コラム 2017.07.10

ジェラール・ベルトランの新プロジェクト、「生物的多様性センター」

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 ジェラール・ベルトランのもうひとつの新プロジェクトが、「生物的多様性センター」。すでにラ・クラープの近くの広大な平地で計画が進行中です。そこはもともと別の有名ワイナリーがあったところで、今でも巨大な醸造所が残っています。

 本当に巨大な土地で、中に入ると、森があり、ブドウ畑があり、野菜畑があり、鳥がさえずり、と、これから「生物的多様性」を実現するのにぴったりです。

 そこで彼が何をしたいかといえば、

  • ラングドックのワインツーリズムのための観光スポット

ナルボンヌはラングドックの中心都市のひとつですし、ラ・クラープは独自の自然環境とビーチで有名なそれなりの観光地ですし、敷地は幹線道路に面していますから、場所としては適切です。そこで生物的多様性の重要性とビオディナミを実際に体験してもらいます。敷地内で栽培・飼育された食材を使ったレストランで料理とワインを楽しんでもらいます。

  • ジェラール・ベルトランのネゴシアン部門のワイナリー

既に醸造所はありますから、それを修繕すれば使えます。現在ネゴシアン部門のワイナリーはあちこちに点在しており、生産効率的にも物流的にも集中したいところです。瓶の倉庫、出荷用基地の役割も担うことができます。

  • ビオディナミ学校

ワイン醸造家やワインにかかわるいろいろな人たちに、ビオディナミについて教える学校を作ります。写真の、奥に見える建物(相当広いです)がその場所となる予定です。

  • この土地のドメーヌワインのワイナリー

ビオディナミ学校やレストランでは利益がまったく出ませんから、ここで実際にワインを生産する必要があります。

 壮大な計画です。今はまだ荒地、廃墟、そして地元農家に貸し出している畑があるだけですから、すべてを完成するためには巨額な資金と長い時間が必要です。それでもこの計画が実現できたらどんなに素晴らしいかと思います。ラングドックのためになりますし、ビオディナミを世の中に広める役に立ちます。そのことに関して、彼は本当に真剣なのです。

 

 1、2、3に対しては私が言うことはありませんが、4に関してはいろいろと議論しました。

 畑の予定地を回ってみると、基本的には砂質です。この地はAOPが取得できませんが、道の向こうからラ・クラープAOPですから、共通する白亜紀の灰色の硬質な石灰岩の礫が土壌に混じっています。

 そこで何を植えるべきか。もちろんこのような土では上質な赤ワインは造れませんから、「白ワインは確定だ」と言うと、「そりゃそうだ。私はシャルドネがいいと思う」と。シャルドネの需要は我々の想像以上に大きいそうです。確かにペイドックIGPのシャルドネは日本でもよく見かけます。ビオディナミのそこそこの値段のシャルドネなら売れるはず、だというのです。

 私は猛反対しました。その理由は以下のとおりです。

  • 単一品種のブドウでは生物学的多様性のテーマと矛盾する。
  • ラングドックワインを観光客に理解してもらう目的のためのワインが非ラングドック品種のシャルドネでは筋が通らない。
  • 砂質土壌ではろくなシャルドネができない。ストラクチャー、ボディ感が出ない。
  • この地は降水量が少なく、かつ砂質土壌なら、灌漑が必要となる。自然重視の姿勢と矛盾するし、そもそも灌漑のシャルドネなどおいしくない。

 私が植えるべきと言ったのは、もちろんクレーレット、ヴェルメンティーノ、ブールブーラン、ピクプール、マカブー、グルナッシュ・ブラン&グリ、ミュスカ、あと実験的にチャレッロです。ここは地中海品種でなければおかしい。それでスティルワインとスパークリングワインを造り、たぶんそのほかにサンソーとクレーレット・ロゼとピクプール・ノワールとミュスカ・ノワールを植えてロゼのスティルワインとロゼのスパークリングワインを造る。複数品種でなければ平地の畑からは垂直性のある味はできません。彼と私は垂直性を求めているので、それが得られないような植栽をしてはいけません。

 しかしそういう地中海品種ワインは市場が小さいそうです。なんといっても数十ヘクタールの畑ですから、相当な生産量になります。売り切る自信はない、と。困りましたね。なぜそんなに地中海品種ワインのよさが理解されないのでしょう。特に白に関しては、品種の名前さえ一般には知られていません。私程度の知識でさえ、ラ・クラープ周辺の砂地なら、私が挙げた品種しかありえないことぐらい常識の範疇だとわかります。ならばそういうワインを買えばいいではありませんか。しかし国際メジャー品種名でワインを選ぶくせがついてしまっている現代では、得をするのは旧大英帝国系産地が多くなります。ああ、情けない。

 「ソーヴィニヨン・ブランはどうか」と言うので、「シャルドネより百倍まし」と答えました。垂直性がずっと出やすいですし、砂地にはシャルドネより合いますし、地中海品種とブレンドしてもへんな結果にならないことは、カシーの例で実証されています。国際メジャー品種でなければ売れないというなら、まあ、落としどころとしては、三分の一が私の挙げた品種、三分の一がソーヴィニヨン・ブラン、そして残り三分の一が、純粋に利益確保を目的としてシャルドネでいいのではないでしょうか。シャルドネにブールブーランやピクプールを10%程度ブレンドして、シャルドネという名前をラベルに表記しつつ、味わいにすっきり感を出してもいいですしね。

 いずれにせよ、高級ワインができる土地ではありません。質で売ろうとしても無理です。しかしここはコンセプトを売るところです。コンセプトはいい加減な妥協をしていたら伝わりません。筋を通すことが何より大事です。

 なかなかおもしろい議論でしたし、自分の勉強になりました。あと十年後か二十年後か分かりませんが、私が元気なうちに学校ができたら、私も何か講義してみたいものです。こういったベルトランさんとの一連の議論からわかるとおり、南仏はまだまだ未開の産地なのです。皆さんの応援が必要です。

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