コラム 2017.05.17

アルザス、オリヴィエ・フンブレヒト来日セミナー

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アルザスワインといえば筆頭に挙げられるドメーヌのひとつ、1620年まで歴史を遡ることができる(それ以前の記録は30年戦争によって灰燼にきしてしまったそうです)老舗、ツィント・フンブレヒト。その12代目当主、オリヴィエ・フンブレヒトが久しぶりに来日し、セミナーを開催しました。何十人ものワインジャーナリストの方々が参加しての大規模な会。オリヴィエ・フンブレヒトが来るとなれば、誰もが話を聞きたくなるものです。私もその中に紛れ込ませていただきました。

 私は日本で彼に会うのは初めてです。最後にドメーヌに行ったのは、飲んだヴィンテージが2007年でしたから、8年前だったと思います。オリヴィエはMWですし、大変に博学で深い考察力のある傑出した生産者(不世出と言えるほどの人だと思います)ですから、造るワインが素晴らしいだけではなく、その背後にある考え方がきちんとまとまっているのがすごい。ビオディヴァン会長、アルザス・グラン・クリュ協会会長という肩書はダテではありません。

 ツィント・フンブレヒトに関しては、私がいまさら何か言うこともないぐらい、誰もが知っています。基本的な解説めいたことをここで書いたら、皆さんに「お前、人を馬鹿にしてるのか」としかられます。ですからここでは私がその場で感じたこと、考えたことを中心として書きたいと思います。

 

セミナーはまずアルザス全般の解説から。「大陸性の気候で気温の振れ幅は生まれてからの経験ではマイナス20度からプラス40度まである極端さで、長い生育期間となるため、アロマティック品種が沢山植えられている」。アルザスのミュスカやゲヴュルツトラミナーの香りの素晴らしさは皆さんもご存知のことでしょう。

 植えられている品種はだいたいリースリング35%、ピノ・グリ25%、ゲヴュルツ30%で、、リースリングが増加傾向、ゲヴュルツが減少傾向にあるようです。アルザスはこれ以上リースリングばかりあってもしかたないと個人的には思うので、その傾向は若干危惧するところです。ともあれ、その時に映し出された彼の畑のブドウの房の写真を見ると、びっくりするぐらい小さい。「それぞれの品種のあるべき形」とのことですが、しかしアルザスでは、「あるべき」ではない形の、大きな房のブドウのほうをはるかに沢山見かけます。ワインの質はブドウから、とよく言われます。このような小さな房になるブドウをマッサル・セレクションし、ヘクタール当たり8千本から1万本の密植をすることが、ツィント・ウンブレヒトの高品質の要諦だとよく理解できます。

 そして高品質のもうひとつのかなめは、ビオディナミ。1998年にエコセール認証、2002年にビオディヴァン認証を取得しています。二頭の馬を飼って(「ジャーナリストに見せるためだけの馬ではなく、実際に飼っている」)、トラクターが入れない斜面で作業します。「人は馬の後ろで汗をかくより、冷房が効いたトラクターの中でラジオを聞きながら作業するほうを好む」にせよ、土壌圧縮の少なさという点で、「本当なら全部の畑を馬で耕したい」。しかし41ヘクタールも所有するドメーヌですから、人員的経営的負担というのは看過できないわけで、そこらへんはバランスです。バランスといえば、ここは大樽発酵、熟成にこだわりつつ(「木だとワインが呼吸できる」)、温度調整機構も備えており(オリヴィエの父親は樽のワインを温度調整したアルザスで最初の人だそうです)、「伝統とテクノロジーの両立」と言っていました。
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▲ドメーヌ・ツィント・フンブレヒトの所有畑の地図
 「皆さんが興味があると思って」と、1級格付けとグラン・クリュ・ピノ・ノワールの話もされました。まず1級について。着々と公的な格付け制度へと進展しているようです。彼は村のサンディカの長を務めているので、当事者としていろいろ調整しています。どこが1級だと議論されているかは言えないそうです。

もう十何年か、1級格付け創設の話は耳にしています。これ以上フランスワインがややこしくなるのがいいとは思えないので、私としては理念的には賛成、現実的にはなくてもいい、と思っています。いい畑とは何かをすべて公的機関が規定すること自体が産地のフレキシビリティを失わせるような気もするのです。どのみち畑と品種はセットで規定されるわけでしょう。これに関してはドイツよりフランスのほうががんじがらめで、アルザスから国境をまたいだところのソーヴィニヨン・ブランやカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロといった品種の出来のよさを見ると、地球温暖化の中でアルザスがすべきは、将来を見据えた新しい品種の模索、実験だと思っています。それこそブラントでシラーを植えるような緩い方向のほうがいい。ワインファンとしては楽しい。

そもそも公的な格付けがなくとも、アルザスの多くの生産者は事実上、村名、1級、特級の3つのカテゴリーでワインを造っています。そう呼ばないだけで、クラシック、プレステージ、グラン・クリュと呼んだり、クラシック、リューディ、グラン・クリュと呼んだりしているワインの内容は、まさに格付けです。生産者は当然ながら、どこが優れた畑かはわかっていますし、村の中での一応の共通見解はあるものです。だから時間とお金をかけ、政治を巻き込んであれこれ活動し、法律でお墨付きをもらう(つまり法律で縛られる)必要は、純粋に消費者の視点からすれば、ない。そんなものは飲めば分かるし、消費者が判断できることです。法律に「ここがおいしいです」と言ってもらわないと、そのワインがどの程度の質か分からないと思っているのでしょうか。

 1級と言えば、ドイツのエアステ・ラーゲを思い出します。エアステ・ラーゲに関しては、複数のエアステ・ラーゲを混ぜてはもはや格付け的にはエアステ・ラーゲではない。アルザスの1級はそうならないことを祈ります。ブルゴーニュ的なテロワール中心思想という以前からの掛け声は大変にけっこうです。しかしブルゴーニュの素晴らしいところは、複数の1級畑を混ぜても1級だという規定です。ニュイ・サン・ジョルジュのやたら多い1級が何十もリストにあってもまともに選べる人はいません。ましてモンタニーのように60以上の1級があり、それらがブレンドできなければどうなると思いますか?似たり寄ったり(多くの消費にとってはそうです。私もモンタニーの1級を飲んでどれがどれだかまったく分かりません!)のアルザス1級ワインが何百と生まれ、値段も相応に高くなり、、、、という状況を想像しただけでうんざりします。そして1級はうまくブレンドしたほうが結果としてはおいしい。ブルゴーニュの規定のほうは正しく、単一畑ワインばかりの現状のほうが間違っているのです。

 オリヴィエさんは、「どこが1級かの範囲を決めるためには、どこが畑の中心かを決める必要がある」と言います。そこが南向きなら、南南東から南南西の向きぐらいまでがOK。そこが斜度30%なら、斜度35%から25%までのところがOK。そこが石灰岩なら、花崗岩部分の畑はNG。そうやってINAOは決めるそうです。大変におもしろい話です。
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 しかしここで気になります。ケッフェルコフはどうなんだ、と。だから私は質問しました。KT「理屈としてそれは正しいと思います。私もそうやってクリマの範囲が決められると思っていました。しかし一番最近できたグラン・クリュであるケッフェルコフは石灰岩の箇所と花崗岩の箇所を含んでいても全体としてグラン・クリュになった。ということは、最近のINAOは畑の地質的同一性を重視していない、基準が変わった、というふうに解釈できます」。

OH「ケッフェルコフが申請を出したのは1975年だった。しかしずっと議論されてきてやっと2007年にグラン・クリュになった。だからケッフェルコフをグラン・クリュにしたロジックは1975年当時のものであり、地質学的な理解が深まった現代のものではない。私はケッフェルコフをグラン・クリュにしたのは間違いだと思う」。

 よくぞ言ってくれた!私はずっとケッフェルコフはグラン・クリュにあらずと思っていますから。おいしいまずいの話ではありません。これはある種のゲームなのであって、ひとりだけ違うルールでゲームをされても困る。ケッフェルコフの上部の花崗岩のところにリースリングを植え、下部の石灰岩のところにゲヴュルツとピノ・グリを植え、両者を混醸することでおいしいワインが出来ることは知っています。そうするべきです。そしてケッフェルコフは複数品種ブレンドが許されているグラン・クリュです。しかしアルザス・グラン・クリュという名のゲームは、単一地質による味わいの表現を鑑賞するゲームだとしたら、ケッフェルコフは反則っぽい。

 1級の話から特級の話にずれてしまいましたが、基本的な話は同じです。このゲームのプレーヤーが、51から数百に増えるだけです。そうなったら選択肢が多すぎてわれわれの情報処理能力を超えることになると、そうなったらいくら格付けがあろうと消費者の商品選好に対して実質的には役に立たないと、私は危惧しているわけです。

 次に赤ワインに関して。ピノ・ノワールを認可品種に含めるべく申請したグラン・クリュは、既に3つあるそうです。ヘングスト、フォルブルク、キルシュベルグ・ド・バールです。ヘングストに関してはアルベール・マンが、フォルブルクに関してはルネ・ミューレが熱く語ってきたのを皆さんはご存知でしょう。このふたつは当然だと思います。土を見てもいかにもピノ・ノワールっぽいです。キルシュベルグ・ド・バールは意外といえば意外。しかし例えばシュトッフラーの場合、ピノ・ノワールのほうがリースリングよりおいしいと思いますし、このグラン・クリュの生産者たちが同意して申請したのは正しい判断でしょう。オリヴィエ自身はあまりピノ・ノワールは好きではないようで、ヘングストにピノ・ノワールを植えるつもりはありません。

 

 次に6本のワインのテイスティング。それぞれについて考えてみましょう。

  • Riesling Roche Calcaire 2015

 これはフンブレヒトっぽくない味のワインです。もちろん美味しいワインだとはいえ、固い。当然です、リースリングを石灰岩に植えているのですから。そこで私は質問しました。

KT「あなたのポリシーとして、リースリングは石灰岩には植えない、というのがあるはずです。実際グラン・クリュに関してはポリシーが貫徹しています。ではなぜこれが例外なのですか。あなたの父親が植えて、既に畑があるから、という理由もあるとは思いますが、ではなぜ改植しなかったのですか」。

OH「リースリングを石灰岩に植えると熟さずにグリーンな酸になる。しかし畑が温暖な場所にあるなら熟す。この畑は南向きで温かい。地球温暖化によって、今までリースリングが熟さなかった場所でも熟すようになった。だから私は最近ヘングストの急斜面のところ0・5ヘクタールにリースリングを植えた」。

KT「ヘングストにリースリングですか!ヘングストは鉄分がたくさんある畑です。あそこにリースリングを植えたら苦くなってしまうではないですか。納得できない判断です」。

OH「確かにヘングストには鉄があって苦くなるだろうが、その苦みは悪い苦みではないと思う。ストラクチャーを与えるものだと解釈する」。

 石灰のリースリングがまずいわけではありません。フランケンのヴュルツブルガー・シュタインは、シルヴァーナーよりリースリングのほうがおいしいと感じます。ウィーンやトライゼンタールもグリューナーよりリースリングを選びたくなります。そんな例はいくらでもあります。アルザスだって、グラン・クリュ中のグラン・クリュであるかのガイズベルグは石灰です。独特の差し込むような固さと酸の強さと苦みを許容できるならいい。それが欲しい時もある。しかし、“基本”ではありません。どれだけ温暖なミクロクリマといっても、石灰は石灰であり、その味は確実にします。だからこのリースリングがツィント・フンブレヒトの最もベーシックなワインとして存在していることが、ドメーヌ全体の味、またアルザスのリースリングの味というものを誤解させてしまうのではないかと危惧します。

 

Riesling Brand Grand Cru 2015

 ブランドは花崗岩のグラン・クリュ。ものすごく開かれた地形で、太陽が燦々と当たります。花崗岩は「火」の味だそうです。リースリングも「火」で、火どうしの組み合わせがよい、と、ビオディナミ的表現をしていました。このワインは上に向かう力がぐわっと表現され、香りが太く強く出てきます。フンブレヒトのブランドは常に素晴らしいと思います。これぞグラン・クリュの味です。

 ブランドはトゥルクハイム村の北西の大きな丘の東から南にかけて広がるグラン・クリュです。オリヴィエさん曰く、東側の斜面下側がもともとのブランド。東側斜面上部は「なんでもなかった、グラン・クリュとはいえない」。南に回り込んだ部分は「アイシュベルグという畑で、当初はここはふたつのグラン・クリュになる予定だったが、アイシュベルグはエギスハイム村が申請していた。同じ名前の畑がふたつある時は、アルテンベルグ・ド・ベルグハイムとアルテンベルグ・ド・ベルグビーテンのように、畑名のあとに村名をつけて区別するのが通例なため、INAOはトゥルクハイム村とエギスハイム村双方に調停を求めたが、両者譲らなかった。そこでINAOはトゥルクハイム村のアイシュベルグをブランドに含めるという乱暴な解決をした」。本来のブランド所有者にとっては許しがたい暴挙だというのが彼の口調から分かります。

 個人的にはブランドのどの区画のワインも十分においしいし、基本的に花崗岩だし、斜面上でさえ今となってはOKなのではないかとも思うのですが、まあイルカをクジラと言っては、ゲームの規則の問題、言葉の問題としていけませんね。

 2015年というとても暑い年ながら、これは辛口ですし、酸も高い。十何年か前のツィント・フンブレヒトなら、こういう年は残糖のあるワインにしたのではないかと思います。スタイルは確実に変化していて、より繊細に、よりタイトになっているのではないでしょうか。それはアルザス全体の傾向です。しかし私は2000年のブランドVTの桁外れのパワー感が忘れられません。花崗岩は溶岩由来ですから、「火」の畑。火の畑のワインを評価する基準のひとつは、火の味がするかどうか、です。記憶の中の比較ですと、2000年VTのほうが「火」の味がしました。ここらへん、セミナーではしっかり議論できないので、次に彼とさしで話す機会があれば、いろいろと聞いてみたいと思います。

 ちなみにブランドは「火」なので、ブランドに撒く堆肥は、同じく「火」の動物である馬由来。逆にヘングストは石灰で「土」を表徴するため、堆肥は同じく「土」の動物である牛由来。ブランドと馬は同じ「火」だというのは、特に自然派ワインファンならすぐに理解できることでしょう。ともかく、これはおもしろい議論です。プラパラシオン500は牛ですが、これを馬にしたらどんな差が生じるのかについては聞いたことがありません。ロバにしたらどうか、羊ならどうか。そして人間ならどうか。牛の角に牛の糞を詰めるかわりに、人間の頭蓋骨に人間の便を詰めたら、ワインにどんな影響が出るのか。ビオディナミのファンの方で誰か実験していないのでしょうか。頭蓋骨は倫理的にまずいとしても、糞尿のリサイクルは日本では戦前ぐらいまでは普通だったわけで、畑の所有者の排泄物でプレパラシオンを作ったら、畑と生産者のコネクションがより強固になり、よりよいワインが出来るような気がします。
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3、Riesling Rangen de Thann Clos Saint Urbain Grand Cru 2015

 ランゲンの土壌は火山性。それはよく知られています。ところが典型的な火山岩のリースリング、例えばワシントン州ワラワラとかファルツのペヒシュタインと比べて、どこか冷たい要素が入っていると常々思っていました。このセミナーで「火山岩がいったん海の中に沈んだグラウワッケ」だと聞いて、なるほど。思わず、「ああ、やっと分かりました。だから上昇力と下降力のふたつを備えて、エネルギー分布的にはほぼ等分で垂直的な形をとるのですね!」と自分の席から彼に向かって言いました。

 なぜランゲンが特別な土壌かといえば、このように相反する要素をひとつにしているからです。加えて、極めて急斜面ですから流速が早い。実体はさーっと流れていくのに余韻はしっかりと力強く続く。そのギャップもまた魅力的です。アルザスのグラン・クリュの中でもシュロスベルグやアイシュベルグと並んでトップ5に入る実力の畑だと私が言っても、否定する方はいないでしょう。また、ツィント・フンブレヒトは、例外的にランゲンではリースリング、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネールの3種類のブドウを植えます。それはランゲンが多面的な要素(火と土)を備えていて、火品種も土品種も合うからです。

 それだけにランゲンは高価です。誰もがいいと思っている証拠です。ただし使い方は難しい。ヴェルナー・ゾンネンウアーやポリッシュ・ヒルと同じような意味で難しい。唯我独尊的で、料理を受け止める寛大さや粘りけがないからです。これは鑑賞用のワインとみなすほうがいい。実際、鑑賞すべき圧倒的なワインですから。

 

Pinot Gris Roche Calcaire 2015

 普通、“ヴィラージュ”のピノ・グリは分かりやすい果実味とボリューム感のある丸い形と遅い流速が特徴です。それはそれでソーセージ等豚肉料理と合わせやすいものです。このピノ・グリは、ずっと抜けがよく、繊細で、すっきりと上に伸びる力があります。若干凝縮度は不足しているものの、一言で言うなら、高品位な味です。6番のワイン、クロ・ヴィンスビュールの説明の時、このピノ・グリは「クロ・ヴィンスビュールの格下げ」と言っていました。どうりでヴィラージュな味がしないわけです。

 オリヴィエさんは、これが鴨に合うと言っていました。通常ピノ・グリと鴨はよい相性にはならないのですが、これなら確かに合うでしょう。

 

Gewurztraminer Roche Calcaire 2015

 ゴールデールの近くにあるウーライトを含む泥灰土の畑だそうです。「ブドウの成熟が遅い地区」らしく、ある種のゲヴュルツトラミネールに見られるようなケバさはなく、緻密で繊細な香りがあります。ウーライトとマールですから、かっちりしたミネラルの粒々感とゲヴュルツにしては引き締まった酸があります。

 残糖度は24・7グラムですから、そこそこ甘く、オリヴィエさんも順当に「フォワグラに合う」と言っていました。とはいえ、これはフォワグラ向きではないワインです。なぜならこのワインは硬質・堅牢だからです。ワイン単体として見た場合、ゴールダールのゲヴュルツにせよ、このワインにせよ、見事なバランスではあります。しかしフォワグラのきめ細かさ、柔らかさや香りに合わせるゲヴュルツは、ワイン単体で飲んだら酸が低すぎ、腰がなさすぎ、と思う花崗岩土壌のほうがいい。鴨のフォワグラなら花崗岩グラン・クリュのゲヴュルツ(たとえばフランクシュタインとか)、ガチョウのフォワグラなら花崗岩グラン・クリュのピノ・グリ(たとえばヴィネック・シュロスベルクとか)を合わせるといいのかな、と、経験値の少ない私でも思います。たぶんアルザスワインファンの方々なら、鴨とガチョウのフォワグラと、数種類の土壌違いのグラン・クリュのゲヴュルツとピノ・グリを目の前に並べて、どれがどう合い、どう合わないのか、といった研究はされていると思うので、私が言わんとしていることの意味も分かっていただけるでしょう。アルザスに行けば、ほっておいたら毎日フォワグラを食べることになりますしね。

 こうしたヴィラージュ級のワインは、鑑賞用ではなく、食卓で楽しまれるものでしょう。だとすると、いったい何が合うのか。これをとことん追求すべきです。甘いゲヴュルツが出てくると条件反射的にフォワグラと言いがちですが、そんなおおざっぱなことではいけません。オリヴィエさんはワイン生産者であって消費者でもソムリエでもないので、何に合うかを考えながらワインを造っているはずがない。もちろん使用する文脈を考えるのは我々の仕事です。私は香港風の鴨のバーベキューに合わせたいと思いました。

ところで、この会とは関係ありませんが、あるアルザス・グラン・クリュの辛口リースリングのプライス・カードに、舌平目のムニエルに合う、と書いてありました。輸入元さんに、「本当にこのワインと料理を合わせて確認してからこう書いているのですか」と聞くと、「やってません」。「そうでしょうね、やってみて下さい、合わないから」。まあ舌平目と言ってもドーバー海峡のものをグリルしたなら合う可能性がありますが、私は今までの人生で、日本の一般消費者向け魚屋さんでドーバー・ソールを見たことがありませんから、そんなプライス・カードを一般向けに作っていても無意味に思えます。

アルザスは美食の宝庫です。アルザスワインは素晴らしい食卓用ワインです。アルザスワインは世界一と言って過言ではない畑の土壌の多様性=味の多様性が特徴です。この三つの命題を否定する人は、少なくともアルザスワインファンの中にはいないはず。しかしこの命題を唱えているだけでは実践につながらない。多様なワインの中の何がどのように何に合うのかの個別の具体論を提示しない限りは、消費者はその三つを言語データとして理解するだけであって、具体的なワインを正しく選択して生活の中で享受することができません。

ツィント・フンブレヒトのワインは、アルザス屈指の素晴らしさです。だからこそ、それぞれのワインをどう鑑賞し、どう使いこなすのか、を正しく伝えていくことは、我々の消費文化を高め、個人の暮らしを豊かにしていく上で重要です。アイテム数も多いですから、輸入元である日本リカーの方々をはじめとして皆で真剣に取り組まないと、正しい視点・正しい文脈(唯一絶対の、という意味ではありません)が見えてこないはずです。カタログを見ると、裏表紙のトップに「世界のワイン専門誌から90点以上を1000回以上獲得した銘醸ワイナリー」とあります。それが売りではありません。それは結果であって、そうなるべくしてなる原因があるわけで、それこそが売りです。
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スクリーンに映写されたクロ・ヴィンスビュールを撮影。
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  • Gewurztraminer Clos Windsbuhl 2015

 「1648年までハプスブルク王家の所有畑。その後ルイ14世の所有となり、革命までブルボン王家の直轄地」。オリヴィエの父が1987年にこの由緒ある畑を購入しました。最後に出てくる理由は、残糖があるからだけではなく、ポテンシャル的にここが最上の畑のひとつだからです。彼らはここに、リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、オーセロワ、シャルドネと、多くの品種を植えています。土壌は三畳紀のムシェルカルクです。    

1級は当然のこと、グラン・クリュになってもおかしくないと思いますが、モノポールでは栽培農家の総意になるはずもないですし、オリヴィエさんが村のサンディカの長にしてグラン・クリュ協会の会長なのに、自分で自分の畑をグラン・クリュ申請したら、手前みその極致と言われてしまいますね!

KT「素晴らしい畑だと思いますが、ゲヴュルツトラミネール単一品種ワインが正しいかどうかは疑問です。下に引きずられて上が伸びないでしょう。このようなフランスの宝とも言える畑の所有者の責任として、伝統的にこの畑には何が植えられていたのかを調査し、それを尊重する必要があると思います。いろいろな品種がうまく行くなら、ここではウルトラ・プレミアム・エーデルツヴィッカーを造るべきなのではないでしょうか。たぶんそれがフィロキセラ前の姿だろうし」。

OH「我々のZindはシャルドネとオーセロワで造るエーデルツヴィッカー。以前はピノ・グリもブレンドしていた。この畑に関して1760年に書かれた本を5年前に発見した。古いドイツ語で書かれていて解読が難しかったが、幸い私の叔父が大学のドイツ語の先生なので、読むことができた。それによると主な品種はTOKAYだった。それはほぼピノ・グリだと考えられる。今植えられている品種の多くはピノ・グリだが、当時もそうだった。1972年までは、その年に亡くなったジョン・メイヤーさんの所有だった。彼が50年代、60年代に植えたブドウはよい品質だが、次の所有者が植えたブドウは台木もクローンも低質なもので、植栽密度も低く、我々が改植するしかなかった。だからピノ・グリの樹齢は若い。樹齢20年、25年の品質は、50年のものより劣る。だから我々はクロ・ヴィンスビュールの名前ではリースリングとゲヴュルツしか出さない。ピノ・グリはロシュ・カルケールに格下げする。このワインがミネラル感を現時点ではうまく表現しないのはヴィンテージが2015年だからだという理由もある。2013年や14年のほうがテロワールの味がよく分かる。2015年は過去2番目に暑かった年で収穫が早かった。ブドウは天体の影響を受ける。冬は月、春は水星、開花は金星、結実は太陽、ヴェレゾンは火星、成熟は木星、そして収穫時は土星。種が黒くなると土星の影響を受け、そのあと地球に帰る。遅い収穫のヴィンテージでは土星の影響が強くなり、早い収穫のヴィンテージは木星の影響を受け、果実味豊かで分かりやすい味になる。リースリングがテロワールをよく表現するのは、収穫が遅い品種ゆえ、より土星の影響を受けるからだ」。

 ブドウに限らず地球上の万物は天体の影響を受けますが、なぜ木星がフルーティで土星がミネラリーなのかは私は分かりません。それはともかく、クロ・ヴィンスビュールは単一畑です。斜面上にはリースリング、下にはゲヴュルツやピノ・グリが植えられています。だとすれば、それらすべてのブドウをブレンドしなければ、クロ・ヴィンスビュールの味にはならないと思います。単一品種で造るなら、それは単にリースリング区画の味、ピノ・グリ区画の味、でしかありません。これがもったいないと思うのです。ピノ・グリ7割で、残りはリースリング、ゲヴュルツ、ミュスカ、シャスラー、シルヴァネル、サヴァニャン、オーセロワ、シャルドネで、全品種、全面積使用でワインを造ったらどんなに素晴らしいかと、容易に想像できます。もちろん昔はゲミシュター・サッツだったはず。それを再現すれば、元の所有者であるハプスブルク家も天国で喜んでくれることでしょう!ともかく、彼らが植えたピノ・グリの樹齢が十分に高くなり、クロ・ヴィンスビュール名でリリースされる時が待ち遠しいですね。

田中克幸氏のブログはコチラ

 

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