コラム 2017.10.26

ジャパン・ワイン・チャレンジを振り返って~その1~

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ジャパン・ワイン・チャレンジ(以下JWC)は日本で開催されるワインコンクール。ワインコンクールというと聞き馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんが、生産者や輸入会社がワインを出品し、ジャーナリストや評論家、ソムリエがブラインドテイスティングで評価する品評会のようなもの。賞を獲ったワインはショップに並ぶ際にゴールドやシルバーといったシールが貼られることになります。JWCは海外審査員として各国のMWやイギリス、アメリカという中心的な消費国の識者が参加し、日本人のワインパーソンとの交流の場にもなっています。昨年、田中克幸さん(副審査員長)、沼田実さん(日本人審査員として最も長く参加)、吉住久美さん(レコール・デュ・ヴァン講師)というベテラン審査員の方々とJWCを振り返ってというテーマでのワイン談義を文字起こししたところ、各方面(大手メーカーの醸造部門からも!)から嬉しい反響もありましたので、今年もやってみました。3時間超の飲み会の文字起こしなので、はっきりいってだいぶ長いのです。すみません、幾つかに分けて投稿します。

JWC2017審査結果はコチラ

沼田 最初に論点にしたいのは、田中さんの評価の方法がWSETと違うんじゃないか、ということです。

 

田中 ええ、違います。結論は同じになるとしてもね。

 

沼田 審査員の人の中では混乱した人もいるわけですよ。

 

田中 ま、その時は僕に合わせろ、と。というか、そういう時は僕に相談してくださいね。

 

宮地 JWCの主催者側の主張としてはどちらのアプローチをとることになっているんですか?

 

沼田 もちろんWSET。パートナーシップ結んでいるわけだから。

 

田中 実情は違うよ。誰もそんなことは言っていない。評価方法がどうであれ関係がない。大事なのは結果であって、正しい結果が導かれるならどんな方法でもいい。WSETの方法論に忠実に従って金賞をつけました、しかし審査委員長は銀賞だと言いました、という場合、後者のほうが優先されるというのがJWCのシステム。WSETの基準をもってすれば正しい評価が自動的に約束されるはずがない。WSETの教育担当として参加しているクリス・マーティンだってわかってるはず。WSETは教育プロセスであって、ワインの良しあしはその先にある。

 

宮地 そうすると根本が覆ってしまいますね。WSET的アプローチが金賞、銀賞に至らない、と。沼田さんも近いことをSNSで投稿していましたよね?

 

田中 覆りません。むしろ根本を誤解している。

 

沼田 田中さん的な評価は先に良いワインがある、答えが先にあり、その理屈を埋めていく、まぁぼくはそれを演繹法と書いたんですよ。

田中さんも昨年仰っていましたがMWと結果評価は同じになる、と。田中さんの言う「評価結果はWSETの先にある」という、その理屈のところを整理、表現するすべをWSETでは学んでいくわけですよ。順番が逆になっているわけですね。

 

田中 WSETの教育プログラムによって習得できるのはワインの評価基準ではなく、コミュニケーションのための言語的なプラットフォームだと思う。みんな、コメントがひどすぎる。ディスカッションが出来なすぎる。共通言語が出来ていない。たとえば、わたし、あなた、机、いす、という言葉なくしてどうやってこの場を表現できるのか。言葉なしに審査はできない。この目的のためにはWSETは役に立ちます。昨年JWCWSETと組んで教育プログラムを発表した時に、私は壇上で同じことを言いました。「日本には三人寄れば文殊の知恵ということわざがある。ワイン審査も同じことだ。だから三人以上でテーブルを作る。正しいワイン評価は正しい議論からできる。正しい議論の前提は言語である。その言語プラットフォームを与える世界的に認知されたひとつの基準はWSETである。ゆえにWSETと組むのだ」と。WSETのメソッドはワイン記述法であって、ワインコンテストの評価法ではない。

 

沼田 WSETでもクラスが幾つかあるわけだけれど、少なくともワインチャレンジというのはその国のエキスパートが集められているわけだから、最低限のところは抑えてないと出てくる資格はないんじゃないかということを言いたいわけでしょ?

 

田中 そうは言わない。その共通言語をね、皆わかってないなら、それを教えなきゃいけない。審査員として招集しておいて、まともに審査できないといって次回から排除していては無責任でしょう。以前はそういう傾向があったが、私は主催者側に「トレーニングの機会を設ける責任がある」と言ってきた。

 

沼田:教育的な意味も審査会にはあるわけでしょう。将来的にリーダーシップをとってもらうために門を開いている。

 

田中:いくら才能がある人に集まっていただいても、その固定された方々だけで閉ざされていては象牙の塔になってしまう。そもそも私はこんなことに特別な才能が必要なのかどうかも分からない。気付きが先にある人か、まだこれからなのか、という違いなだけでしょう。気付きのチャンスは誰にでも与えられるべきですよ。

 

沼田 そこでやはりWSETのディプロマホルダーであれば基本的なところは身についているでしょう、ということにはなる。ただ結論に的確に到達できるか否かは個人的な資質の方が大きい。基本的なところはわかっていても、経験であるとか、味覚的なこととか、審美眼ですよね。これは個人差がある。MW的な、まず評価する、という方法論は個人の資質によるのかと。

 

宮地 今回二年ぶりに参加したわけですけれど、昨年は仕事の都合でパスしたもので。やけに短いなと思ったんですけど、アイテム数ですか?

 

田中 二年前より審査員の人数を増やしていますね。

 

沼田 一年に一度でいきなり席に座るとね、流れの速さにまずついていくのに時間が必要です。ディスカッションの必要性を言うけれど、実際はそれほど議論せずに結果を出したりもするわけですよ。

 

田中 自明のものは自明でしょう。しかしその自明な事柄が何かというのも自動的には分からない。これまた経験が必要だろうし。しかしディスカッションは軽視してはいけない。流れ作業でボツにされたら、JWCにワインを提供したインポーターやプロデューサにはたまったもんじゃないですよね。自慢じゃないけど、審査会場をあとにするのは、僕が常に一番最後。あきらかにボツなものが10個並んでいたら10秒で答えは出るけれど、そうじゃない時の方が多い。それは責任を自覚しないと。

 

宮地 微妙なところの差はありますよね。

 

田中 そこはしっかり詰めなきゃだめですよ。

 

宮地 微妙なところという話でね、僕は昨年出なかったから今年はコンテストの前に開かれるセミナー出ましたけれど、アルゼンチンのマルベックだったかな、田中さんから、右側の席の人はこのワインの良いところ、左側の席の人は悪いところを言って行ってください、という指示がありましたね。ワインに対して意見を順に言っていくという、まぁ練習でした。

 

田中 面白かったろう?

 

宮地 僕は右側にいました。実際結構ネガティブなワインだったんですよね。まぁそれで、キメの細かいタンニンとストラクチャーが良いところだけど、高いアルコール度数と「ワイルドさ」が全体のバランスを壊していると答えました。

結局、全部流れて、アンドリュー・カイヤードMWはひと言「このワインはバッドワイン」と結論づけるわけですよ。

僕はそこで、自分の表現はアウトと断定していない事を反省しました。疑問に思ったのに、議論することなく答えは出てしまった。

 

沼田 あぁ、なるほどね。バッサリ終わっちゃうときもあるからね。

 

宮地 ええ、周りはね、皆いいこと言うんですよ。いいところ言ってくださいって言われてるから。

 

田中 オーストリアからの審査員だったかな、ひとりだけ「いいところなんてない」って言いきったよね。あれはダメなワインだからそういう答えを期待していたところもあるよ。ディスカッションを学ぶ上ではあれは面白い機会だったと思う。誰かが先に美味しいっていうとさ、引っ張られるでしょう?

 

宮地 そうですね、僕も結局引っ張られて中途半端な意見になってるわけですよ。

 

田中 何を言われようが、自分はこうだというね、芯の強さを持つことも大事だってよくわかります。ダメなものは駄目だと言わなければいけない。

 

宮地 あのくやしさはその日じゅう頭から離れませんでした。一応、「このワインはダメだ」という評価の方向は表現したつもりだけど、他人に引っ張られてしまったというのが悔しくて、悔しくて。

 

田中 いやいや、君の真意はあの場でもしっかりわかったよ。優しい表現だったけど、言ってることは「ダメなワイン」だった。多くの人は素っ頓狂なこと言ってたんだから。オーストリアの人は極端で、さすがよく言うなと思ったけれど、日本人のなかではあなたの意見が一番良かったんじゃないの、日本人的な表現として良かった。まぁ話がそれちゃったけれど、議論の話に戻るなら、議論するには議論のポイントが明確でなければならず、自分の意見に自信を持たねばならないということ。

 

沼田 宮地君が言うように、早くやり過ぎているテーブルもあると思うよ。

 

川口 早いことがよいこととおっしゃる方もなかにはいますよね?海外で活躍する日本人審査員の方に今回言われたのは、日本人は判断が遅すぎると。

 

田中 そういう天才的な人もいるのかもしれないけど、少なくとも僕にはそんな早くはできない。それに、天才ならば天才なりの責任がある。自分で判断して自分の意見を言うだけでいいなら瞬時にできるだろうが、人の意見を聞いて調整しなければいけないし、その場で解説もすれば、その場で動機付けも教育もしなければいけない。

 

沼田 天才かどうかも、その人がどこまですごい人なのかはわかりません。けれどね、日本人だからっていう言葉が出てくるのはね、ずれてると思うよ。そういう能力の話は人種的な話ではない。むしろ日本人の方が優れていると言われる部分はあるわけですよ、西洋人に比較して日本人、というより東洋人、特にアジア系の女性の方が味蕾の数が多いという論文もある、これは統計的な話です。その方が何をもって発言してるのかわからないけど、英語でコミュニケーションするのが遅いということなら分かります。当然母国語じゃないから、タイムラグがあるわけで、これは仕方ないですよ。

 

川口 おそらく判断力のことで仰っていたのだと思います。

 

田中 日本人が判断力がないのではなく、判断するために必要な演算の数が多いのだと思う。自分がよいと思うからよいと言うだけなら早い。しかし日本人は、こういう前提に立ったらどうか、こういう視点から見たらどうか、と、周囲のことや自分以外の人のことも考える。それは日本人の美徳であって、守るべきことです。

 

宮地 テーブルディスカッションという事で言えば、とても良いペースで決まっていくことがありますよね?それこそ気持ちいいくらいに。

 

沼田 それって相互理解だと思うんですよ。田中さんが言っていることの意味はこうだと、僕が何かひとこと補足して言えば理解されたりします。そういうテーブルは少ない言葉の議論で納得のいく結果が短時間で得られるように思います。過去、この人はこういう人だと分かったうえで審査をしていく中でスムーズだった経験は何度かありますね。意見が違っても、相手の視点も理解できるような。まぁそれはカリブレイトってね、ある程度揃えておかなきゃいけないところで、昔は結構そういうところに時間を使ったわけですよ。昔は1週間やっていたわけで。丁寧にやってた。

なんで自分にそんなに自信を持てるんだろっていうくらい自信がある人たちとも議論していかなくちゃいけない。教育が違うし、日本人よりも自信満々にものを言う。

 

宮地 まぁ僕から見たら田中さんも沼田さんも自信満々にしゃべってますけどね(笑)。

 

田中 そうだよ。自信があることをしゃべってるから。

 

沼田 外国人審査員だって随分素っ頓狂な事言っている。よくそんな的外れな事を自信満々に言えるなと。それは結局教育なわけ。まずは言う、という文化と、まずは聞いてから言う、という文化とは違うと思うし、気が短いのかなんなのか知らないけど。だから彼らの方がアタマの回転が速いとは全く思わないけど、ただ教育の違いで、まず言う。「言ったもの勝ち」文化なわけで、それを真似したってしょうがないし、真似するべきとも思わないし。あとそういった西洋人、外国人というのは、暮らしている環境によるよね。日本人とひとくくりにできないように西洋人だってひとくくりにはできない。

 

宮地 それでいくと、本来ワインコンクールってね、日本のマーケットってどうなっていってほしいみたいなビジョンについてもディスカッションしていけたらいいなぁとは思いますよ。参加している人の背景は違うにしろ。

 

田中 してるよ、僕はいつも。

 

沼田 まぁそうかもしれないけど、JWCのビジョンみたいなものがより共有されれば、色んな意見も活きてくると思うわけですよ。主催者のブラウンさんが自分に言ってたのは、来年から日本人テーブルをつくって、そういった日本的な意見の活きる場をつくっていきたいから協力してくれと。田中さんも言われてるんだろうし、川邉さんも言われてたのよ。

 

田中 そう、来年は日本人テーブルリーダーを何人か選ぶ。そこに副審査委員長はアドバイザーとして参加する。あくまで議論は日本人主導で行われるように。そういう仕組みづくりを私は裏であれこれやっているんですよ。日本人として、日本のために、です。別に誰かにそうしてくれと頼まれてやっているわけではなく。

 

沼田 田中さんはJWCのなかではどうなの?色々他の人に言われてるの?

 

田中 別になにも言われてないよ。仮に言われても聞かないし。JWCに来ている人たちと個人的なつきあいはまったくないし。

 

宮地 では、ひとまずそんなところで、対称的にキャラクターの違うシャルドネ二つで話をしてみましょうか。

その2シャルドネに続く

 

本日お集まりいただいた皆様のご紹介
numata

沼田実さん
ワイン輸入会社での勤務経験、醸造家としての海外実習およびソムリエ経験を活かした多彩な講義内容が特長。特にコンテストの審査員として培われた論理的テイスティングには定評がある。
テイストアンドファン株式会社代表取締役
WSET®認定Level4Diploma
公式プロフィールはこちら

田中克幸
田中克幸さん
某大手外食企業の取締役として渡米、帰国後数々のワイン雑誌の主筆を務め
独自のワイン観で、生産者にも舌鋒鋭く切り込む。ジャパン・ワイン・チャレンジ副審査委員長。

kawagutiazusa
川口梓さん
「もっと!ワイン」代表
WSET認定Level4 Diploma
ジャパンワインチャレンジ審査員
大学在学中に留学先のリヨンでワインに目覚める。
都内の大手酒販店、ワインのインポーターで約17年間勤務後、2017年に独立。ファインワインの消費者の裾野を広げるべく、個人販売「もっと!ワイン」の開業準備中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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