コラム 2017.07.07

ジェラール・ベルトランの新しいエステート

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▲Chateau des Deux Rocsからの眺め。クリュ・アペラシオンになるというのに、まだほとんど開墾されていない土地が延々と続く。

 ラングドックのビオディナミ生産者ジェラール・ベルトランがCabrieresの地に新しく二つのエステート、Domaine du TempleとChateau des Deux Rocsを購入し、ワイン生産を始めました。
 彼に「この地で何をやるか、どこにワイナリーを建設するか、意見を聞かせてほしいので一緒に見に行こう」と言われ、Cabrieresを訪れました。

 ここは標高が高く、冷涼なので、フルボディの赤ワインを造るとどうしても味が瘦せてしまいますし、色は薄めですし、特にカリニャンはうまく成熟せず、青臭くなりがちです。実際、前のオーナーの時代の2015年の赤をテイスティングすると、うーむ困ったな、と思ってしまいます。しかし酸がしっかりしているので、ロゼを造るにはとてもよさそうです。実際前オーナーのロゼのほうは、もうすでに酸化してしまったとはいえ、姿形が整っており、よいテロワールを伝える力があり、確かに赤よりポテンシャルがあると感じられました。
 ですからこの地ではロゼに特化するというのが共通見解です。しかしどのように造ろうと、Cabrieresはタイトな構造をもつ通向けのワインになるはずです。「今までの、ボリューム感のあるロゼを支持してきた顧客にはどこまで理解されるかは疑問だ」とは言いました。土壌はシストです。見た目はサン・シニャンの標高の高い箇所、ベルルーに似ています。個人的にはサン・シニャン・ベルルーは大好きです。
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▲古木の区画は黒ブドウと白ブドウの混植。これはスペシャル・キュヴェにぴったり!

 私はいつものように、「ロゼは黒ブドウと白ブドウを混醸せねばならない」と。品種としては、グルナッシュ、サンソー、カリニャン(入れすぎると野卑になります)、シラー、クレーレット、ヴェルメンティーノ、ミュスカ・ノワールというのが私のイメージですが、ようするにパレットのロゼをサン・シニャンで造る、みたいなイメージですが、クレーレット、サンソー、ミュスカ・ノワールは畑にありません。ヴィオニエは畑に植えられていますが、個人的にはヴィオニエをロゼに入れるともったりした質感になるので好きではありません。しかしこれから植栽して樹齢が高まって美味しくなるころには、ベルトランさんも私もこの世にいないでしょう。ワイン造りは大変ですね。
 スタイル的には、普通の(つまり直接圧搾法かごく短時間のマセラシオン)のロゼと、6時間程度のマセラシオンを行うタヴェル・ロゼ的ロゼ(つまりクレーレ、ないしチェラズオーロ的)の二つを造るというアイデアを話していました。
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▲これはスペインの色の濃いロゼ。半分樽、半分ステンレス。私がスペインから持ち帰ってきて、「こういう味がいいのだ」と言った。アルコール15・5パーセントだが、ジェラールも「アルコールっぽくない」と。「ブドウが熟していてバランスがとれていればアルコール度数を超える味わいの濃さがある。とにかくロゼだろうがなんだろうが、完熟ブドウが基本」。

 ロゼ主力のエステートらしい個性が主張できるというがひとつの理由です。また、フランスにおいてはタヴェルとボルドー・クレーレ以外色の濃いロゼは実質的に滅んでしまっていますが、色の濃いロゼこそが地中海文明何千年の伝統であり(ポンペイの醸造所の遺跡を見ても、造られるワインはそうだったはずです)、それを打ち出すことは地中海ワイン文化の擁護者というアイデンティティを強化することになり、コーポレート・イメージ的にもプラスになります。しかし本当の理由は、私はワインらしい味のロゼにはマセラシオンが必要だと思うからです。当然ながら果皮にも種にもおいしさのもとは含まれているのです。ビオディナミで栽培することは確定なのですから、果皮や種がいやな渋みをもたらすものと考えるべきではなく、より多くのエネルギーや情報を与えるものとみなすべきです。直接圧搾法ロゼ絶対というに近い現状が間違っています。
 白と赤のあいだには、オレンジワイン、ブラン・ド・ノワール、色の薄いロゼ、チェラズオーロ(色の薄い赤というか色の濃いロゼというか)のグラデーションがあります。それらはまだ開拓されつくされていない領域であり、競争も少ない。もちろん市場が小さいから商品がないのだとも言えますが、それらのスタイルのワインの魅力が消費者に十分に伝えられていないからだとも言えます。
 ガストロノミー的視点からも、チェラズオーロの有用性はあります。赤果実フレーバーは必要でも大量のタンニンが必要ではないケースは、近年の軽やかな料理を考えるなら、実は多くあるのではないでしょうか。往々にしてワインのほうが料理より強くなりがちな現在、まともに料理とワインの相性を深化させるために必要なワインは、チェラズオーロタイプです。MLFもOKでしょうし、樽発酵・樽熟成も必要です。
 といったことを、何時間もかけてジェラールに話していました。「君は私を説得しようとしているのだな」と言うので、「当然だ。私は南仏ワイン文化のために正しいことを言っている」。おいしいワインを造るのは、彼にとっては(というか現代の生産者にとっては)そんなに難しいことではないはずです。売りやすいワインは何かという情報はセールスサイドからいくらでもあがってくるでしょう。市場で売れているタイプの情報もすぐに得られます。しかし技術的側面と市場的側面からのみ商品設計がなされては、おいしいけれども何かが足りない、というワインになってしまいます。思想的、テロワール表現的等々他の側面から見たときの「正しさ」も議論されねばなりません。その前に植樹したり醸造所設計したりしては順序が逆です。
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▲最初ジェラールが考えていた醸造所の位置から下を見る。確かに家としては眺めがいいが、目的が違うと思う。
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▲こちらが最終的に探しだした場所。今は木々でうっそうとしているが、目の前の林を切れば、向こう側にある山の気と背後にある畑の気を受けることができるはず。

 醸造所の場所ですが、当初彼は畑が見渡せる高台を考えていました。しかし私は反対。「山のエネルギーがブドウ畑を通って下りてくる低地でなければならない。ブドウがワインになるとは生命がいったん墓に入るということだ。なぜワインがキリスト教で重要なのか。それは死と復活と永遠の生命のメッセージだからだ。よって醸造所は下降エネルギーの場所に建てる。高台はワインをテイスティングする場所だ。飲む時には上昇エネルギーを感じる場所がいい。だからゲストハウスやテイスティングルームは山の上に建てる」。プリオラートのスカラ・デイ修道院の写真を見れば、私の言わんとしていることはわかるはずです。クーレ・ド・セランの修道院跡(つまり中世のセラーの場所)も、畑の下のくぼ地にあります。ちなみにテイスティングルームになるだろう場所は、中世の教会跡です。とても明るい気が満ちています。醸造は修道院、飲むのは教会、です。両者は別物です。内向性と外向性です。
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▲中世に建てられた教会跡。元の形を復元した上でテイスティングルームやゲストハウスになる予定。それはずっとずっと先の計画です。まずはワインを造らないと。

 とはいえ私が醸造所にベストだと思った場所は十分なスペースがなく、小屋しか建ちません。所有地の中でやりくりするしかないので、あちこち探し、斜面下の場所を見つけました。エネルギー的な流れだけではなく、ワイン醸造上必要となる重力システムの観点からも、よい場所だと思います。
 ちなみにCabrieresはすでにクリュ昇格の申請をしており、そんなに遠くないうちにクリュとして認められるそうです。これでまた覚える名前が増えました。アペラシオンのホームページを見ると、生産者は6軒しかありません。そのうちふたつをベルトランが買ったので、5軒のみ。ずいぶんマイナーなクリュですが、これから注目されるでしょう。
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▲シャトー・ラ・ソーヴァジョンヌの大変に硬いシスト。栽培はビオディナミです。雑草がないのは、除草剤を撒いているからではなく、草も生えないような土地だから。

 そのあと、テラス・デュ・ラルザックのエステート、シャトー・ラ・ソーヴァジョンヌに。現時点ではこのロゼがベルトランのロゼ・ラインナップの上では一番だと思いますし、実際2015年ヴィンテージは某ワイン雑誌で年間第二位になったそうです。しかし「商品数が多すぎてエステートのフォーカスが緩くなるので、ロゼの生産をやめ、赤と白のみにしたい」と。つまりCabrieresのロゼ生産とセットになっている計画です。2016年のロゼはやせていて腰が弱い。そこでボリューム感を白ワインを入れることで、下半身の堅牢さを赤ワインを入れることで解決することにしました。つまり2016年はロゼワイン+白ワイン+赤ワイン、です。それでいいのです。それで、より製法の味からテロワールの味になる。しかし白も赤も比率的には0.1%とかです。それだけで激変です。
 では主力となるその赤はどうなのか。これが難しい。個人的には何かがおかしいと思います。まずいわけではありません。しかし畑を見て感じることとワインを飲んで感じることが一致しません。土壌はシストと火山岩です。シストにしてはピシッとしたカッコよさがなく、火山岩としては上昇力がない。だから形が整わない。セラーで樽から2016年をテイスティングしても、セカンドワインのほうがグラン・ヴァンよりおいしい。どう思うか聞かれたのでそう答えたら、「自分もそう思う」と。おかしな話ではありませんか。そのうちシャトー・ラ・ソーヴァジョンヌ改良プロジェクトを立ち上げねばなりませんね。ひとつのアイデアは出しました。誰もそんなことはしないようなアイデアです。
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▲シャトー・ラ・ソーヴァジョンヌの住居部分。よい眺め。しかし今は誰も住んでいない。もったいない。右端はベルトランさん。左数名はアメリカのディストリビューター(らしい)。話を聞いていたが、私のようにあーだこーだと文句を言っているわけではなく、そこで私がへたに口をはさんで商売の邪魔をしたくないので、ソファで爆睡していた。その姿を見たベルトランさんが「まるで赤ちゃんみたいだ」と。私の特技はどこでも寝れること!

 シャトーはもともとイギリス人の富豪が建てたものです。一目みて「ハリウッドみたいだ」と言いました。彼はあとで、「よくハリウッドだと分かったな。前オーナーの妹がハリウッドで家を設計して、その設計を流用したものなんだ」と。まったくラングドックっぽくありませんし、もちろんビオディナミっぽくありません。それが妙な気を発しているのかも知れません。それにしても、ラングドックではこうして畑がたくさん売りに出されてしまっているのですね。投資に見合うだけの値段のワインを造ることができないのでしょう。これがプロヴァンスなら観光客も多いし、イメージもよいから、そこそこの質のワインでもそれなりに売れるのでしょうけれど。ラングドックが高品質ワイン産地として正当に評価されるようになるための道のりはまだまだ長いようです。

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