コラム 2016.08.24

スパークリングワインだけじゃない バルディビエソ

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※ヴァルディヴィエソのワイナリーはクリコ・ヴァレーのロントゥエにある。サンチャゴからここまで南下すると、空気のしめりけが違うような気がする。
 以前にバルディヴィエソを訪ねたのは17~8年前か。当時もおいしいと思っていたが、久しぶりに飲んで、やはりここは素晴らしいワイナリーだと確認した。やるべきことをしっかりとやりながら、なにひとつやりすぎないバランスのよさがいい。そして何より大事なのは、それぞれの産地、それぞれのエリアの味を素直に表現していることだ。だからワインに独特の透明感がある。無機的な冷たい透明感ではなく、心地よい温かみを伴う優雅な透明感。なんとセンスのよい味か。

チリでも日本でも、バルディヴィエソといえばスパークリングワインが有名だ。とはいえスパークリングワインとスティルワインは、同じワイナリーの作品だとは思えないほど方向性が違う。醸造所も別々だし、醸造チームも別だと聞いて納得した。個人的にはスティルワインのほうがはるかにいいと思う。

ヴァルディヴィエソの商品構成は、いかにも現代のチリだ。ピラミッドの底辺から列挙すれば、

1、ヴァラエタルワイン (ステンレス熟成)

2、ワインメーカー・レゼルバ (樽熟成)

3、シングル・ヴァレー・ロット (レイダ、クリコ、カサブランカ、コルチャグア、ラペルから成る)

4、シングル・ヴィンヤード (レイダ、マウレのカウケネス、アコンカグア、クリコのサグラダ・ファミリア、カチャポアルのペウモ、マイポから成る)、

5、エクラ (ピラミッドに入らない別ライン的な存在として、貴腐ワインとヴィグノ=カリニャンとマタロの混醸)

6、アイコン (ブレンドかつソレラのカバヨ・ロコと、その構成要素を別々の4つのワインにしたカバヨ・ロコ・グラン・クリュ(サンタクルーズ・アパルタのカベルネ・ソーヴィニヨン&カルメネール、リマリのシラー、マイポ・アンデスのカベルネ・ソーヴィニヨン&カベルネ・フラン、サグラダ・ファミリアのカベルネ・ソーヴィニヨン&カルメネール&マルベック)
※アイコン・ワインと位置付けられるカバヨ・ロコと、カバヨ・ロコ・グラン・クリュ。ちなみにカバヨ・ロコとはクレージー・ホースの意味で、オーナーのあだ名だという。
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つまり、基本的にはブルゴーニュ的に、より限定された生産地区からできるワインが上級という形をとっている。そして相当程度、階層の上下と質の上下は一致している。しかし最上ワインとして位置づけられているカバヨ・ロコが一番優れているわけではない。カバヨ・ロコは過去16ヴィンテージのソレラであり、もやーんとしたにじみ感や中間色のグラデーションや物憂げな表情といった、他とはまったく異なる個性を味わうものだ。前文で述べたように、やはり特別な土地からの特別なワインという位置づけの、上から二番目、三番目あたりのワイン、すなわちバルディヴィエソで言うならグラン・クリュとシングル・ヴィンヤードのワインが最も素晴らしい。そもそもレイダのソーヴィニヨン・ブラン、マイポ・アンデスのカベルネ、ペウモのカルメネールといった産地と品種の最適な組み合わせから、バルディヴィエソの才能あるワインメーカー、ブレット・ジャクソンがまずいワインを造るわけがない。これらの作品だけで網羅的なチリワインの理解ができるほどだ。
※1994年にチリに来て、サン・ペドロで7年を過ごしたあと、バルディヴィエソで14年チーフ・ワインメーカーを務める、ブレット・ジャクソンさん。
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 とはいえ、たとえばペウモのカルメネールがおいしいと言っても、それこそ羽田沖のアナゴの天ぷらがおいしいと言っているようなもので、そんな話はいまさら聞きたくもないと言われてしまう。他のワイナリーの記事でも触れることになるだろう。バルディヴィエソならではの注目ワインを挙げるなら、シングル・ヴィンヤード・シリーズに含まれる、カンケネス(マウレ南部)のピノ・ノワールだ。樽から試飲した2015年は、しなやかで細かく、すっきりと伸び、適度に硬質な芯があり、香りが華やかな、まさにピノ・ノワールに求められる個性を十全に備えた作品。瓶詰めされた2014年は焦げ風味とジャミーな甘さが感じられたとはいえ、畑のポテンシャルは否定しようもない。ピノ・ノワールはサン・アントニオ、カサブランカ、リマリといった産地が有名だが、これらの土地は降水量が少なく灌漑が必須。しかしマウレはブルゴーニュと同じぐらいの降水量があるため、この花崗岩土壌の畑は無灌漑。そしてチリらしく自根だ。チリのピノで無灌漑・自根は珍しい。ジャクソンさんによれば、「日本の輸入元がこのワインをとても気に入っており、生産量のすべてを持って行ってしまう」とのこと。それは慧眼である。
※発酵タンクは1960年代製のコンクリート。質感の厚みや温かみに寄与していると思う。発酵は自然酵母とローヌ産の培養酵母で。キュヴェゾンは25日程度で、最初はしっかりと抽出、後半はソフトに扱うという。この2年はバスケット・プレスで圧搾。
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 もうひとつの注目作は、バルディヴィエソの地元、ピノと同じくシングル・ヴィンヤード・シリーズに含まれる、サグラダ・ファミリア産のカベルネ・フランだ。植栽は1920年という古木で、無灌漑・自根。フランならではの気品があり、タンニン、酸ともにしっかりとしたタイトな構造がありつつ、大変に高密度で、青臭さなど微塵もなく、しかし軽快で、余韻が長い。世界じゅうのカベルネ・フランを見渡しても、特に価格を考えるなら、最高の部類に入る傑作である。これもありがたいことに日本に輸入されている。私の家の近くにあるワインショップでも売っていて、店員さんが「これは素晴らしいフラン。チリでこんなワインが出来るのかと思いました。大好きです」と言っていた。

 ジャクソンさんに、「これからチリではどの品種に注目すべきか」と聞くと、「カリニャンとグルナッシュ」。既にカリニャン&マタロのエクラで証明されているとおり、地中海品種のポテンシャルは大きい。グルナッシュのワインは2015年ヴィンテージから登場する予定だというが、地中海品種ワインは複数品種を使ってこそ意味があると思う。カリニャン、グルナッシュ、マタロ3品種の混醸ワインがいつかバルディヴィエソから登場することを期待したい。
※クリコ・ヴァレー・エントレ・コルディヘラスの中にあるひとつのエリアが、サグラダ・ファミリア。このカベルネ・フランを飲むと、チリ=カベルネ・ソーヴィニヨンでは必ずしもないと、誰もが思うだろう。というか、私は最初にチリに来た時からカベルネ・フランの比率を上げろと言い続けている。
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