならボエケルの存在意義は希薄になると思うのだが、日本の消費者はアルザスにそれほど興味がないのだろう。

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