コラム 2015.12.28

2015年田中克幸のベストワイン10

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2015年度ベスト10(順不同)

ワインはすべて現地購入。

 

Spitzerberg Blaufrankish 2012     Trapl

スピッツァーベルク・ブラウフレンキッシュ  2012  トラプル

品種ブラウフレンキッシュ 産地カルヌントゥム、オーストリア

ブラウフレンキッシュのいまだ知られざるグラン・クリュが、カルヌントゥムのスピッツァーベルク。そしてその最良の作品を作り出すのが(ドルリー・ムールと並び)、最良の意味で唯我独尊の、栽培醸造とも思想的・技術的に完全主義にして美的直観に溢れたこの新進気鋭の生産者、ヨハニス・トラプルだ。緊密にして清明で、整然としつつダイナミックな、そしてオーストリアらしく一筋縄ではいかない陰影に富んだ味わいは、この品種の偉大さを改めて知らしめるだけではなく、オーストリア赤ワインの最先端を教えてくれる。

 

Merlot 2012   Mount Ashby

メルロ  2012   マウント・アシュビー

品種メルロ  産地サザン・ハイランズ、オーストラリア

ボルドー品種にとって極限的な冷涼気候の産地、ニュー・サウス・ウェールズ州のサザン・ハイランズ。マウント・アシュビーはレストランとアンティック・ショップを兼ね、セラードアでの販売がほとんどという超小規模ワイナリー。涼しげな風味、驚くほどキメ細かいタンニン、鮮やかな酸、そしてメルロらしい穏やかなまとまり感のある抜けのよい果実味。サザン・ハイランズの冷涼さは陰気な緊張感をまったく伴わないのが素晴らしいし、とりわけこのメルロは地元密着ワインならではの肩に力の入らない普通さがいい。そして、これが大事なのだが、この産地では補酸の必要がないのだ。

 

Meissner Elbling 2014     Schuh

マイスナー・エルブリング  2014  シュー

品種エルブリング 産地ザクセン、ドイツ

モーゼル出身の創業者がザクセンの地に植えた、モーゼルの地場品種エルブリングのワイン。酔狂としか思えないかも知れないが、実際の結果は見事の一言。冷涼な香りと垂直的な形と気持ちよい酸はいかにもエルブリングで、花崗岩土壌に植えられているために適度にふくよかな果実味とトロみをも備え、むしろ本場モーゼルよりもバランスに優れる。そしてザクセンならではの洗練された気配(ラベルは最悪だが)!オーガニックならばこそ、このような一見シンプルなワインの中に秘められた高貴なミネラル感が引き出されるのだろう。こういう味わいこそ、日本の日常の中に位置づけられるべきなのだ。

 

Cassis Cuvee Emile Bodin 2013   Bodin

カシー キュヴェ・エミール・ボーダン  2013  ボーダン

品種マルサンヌ、ユニ・ブラン、クレーレット  産地プロヴァンス、フランス

もともと甘口ミュスカの産地だったカシーだったが、今では地中海の魚料理用の最高の白ワイン産地とされる。フィロキセラ後、魚料理用にふさわしい品種を選んで植えた(だからカシーにはソーヴィニヨンやユニ・ブラン等ボルドー品種があるのだ)のがボーダン創業者。ひとつの産地をガストロノミー的見地から作り出した例は他にあるだろうか。そしてこのワインは、まさにオリジナルならではの完成度。プロヴァンス白といえば、まずはこのワインを飲むべきだ。国立公園の中に含まれるカシーは産地全体としてオーガニックの方向にあるのがいいし、ボーダンも転換中。

 

Schiopettino di Prepotto 2012   Stanig

スキオペッティーノ・ディ・プレポット  2012 スタニッグ

品種スキオペッティーノ  産地フリウリ・ヴェネチア・ジューリア、イタリア

白コショウ的な香りと硬質でいて軽やかなタンニンと酸を備えるフリウリの品種、スキオペッティーノにとって、最良の産地とされ、特別な呼称を許可されているのがプレポットだ。コッリオのような黄色ポンカではなく独特の赤黒い(つまり鉄分を多く含む)ポンカ土壌がリッチな厚みとコクと重量感をもたらすプレポットにまずいワインはないと言えるほど。スキオペッティーノのキャラクターとテロワールのそれが相補的な役割をするのがポイントだろう。中でもスタニッグのワインは、適度に力が抜けた自然体の地酒的安定感が心地よく、洗練されすぎない味がまたプレポットの個性を生かす。

 

Sauvignon Blanc “S” 2013 Bassermann-Jordan

ソーヴィニヨン・ブラン“S” 2013  バッサーマン・ヨーダン

品種ソーヴィニヨン・ブラン  産地ファルツ、ドイツ

ファルツはいろいろなフランス品種ワインがフランス以上においしくなるような不思議な産地。この著名な生産者は一連のグローセス・ゲヴェックスのリースリングで知られているとはいえ、お勧めは自社畑から(つまりオーガニック栽培)のソーヴィニヨンとシャルドネの“S”。特に涼しく、収量が極端に少なかった2013年は、奇跡的と言えるほどの傑作。圧倒的な凝縮度、パワー、そして気品。品種独特の香りもエレガントで、磨き上げられた大理石の円柱が口の中に立ち上がるかのような構造も美しい。テロワールの秀逸性と生産者の力量が見事に組み合い、惚れ惚れするぐらいかっこいいワインだ。

 

EL 2011   Ixsir

エル 2011  イクシール

品種シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ 産地バトゥルン、レバノン

オーナーのひとりはかのカルロス・ゴーン、ワインメーカーは元シャス・スプリーンのスペイン人。「ミシェル・ローラン的新世界ワイン」と言われるような漆黒の色調とたっぷりした新樽風味、、、、なんとなくノリが違うのではないかと思われるだろうが、先入観は怖い、これには「まいりました」と言うしかない。何か特別な力が宿っている。旧約聖書の中でかくも絶賛されるレバノンのワインの力量たるや!北半球最高標高、なんと海抜1800メートルの石灰岩の角ばった礫だらけの畑。限界的に少ない降水量なのに無灌漑。農薬を使わずとも虫も来なければカビも生えないという。レバノン、おそるべし。それがどんな素人にとっても一番分かるワインだろう。

 

Pinot Noir L’Enfer du Calcaire 2013 Histoire d’Enfer

ピノ・ノワール ランフェール・デュ・カルケール 2013 イストワール・ダンフェール

品種ピノ・ノワール  産地ヴァレ、スイス

ブルゴーニュマニアの医師が趣味で作りあげたワイナリー。さすがにグラン・ヴァンを浴びるほど飲んできた人物の作品だけあって、ピノ・ノワール好きの琴線に触れる、シャンボールの斜面上部的な、高貴にして透明で華やいだ気配のワインが出来上がった。伝統に束縛されない趣味ワインならではの、市場ニーズや商売を感じさせない伸び伸びしたエネルギー感とポジティブな楽しさ。趣味とは思えない(さすが医者)技術的論理的完成度。そして何と言っても、なかなか得難い、しかしそれなくして何がピノかという、色気。ヴァレは暑いので、硬質な抜け感がある涼しい2013年が成功している。

 

Vrac   2013   Domaine a Peraccia

量り売りワイン  2013  ドメーヌ・ア・ペラッチア

品種シャカレル  産地アジャクシオ、フランス

チャーミングでフローラルなシャカレルという品種、穏やかで上品なアジャクシオという品種、オーガニック栽培と極めて軽い抽出(まるでロゼ)と亜硫酸無添加という造りが、極めて思索的かつ仕事一途な個性の塊のような生産者のもと、奇跡的な相乗効果をもたらしてひたすらおいしい、泣けるほどおいしい、稀有な完成度のワイン。なんという清明さ。なんという軽やかさ、そしてエネルギー感。頑張って頑張って頑張りぬいた末に辿り着いた心地よい涅槃の境地。ワイナリーに空き瓶を持っていかねば買えないだろうが、行く価値はある。

 

il passo 2012 Vigneti Zabu

イル・パッソ  2012  ヴィネーティ・ザブ

品種ネレッロ・マスカレーゼ、ネロ・ダヴォラ  産地シチリア、イタリア

白いご飯を食べながらワインを口に入れておいしいか?普通はNOだがこのワインは別格。海苔と鰹節のふりかけをかけたコシヒカリと信じがたい相性のよさ。ああうまい。おかわり。こんな経験は初めてだ。しかし日本人ならこんなワインは大事だ。だからベストに選ぶ。酸とタンニン両方ともしっかりしたワインだが、樹上でアパッシメントしたブドウを「リパッソ」式に加え、甘い果実味と粘り・コク・旨味(まさにコシヒカリ的)をもたらし、見事なバランス。そして塩辛い海を思わせる風味がまた日本の食卓に合う。日本でも2000円程度で売っているようだが、価格的にも理想のデイリーワインだ。

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