コラム 2017.10.26

ジャパン・ワイン・チャレンジを振り返って~その4番外ボルドー~

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その3モスカートはコチラ

番外(田中持寄)

Chartron La Fleur2012(仏ボルドー)

田中:これはJWCに先駆けて行われたWSETによるディプロマ向けの教育セミナーにおいてブラインドで出され、評価が分かれたワインなので、ここで皆さんに飲んでもらおうかと思います。その時のワインと同じヴィンテージですが、その時はこれより熟成感があって樽が溶け込んだ状態でした。マーティンさんはWSETの基準に従って、これはブロンズだと言い、僕はシルバー以上だと言ったわけ。これはとても安いボルドーです。

 

沼田:安いと思えば余計にシルバーだね。

 

田中:そう、これは良いワインだと思うから自分はシルバー以上じゃなければおかしいと主張していました。では自分の評価のポイントはなにか。これはボルドーとして古典的なプロポーションを持っているからです。ブラインドだろうがなんだろうが、これはボルドーそのものなのですから、飲んでボルドーだとわからなければ困ったものです。

 

宮地:化粧っ気がないですよね。誇張がない。青さも含め自然、産地としての安定感のようなもの。

 

田中:そう!ボルドーのアペラシオンとしてテイスティングしているのであれば、その誇張のなさがボルドーらしさだとすれば、そこは評価されなければならない。スケール感がなくてもいいじゃないかと。大半のボルドーにはスケール感がないのだから。

 

宮地:日本に輸入されている大半のボルドーはスーパーマーケット用ワインですからね。バリューボルドー。

 

田中:だとしたときに、このプロポーション、姿かたちがボルドーらしい、ということがわからないと議論、評価に至らないということが言いたい。WSET的基準でブラインドで試飲するとね、ボルドーらしさ、ティピシティーは評価基準に入らなくなる。

 

沼田:WSETにはBLICEという評価軸がある。最後のEは何だっけ?

 

川口:エクスプレッシブネスです。

 

沼田:エクスプレッシブネスっていうのが、要はその、らしさ。ですからWSETの評価の中にティピシティー判断は実はあるんです。そこらへんのところを表現の中で捉えられていて、頭の中の思考を表現するわけでしょう?WSETのディプロマは頭の中の思考をメモ書きしたものをカタチにするもの。田中さんは、頭の中に先にまず出てくるイメージをピクチャーのかたちで表現しているわけでしょう。

 

宮地:メルローブレンドのワインでしょう、というアプローチと、ボルドーでしょう、というアプローチとの違いですよね。これは初めの沼田さんの話にも通じるような。

 

沼田:さすがにWSETで勉強している人であればボルドーらしさの話は分かるんだけれども、テーマがブルガリアのメルローだとすると知らない人もいるかもしれない、MWだって知らない人もいるわけでしょ。だとするとらしさから入るのではなくて、ひとつ頭のなかで分析していく作業をするわけよ。帰納法的に。つまりWSET的な分析手法というのはその分野に関してあまり詳しくない時により有効。その分野に関して詳しければ、わかっちゃうんだもん。例えば僕で言えば、NZのピノでいえば、造り手の顔や、畑まで思い浮かぶ。

 

田中:このワインの評価が分かれるポイントは、明らかに青い香りがあることです。熟してないからダメっていうのは、ちょっと待ってくれ、と。ボルドーでしょう?と。90年代右岸的な過熟ボルドーを推したいのかと。

 

宮地:00年代も含めた高評価右岸ですよね。

 

田中:そう。これの良さはね、そういう現代的ボルドーではなく、古典的な清涼感のある控えめなボルドーだということでしょう。それがカベルネ・フランをブレンドする意味でしょうと。それを否定したら全てのボルドーはダメなワインですよ。

 

沼田:6070年代のボルドーはそうなるね。

 

田中:そう。その時に僕が言ったのは、これは70年代のボルドーを思わせるから良いのだと。

 

沼田:アルコール度数12%とかね。

 

田中:本当の分析はもっと低かったんだって、当時のボルドーは、11.5%とかだったって聞くよ。

 

宮地:本当はワインのプロフェッショナルとしては、9000年代のアメリカのワインとかに引っ張られた感覚、完熟感が良いものであるという価値観を対象化しないといけない。2002年にカリフォルニアにはPP100点いっぱいありましたと。

 

田中:2002年は過熟だよ。

 

宮地:ボルドーだってその頃の価値観に引っ張られましたと、それが理想のワインだとする価値観ていうのは、今現在では過ぎたものと判断するべきものじゃないですか?事実カリフォルニアのワインに昔ほど触れていないけれど、変化は見えますよね?昔ほど2002年のようなワインは見なくなった。

 

田中:過ぎたものだと思うし、カリフォルニアもここ5年で変わった。

 

宮地:その過ぎた価値観を生産者ですら捨てようとしている、けれどプロフェッショナルと呼ばれる人たちが捨てていないというのはおかしい話だと思いますよ。

 

田中:ハーブっぽい香り=熟していない、というわけだ。僕はこの香りを減点対象とみなすのは間違いだと言っているんですよ。なぜならこれはボルドーだから。ボルドーらしさと、これからのボルドーの二つの観点でこれは加点対象となるべきだと僕は考える。しかしそのためには、各要素の分析以前に、まず飲んで、これはボルドーだ、とわからなければならない。

 

宮地:流行と時間軸の話だと思うんですよね。

 

沼田:生産者はそこまで考えてないと思うな。このワインの生産者は。普通にやってるだけだと思うよ。2012年でしょう。バランスよいし、13年だともっと青さが目立つかもしれないけど。

 

田中:12年らしいふくよさがあるけど、このハーブっぽいニュアンスが引き締めてるわけです。

 

宮地:本当にそうだと思いますよ。9000年代のワインに関して僕がお客さんに説明するのは、世界中のワインが暗中模索の時代だったんですよということですよ。良くお客さんに聞かれるんですよ、長く熟成できますか?と。僕は70年代以前とは違うものだと思ってくださいとは言うようにしています。きっと期待している、あなたが感動した70年代以前のブルゴーニュと違うものですよと、けど今のブルゴーニュはもしかしたらより長く熟成するかもしれない。そんな変化、熟成を一緒に過ごしていくのが健全な愉しみ方ですよという話はします。温故知新的な価値観の話ですよ。この前田中さんが言っていたことですが、脚光を浴びた頃のヴァランドローより今のヴァランドローの方が素晴らしいけれど、価格は下がっているのはどういうことだというような話ですよ。

 

沼田:それはそうだね。

 

田中:70年代のボルドー的な味のよさを、ここで再発見して広めていくというのは健全なのではないかと。客観的に見たらシルバーだけれど、そういった観点を踏まえたらゴールドにしたっていいくらいだと僕は思ったのです。

 

宮地:それはすごくわかります。スーパーマーケットに並んでいて、JWCとしてゴールドだよと。古典的なワインがね。

 

田中:そう、ボルドーとは本来何なのかという事に関して思想的な表明が必要だと思う。「安くて美味しい」だけじゃつまらない。もちろんワインとして素直に美味しいですし。とにかく、この青さを減点対象にするならボルドー飲むなよ、と言いたい。

 

沼田:評価に関しては、田中さんの意見に賛成。ある種の意図をもってゴールドにするのは疑問。審査会でね。田中さんは、評論家のスタンスがあるから、こういうのどうよっていうのはあると思うんだよ。

 

田中:まぁ今言ったのはとっても評論家っぽい言い方だよね(笑)

 

沼田:JWCの場所って、もうちょっとガイドブック的な、もっと気軽なところで金賞をつけているところもあるでしょう。

 

田中:で、「らしさ」は考慮しないでいいのか。

 

沼田:いや、必要だと思うんだけれど、そこまでを他の審査員に求められるのかな。

 

宮地:僕はまぁどっちでも良いんだけれど(笑)じゃあ、その意見の分かれの論拠は何だろうと思うと、田中さんの言っているのは、僕の言葉で言えば温故知新的であると、それこそが本来ある歴史からくるティピシティーだろうと、僕もそれには賛成。そこをWSETの評価だと、品質を見て、熟度がこうだろうと、pHこのくらいだろうと、言っているわけですよね。それは科学的に聞こえるけど、前時代的じゃないかと、誰かが言うべきなんじゃないの、と思う。熟度が全てだったらそういったワインは消費しつくされて一周してるわけじゃないですか。

 

沼田:その席に誰がいたかわからないけど、以前ニール・マーティンと一緒に審査はした時。彼はアドヴォケイトやっていて、ロバート・パーカーの後継者なわけでしょう。彼とこの手の話になって議論して、もう僕は「やってられない」とリン・シェリフMWを呼んだことがある。彼は過熟しているワインを評価します。「その評価はその後も生きていくんだよ、このワインが熟成すると思う?」というと、「フルーツがたくさんあって、凝縮感があって」という。「どう考えたってpH高いし、微生物安定性どうなるかわからないし、評価できない」といって、意見が割れた。

 

田中:89年のオー・ブリオンや90年のマルゴーはPH4.0ぐらいあるでしょう。あれは熟成したよね。

 

沼田:このワインはそのレベルのワインじゃないからそこまでの議論をするつもりはないけれど、ニール・マーティンはやっぱりこれから先のワインの世界で影響力あると思う。だからディスカッションした。

 

田中:それは議論した方がいいよ。

 

沼田:田中さんが、このワインを持ってきたのは、そう思ったという時に議論できるボキャブラリーをね、審査員の方々には持ってほしいというメッセージだと思うんだよね。

 

田中 語彙もさることながら、問題意識であり、視点です。それはWSETだろうがなんだろうが人に教わることではなく、自分で考えることです。

 

沼田 言い忘れましたが、熟度やpHに関しては70年代的であるという話になりましたが、微生物的なことでいえば遥かにモダンですよね。フルーツのクリアさとかも、モダン。だからそれは何をもって昔っぽいというかというところはあると思うんだけれど、造りに関してはモダンと言っていいと思う。昔のボルドーって、特にこのクラスは顕著に馬小屋臭がひどかった。ちょっと前のWSETの教科書にはボルドーの典型の代表的な特徴に馬小屋臭があったぐらいです。このワインには馬小屋臭はない。

 

宮地:だから本当、ブルゴーニュもボルドーも昔のワインよりも良い未来を想像できると思うんですよ。今のワインは。

 

沼田:人によってはこういうワインを評価しない。安いボルドー飲むなんて馬鹿のすることだ的な記事読んだことありませんか?

 

田中:ある。けれど、なんと言われようと、これは良いワインです。

 

宮地:どこにスポットを当てるかという話はあると思いますけど、実際日本に一番輸入されているワインはボルドーですよね。

 

沼田:それは、そうだし、実際力があるからね。

 

田中:僕はボルドーのこの出しゃばらないフードフレンドリーな万能性を評価しています。ブルゴーニュの方が百倍くらい合わせる料理が難しい。ボルドーはどんどん日本に入ってきて、と思いますよ。料理とぶつかるワインより、ぶつからないワインの方が良い。このワインを批判する人たちは、ひと言、「ライトボディ」で終わってしまう。ライトボディは良くないと。まさか、です。ライトボディであることはよしあしとは関係がない。

 

沼田:もうちょっとオーセンティックなところを見直しても良いと思う。このワインもそうですが、古い産地が古いままではない。そこを古いとか、日本人は判断が遅いとかいう風な話になるから、違和感を覚えてしまう。

 

川口:価値観を他者に求めすぎているのでしょうか。価値観が自分に定まっていないというか、MWとか、MW候補の人がすすめるワインをそのまま受け入れてしまうというか。ところで審査員同士で、上級審査員の方含め、それぞれ目指しているところが違ったりしますか?

 

沼田:まったく違う人もいるよね。

 

川口:そこが違うと、手段も人によって違うじゃないですか。

 

沼田:それはね、立ち位置、ベースが違うから。例えば僕の友人の醸造家は最後のトロフィーワイン選定の際は、ワインが健全かどうかだけで判断している。そのワインに関して知識がないという前提でやってるもんね。もうちょっと彼よりもオールマイティーな知識がある人は、たとえば「おそらくこれはグランレゼルヴァで酸化気味になってるけれど、、、」と考えるけど、彼は「酸化ニュアンスがあるからNOだ」と。彼は、立脚点として自分が製造のところで携わっている立場で点数をつける。それは他の人とは違う。

 

田中 確かに十人十色だろうが、それでもひとつの結論に到達しなければならない。

 

川口 どうすればいいのか、、、。

 

沼田:自分がゴールドだと思っているワインを外国人たちはブロンズやシルバーだと言っているとします。その時、どうしてもゴールドだと説得して、彼らの意見をひっくり返す経験が何回かあると自信になります。でもダメな時には落ち込む。エキスパート分野で他の人よりも自信を持って覆す経験かな。

 

川口:チャレンジ精神ですかね。

 

沼田:チャレンジ精神だけだと、嫌われるけどね。KY的な。

 

宮地:チャレンジ精神だけは僕ですよ。というか、沼田さんと田中さんからKYとか言われたくないなぁ。

 

沼田:違うよ、違うよ、俺たちはKYじゃないよ。

 

田中:今のJWCのシステムは、テーブルリーダーが、次回のJWCに呼ぶか否かを決めることになっている。審査員のパフォーマンスにはランキングがされているんだよ。

 

田中:テーブルリーダーも人間だから、反抗する人にはそりゃあ×つけるよね。

 

宮地:僕アンソニー・ローズさんと今年は意見合わなかったなぁ。今年遅刻しちゃったし。

 

沼田:あ、そう。良い人だよ、あの人。

 

田中:もし宮地さんのワイン評価がアンソニー・ローズさんのワイン評価とはことごとく乖離していたのだったら、世の中的にはあなたの方が間違っているとされてしまうだろうよ。今年は君には、×がついている(笑)だろうな。でもこのことを考えすぎると、政治が出てくるでしょう。

 

宮地:まぁテーブルリーダーにおもねるというか。

 

田中:おもねてしまったら本義から外れるよね。だからただ反抗するのではなく、プラスな形でどうやって論理的に反対意見を言えるか、どうやって説得できるかというのが大事です。誰だって百パーセント正解というのはないわけで、見ているところはテーブルリーダーと同じ意見か否かというより、どれだけしっかり論理的な意見を提示できるか否か、です。

その5ロゼシャンパーニュに続く

 

本日お集まりいただいた皆様のご紹介
numata

沼田実さん
ワイン輸入会社での勤務経験、醸造家としての海外実習およびソムリエ経験を活かした多彩な講義内容が特長。特にコンテストの審査員として培われた論理的テイスティングには定評がある。
テイストアンドファン株式会社代表取締役
WSET®認定Level4Diploma
公式プロフィールはこちら

田中克幸
田中克幸さん
某大手外食企業の取締役として渡米、帰国後数々のワイン雑誌の主筆を務め
独自のワイン観で、生産者にも舌鋒鋭く切り込む。ジャパン・ワイン・チャレンジ副審査委員長。

kawagutiazusa
川口梓さん
「もっと!ワイン」代表
WSET認定Level4 Diploma
ジャパンワインチャレンジ審査員
大学在学中に留学先のリヨンでワインに目覚める。
都内の大手酒販店、ワインのインポーターで約17年間勤務後、2017年に独立。ファインワインの消費者の裾野を広げるべく、個人販売「もっと!ワイン」の開業準備中。

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