コラム 2016.09.30

ジャパン・ワイン・チャレンジを振り返って

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jwc

宮地(以下宮):今回の座談会は、8月に行われたジャパン・ワイン・チャレンジ(以下JWC)に審査員として参加された沼田さんと吉住さんをお招きし、JWCについて、またワインコンクールについて色々意見を交わしたいと思います。
2016年度の審査結果はコチラ

田中克幸さん(以下田):JWCは、僕は途中からの参加ですけれども、沼田さんは第3回が開催された2000年から参加しておられる。ですからこれまでの変遷を伺いたいとともに、将来に関していろいろ意見をお聞きしたい。またJWCの話だけでなく、世界じゅうで行われている様々なコンクールについても。特に沼田さんはオーストラリアのスペシャリストですし、オーストラリアといえばコンクール大国ですから。

ワインコンクールについて

沼田実さん(以下沼):コンクールというのは、ワイン・ショーなんです。オーストラリアでは州ごとに開催されていて、“ロイヤル・メルボルン・ワイン・ショー”なんかが一番権威がありますね。オーストラリアは農業国ですから、リンゴや肉牛の品評会も開催されていて、そのなかでワインも当然農産物ですから含まれるというわけです。初めから商業的な意味もあったけれども、大切だったのは業界全体のレベル向上だったんですね。

吉住久美さん(以下吉):審査員に醸造家の方が多かったと聞いています。

田:知識や技術の交流ですよね。産地のカタチを構成していくために、意見が交換できる集約的な場があることは効率がよいですよ。

沼:そうですね。オーストラリアの場合、ジェームス・ハリデイというリーダーがいるわけですけれども、わかりやすく言うとロバート・パーカーJrのやり方とは違う方法で採点していったわけです。ハリデイが審査員長を務めることの多いオーストラリアのコンクールでは(JWC同様)、テーブルごとに審査員の意見をまとめるんですね。パーカーは自分の好みで採点していくから、丸まらない。これは当時からどちらの採点方法が良いかはプロの間では議論になりました。

宮:そもそもJWCはアジア最大のコンクールとして始まったわけですが、これだけインターネットが普及しているのにも関わらず、意外に一般消費者まで伝わっていない。賞やトロフィーという結果が伝わってないじゃないかと思うわけです。

沼:ワイン専門誌やコンクールの結果を気にする人は所謂ワインギーク(ワインおたく)です。そういった愛好家にとっては、コンクールの結果というのは面白くないですよ。言ってみればバイヤーズ・ガイド。パーカーの評価はキャラクターが見えて、カドが立っていて面白いんですよ。

宮:なるほど。ガイドブックとエンターテイメントの違いですね。

田:まぁその前に全体論を僕から話すと、要するにワインには実用的なワインと趣味的なワインがあって、コンクールが対象としているのは実用的なワイン。コモディティ的なものです。そこにおいて忘れられがちな大事な意味とは、良いものを探すことではなくて、悪いものを落とすということです。市場に出てほしくないワインをはじく役割もあるわけです。

吉:確かに食品は健全であることが第一に大切ですよね。

田:そう。コンクールではゴールドやトロフィーが目立ちますし、皆の関心事になりますが、実は半分の落選ワイン、表に出てこないワインがあることに意味がある。市場前のフィルターです。審査員みな、欠点に関してきちんと議論するじゃないですか。

沼:そこはとても大切で、参加している審査員のレベルアップにもつながるわけですよ。

何が欠点だということが、議論され共有されるということ。JWCも醸造家がもちろん参加していますし、レベルアップにつながる。コンテストの結果については、確かに田中さんが言うように突出したワインを探していくというよりも、ブロンズはこのレベル、シルバーはこのレベルと、スタンダードを決めていくということに意味があると思います。

田:審査員のレベルアップというか、優秀なテイスターをどう育てていくかと同時に、もう少し審査結果やJWCそのもののイメージを消費者に届かせたいと頭を悩ませているのも本音です。

沼:98年当時は赤ワインブームでもありましたし、アジアのなかでの日本には海外から熱い視線があったわけですよね。ロバート・ジョセフやヒュー・ジョンソンも力を入れていましたが、現在では中国のマーケットのほうが注目されているところはあります。

宮:スティーブン・スパリエ(アカデミー・デュ・ヴァン創業者)もチェアマンでしたよね?

沼:デキャンターとの提携がありましたからね。以前に比べ海外の有名醸造家やハイ・ブランドの生産者は少なくなりましたね。審査員の交流でビュッフェ・ランチがあるでしょ。

当時はジム・クレネデンと議論ができたり、ル・パンのオーナーであるティエンポン氏の奥様がマスター・オブ・ワイン(以下MW)なのですが、ランチの席にル・パンのボトルが並んでいたりと、派手さはありました。

吉:一時期に比べて日本の市場への注目度が薄まっているんですね。

沼:けれど海外経験豊富な日本人醸造家のJWC審査員の方々とも話すのですが、海外の動向やトレンドを日本に落とし込む貴重な機会であることに間違いはないわけですよ。オーストラリアにおける知識や技術の交流という側面はまだまだ活きています。こういう機会を活かすことも日本のワイン業界に携わる人の使命ですよ。やはり日本に来ているMWやジャーナリストは世界中のコンクールに参加しているプロですから、彼らと正当な議論ができない人や、「ここは日本だから違うのだ」と意固地に閉鎖的な態度をとる日本人専門家を見ると悲しくなります。

田:継続していくことに大きな意味があると思いますよ。過去様々な日本人審査員が参加して、もう呼ばなくなった人もいるけれども、出来が悪いとされてしまった人たちの弁護をするならば、何をどう審査するのか、どのような基準をどうあてはめるのか、といった事前の意思と感覚のすり合わせをせずに、未経験者に対してさあやれ、と突然要求するのは主催者側の配慮が足りなかったと思う。未経験者が名のあるベテラン審査員と同席して同じ土俵で意見を交わせるわけがない。私が副審査委員長として指摘してきたのはこの点です。ダメな結果の人を単純にダメと切り捨てるのは簡単ですが、それはやるべきことをやってからの話。誰でも最初は初心者なのですから。

宮:そこで今年から審査員向けの採点のルール、共通認識を学ぶために一日使うようになったのですね。さて、そろそろワインを飲みながら話しましょうか。

受賞ワイン4アイテムを飲みながら

Elgin Pinot Noir 2014 / Boschendal

エルギン・ピノ・ノワール2014/ボッシェンダル

Gold Medal
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田:こういうワインがゴールドを取るのがJWCです。2004年や2008年のブルゴーニュに通じる涼し気な青さが、好きな人は好きだし、性格が神経質なところもピノ・ノワールらしい。しかし他のコンクールではなかなか選ばれないと思う。

吉:果実味や華やかさがわかりやすいワインに埋もれてしまうかもしれませんね。一度に10種類以上のピノ・ノワールを比べた時にこれをゴールドにするのは勇気がありますね。

田:このワインを覚えています。僕と審査委員長のリン・シェリフさん(南ア出身のMW)が推していたワインなはず。簡単にわかられてたまるか、というプライドを僕はピノ・ノワールには求めたい。リンさんはこの酸の素晴らしさを評価していたし、僕は緊張感のあるミネラリティがいいと思った。まあ僕はブラインドではこれが南アのワインとは思わず(註:各テーブルでの審査と異なり、審査委員長席でのリンさんと私によるゴールドワイン審査では一切のカテゴリーも分からない)、ビオビオかどこかのピノだと思っていたのだけれど。ともかく、フルーティ&ソフトな方向に行き過ぎない正しいピノ・ノワール観を消費者の人とのあいだで形成していくための、極端ではあるが重要な一本だと思う。

沼:本当は審査員の誰がどういう基準で評価しているかという、審査員のキャラクター含め、ブラインドでこれを選んでいるというストーリーまで伝わるともっと面白くなるんだけどなぁ。審査の意味合いも変わってくるけれど、この冷涼なエルギンのピノ・ノワールをリンさんが推したというのは意味があることだと思います。

宮:JWCのキャラクターというか、日本でこういったワインを飲んでほしいというイメージ含め、もっと伝えていきたいところですよね。

沼:ヨーロッパの地方ごとの、小さいコンクールは数多くあって、それぞれ成り立ちが違うけれど、日本のマーケットだと、どれも「金賞受賞」となるでしょう?コンクールにもヒエラルキーがあって、愛好家が知っているのはインターナショナル・ワイン・チャレンジ(以下IWC)くらいかもしれないけれど、JWCもそうなってほしいと思いますよ。そういう意味では価格別の審査が新たに始まったのはひとつ良い一歩だったね。まだまだこれからだと思うけれど。

20Barrels Limited Edition Cabernet Sauvignon 2013 / Cono Sur

20バレルズ・リミテッド・エディション・カベルネ・ソーヴィニヨン2013/コノ・スル

Gold Medal& Regional Trophy Award
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宮:それではIWCの話が出たところで、次のワインですがこれはイギリス等でも多くの賞を獲得しているコノ・スル。日本でもチリワインの消費量1位(2015年)の立役者のひとつとして愛好家のみならず広く認知されているブランドです。

吉:コノ・スルって、これだけブランドを築いているのに、コンテストにもしっかり出品していますよね。

沼:これはコノ・スルの上のほうのレンジですね。これ俗にいうグスト・チリアンと僕は呼んでいます。チリのワインって、上のクラスになってくると、インターナショナル・スタイルと逆の発想で、低い酸、少し酸化気味の、熟成期間を長くとったスペインのグラン・レゼルバのスタイルに近くなってきますよね。もう少し早くリリースして果実味があっても良かったような。どう思います?

田:そうですね、新樽を多く使いますからね。醸造家と会ったけれども古い樽の汚染を死ぬほど嫌っていました。マイナスもあるにせよ、汚染臭よりずっとましです。

宮:田中さんも以前に言っていたように、チリのワイナリーは幅広い産地からワインを造ることが一般的ですが、今後はより畑そのものに注目がいくような方向になっていくのでしょうか?先程の話の欠点ということでいえば、このワインからは見つけられないですよね。

沼:テクニカルなことでいえばね、完熟した、やや過熟気味のブドウを丁寧に醸して、タンニンも柔らかいし、ゆっくりとプレスしたことがうかがえて健全な状態、高級な樽で熟成させましたと。どう考えても安いワインじゃないよ、高級ワインの風合いがある。

田:欠点探しという視点から見たら文句のつけようのない素晴らしいワインです。地球の裏側から船で運んできてこのバランスのよさ。最初にどこか少しでも欠点があったら時間が経てばそれが目立つようになるでしょうから、そう思うとこの技術力は圧倒的です。沼田さんの言うグスト・チリアンというのはよい方向性だと思います。チリの人たちがチリとはなにかと考え、古典的なスペインの文化を継承しているという点を意識するなら、もちろんリオハ・グラン・レゼルバ的スタイルは再評価されるべきなのです。

沼:なるほどね。エラスリスのオーナーのチャドウィックなんかね、大統領を輩出するような名家ですよね。彼らが高級ワインをつくると、豪華でリッチなワインを造るわけだけれど、やはりグラン・レゼルバ的なものを志向しているように感じられます。チリのワイナリーはインターナショナル・マーケットで活躍しているけれど、やはりスペイン文化へのある種の郷愁のようなものがあるのかもしれませんね。 

宮:今日何故、数あるゴールドのなかで南アフリカとチリを選んだかというとですね。コンクール向けの実用的なワイン、一般消費者に伝えたいワインということでいえば、これから伸びる可能性を感じる産地だと思うんですよ。世界中のワインは美味しくなっているけれど、生産コストが安いというところで、アドバンテージのある二大産地かと考えています。沼田さんはご自身のワイン造りも視野に入れて、活動のなかで日本のワインも広めていらっしゃいますよね。ということで3本目です。

キャンベル・アーリー2015 都農ワイン

Gold Medal& Regional Trophy Award & Inter National Trophy Award
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宮:ラブルスカ種どうですか?

沼:個人的にラブルスカはそれほど好みでないけれど、日本のワインを考えたときに避けては通れないし、香りと味わいが一致しているところは伝わりやすいですよね。

自分としてはラブルスカ臭を、いかに抑えるかを考えます。ただラブルスカは泥臭いワインも多い中、これは泥臭さを感じないですよ。

吉:キャンディを舐めおわったときのような、アフターは短いけれど心地よさが残りますよね。

ラブルスカ種は頑張ってフランス的なワインにする必要はないのかもしれませんね。

田:僕はこれ好きですよ。大手のお菓子メーカー的完成度の高さを感じさせてくれる。円錐形のイチゴが上に乗っているような、懐かしいお菓子。ラブルスカのひとつの答えはロゼ。残糖オッケー。ラブルスカだろうがなんだろうが、商品としておいしければいいではないですか。

宮:それは評論家的意見ですよ。ラブルスカの問題は、日本ワインが今よりも美味しくない時代に飲んでいる人が、印象をそのままにしているところもありますし。ロゼワインは甘いという印象が強かった過去に戻ってしまう状況はイメージしたくないなぁ。

沼:田中さんが先程言っていた優秀なテイスターをどう育てていくかという問いに対する一つの答えでもあるんだけれど、JWCの日本人審査員だけのコンクールや勉強会とかは意義があると思う。

宮:日本に根ざして、日本のマーケットにどういったワインをおすすめしていきたいかというところでチームの価値基準が統一されているかどうかというところでしょうか。

沼:そう、それ。そういう機会があれば、ラブルスカの話も、もっと議論されますよ。

田:はたから点数を見ていると、海外の審査員がラブルスカに高い点数をつけます。

宮:なるほど。ローカリティを持ち上げるという意味でね。

田:そういった発想は海外のほうが強いのかな。逆に日本人のほうが低い点数をつけていて、どこか卑下しているように見えます。日本のワインのひとつであることは事実なのだし、あからさまな欠点がないのなら、開き直って高い点数つけたほうがまだポジティブだと思いますけどね。

沼:すごく難しい話だけれど、やはり日本贔屓の海外審査員はいて、地酒的で良いと彼らは言うけれど、本国に戻った時にどう評価するのかというと疑問です。いざこうしたワインが海外市場に登場してきたときは、手のひらを返すようにラブルスカ批判をするのではないかと思う。

田:沼田さんはいつも対等に海外の審査員と渡り合っていますよね。稀有な存在ですよ。

沼:僕と山形県にある某ワイナリーの醸造責任者は面倒くさいヤツと海外審査員からはっきり言われますからね(笑)。けれど、JWCのなかでそれで肩身が狭い思いするかというとそうでもなくて、毎年呼ばれて百戦錬磨の海外審査員の相手をすることになる(笑)。

吉:海外審査員もMWクラスになるとロジカルですけど、好き嫌いで評価をする人もいますからね。主観と客観で審査していくことを意識していますが、論理的に言語で伝えないとコミュニケーションが成立しないですよね。

田:もちろんですよ。審査員には言語能力、コミュニケーション能力が求められる。それが多くの人に欠落しているのが問題だと思います。

宮:おぉ、田中さんの口からコミュニケーション能力という言葉がでるとは(笑)。

田:ワインに関しては、ね。

マンゴーワイン うちなーふぁーむ

Platinum Gold & International Trophy Award
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田:沖縄マンゴーのピュレを発酵させたワイン。好き嫌いから見てもこれは議論を呼ぶだろうし、これはブドウではないから「ワイン」じゃないっていう人もいると思う。けれど与えられた審査カテゴリーにフルーツワインがあり、これが出品されている以上は、ブドウのワインとの比較をしてもしかたないのだし、そのものの質をフラットに評価しなければならない。僕はこれを高く評価しましたが、これに偏見なく最高賞を与えるのもJWCぐらいなものでしょう。

宮:誰がそのカテゴリーつくったのですか?そもそもこれ、リキュールじゃないですか?

吉:ブドウでなくても果実を発酵したものはワインだというのが日本の定義です。

田:このカテゴリーが何故出来たかは知らないし、カテゴリーの是非を我々がここで議論しても不毛です。重要なのは、このワインが商品として完成度が大変に高いという事実であり、こういうきっかけでフルーツワインというジャンルに光が当たるということ。日本は最高のフルーツ大国だと思っていますし、ブドウ以外からも日本全国でおいしいワインが出来るならどんなによいことか。

沼:審査の話からはそれるのですけれど、先日に開けた栃木県の足利ゆずわいん、酸味と甘みのバランスが良く高品質でしたね。甘味果実酒カテゴリーですけれども、アルコール度数8%くらいで新鮮な柚子の風味がイキイキと表現されていました。

宮:お酒全般、初心者の方っていろんなお酒を飲みますよね。カルーアミルクやフルーツのカクテルなど。そう思うと、スプリッツァーでとかロックだったりと、ワインと違った提供も必要なように思います。

沼:「ワインを頭で考えるな」とか、「ワインのうんちくなんていやだ」って言っている人ほど意外とうんちくが好きで、こういう“いわゆるワイン的な飲料”は飲まない。おいしいものを素直に飲む人向きかな。沖縄行ったとき、ワインクーラーで冷やしてとか、スプリッツァーにして彼女と海を見ながら飲むとかね。皆、こういったワインを初心者向けにしちゃうけど、実は上級者向けなんじゃないかな。ゴルゴ13はシャルツホフベルガーのアウスレーゼを飲むんですけどね、自分御褒美で(笑)。こういう“いわゆるワイン的な飲料”も映画や物語のなかに登場したら面白いと思うよね。

吉:ホーム・パーティーとかで自然に楽しめたら上級者かもしれませんね。あまり理屈っぽくなるとつまらなくなってしまうことってありますよね。

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よいワインとは?

田:4本のワインはどれも違う傾向のワインで面白かった。宮地さんも良いチョイスをしました。そしてJWCが多彩なワインを高く評価しているのは嬉しい。そこで、聞きたいのですが、皆さんが思うよいワインってどういうものですか?

沼:審査するときのWSET的な考え方っていうのは、酸味がどうか?熟度はどうか?とか加算してやっていくけれども、優秀な人はまず飲んでよいとわかるんですよ。田中さんが勉強していないとは思わないけれど、以前「勉強しているMWと勉強していない自分の結論が同じに至った」と書かれていましたね。飲んで、あとから理由を考える。よいワインは飲んで素直に伝わるものだと僕も思います。加算と逆算、主観と客観の双方は、ワインを評価する上で必要な方法だと思います。

田:同感ですね。よいワインは、飲んだ瞬間によいと分かるものです。分かるものは分かる、としか言えない。どうすれば分かるようになるか、と言われたら、分かる人は分かる。すべての理屈は実は後付けでしょう。しかし後付けの理屈は大事です。それがあって、はじめて他人に伝えることができるからです。

吉:コンクールにとってのよいワインというのは、厳しい言い方をすれば売ってよいかどうかとも言えるのでは?田中さんも言っていたように、半分の落選したワインというものがあって、“よいワイン”というものがあるように思います。

田:冷凍餃子に毒が入っていたらアウトです。ワインの場合は毒ではありませんが、コモディティとしての前提は、酸化臭等のあからさまな不快要素がないことです。そこはクリアしないと、「よいワイン」のまな板の上に乗らない。そしてこれはよい悪いの問題であって、好き嫌いの問題ではありません。

宮:これは話がそれちゃうのかな。プロも愛好家もワインのよいところをいうのが苦手。

何が好き?どういったところが好き?といった自分の好きなものを言えない、伝えられない。本来よいワインとは自分で決めるか、信頼のある関係性のなかで接する機会があるものだと思うんですよ。

田:日本人的なところかもしれない。悪口を言うのが好き、というと意地悪く聞こえるかもしれないけれど、批判はできても、自信をもってゴールドやプラチナがつけられないし、それを他人に主張できない。これはメンタリティの問題というよりコミュニケーションの問題が大きいと思いますけどね。人の意見を聞く訓練は学校でされているが、人に意見を言う訓練が出来ていない。しかし何も言わずに聞いてうなずいていては、同意されたとしか思われない。あとで悪口言っても遅い。これは国際的な場では特に重要です。

沼:田中さんのコミュニケーション方法だよね。何か自分の意見をドンと置く。波風が立ったりもするけれど、何かそこに反応が返ってくるというね。そのやりとりがある。何も言わなかったら、何も返ってこないですからね。すすめたい人の顔が思い浮かぶようなワインはよいワインです。万人にとってよいワインというのはないわけで、飲み手がいて初めてワインは輝くことができる。ワインというのはメッセージです。市場を見て、消費者を想像して、そこに当てはまるワインが、よいワインの定義ではないかと。

日本のワイン市場のなかでのJWC

宮:日本のワイン市場でJWCはどうなっていくのでしょうか?

田:我々自身が、ワインを通して、どうやったら日本ならではのメッセージ性や日本ならではの美意識をカタチにしていけるかという問題意識があります。それはいったい何かと議論し、そういったものをカタチづくる機会にJWCはなってほしいと思っています。

誰もが「これは日本的だ」とか「日本的でない」と判断できる感覚は持っているけれども、その感覚の言語化を考えていきたいんですよ。初心者の人にも、海外の人にも、(日本における)ワインってこうなんだと、JWCを通して伝えられたらいい。

沼:社会ワイン学者だね。

田:ええ、そのつもりでやっていますよ。こういっちゃなんだけど、ワインコンテストだって世界平和の手段です。だからコミュニケーション能力が審査員に求められるのです。

沼:そうだね。僕もね、ワインというのはワインだけで完結するものじゃないと思っていまして、文化交流もそうですし、ツーリズムもそうで、一番わかりやすいのはツーリズムかな。そのワインに興味を持ったら、どんなところで造られているんだろう、どんな人が造っているのだろうと、掘り下げてほしいとも思うんですよ。そうやって他の産業と結びついて、波及していってほしいと常に考えていますよ。

田:日本におけるワインというテーマをもっと真剣に考えて欲しい。たとえばありがちなのは、日本の料理は繊細だから、繊細なリースリングが合う、と。そう簡単には合わないですよ。皆、思い込みで言ってしまう。考えていないから、そうなる。

宮:海外のすべての生産者は自分のワインは日本の料理に合うって言いますよ(笑)。

沼:マリアージュの事もあるかもしれないけれど、僕はもっとワインのある生活を考えていきたいですね。

吉:ヨーロッパのワインの広め方をそのまま持ってきてしまっていることが問題なのでしょうか。彼らは生活のなかにワインがあるけれど、日本にはビールも、日本酒も、焼酎もある。

沼:それでいいのですよ。サントリーさんの「金曜日はワインを買う日」という広告が70年代にありましたけれど、これが僕は好きでね。ラグジュアリー・ブランドの代表でもあるメルセデス・ベンツの代理店、ヤナセの市場アプローチはそういった“夢のある人生”を提案することでした。ステーション・ワゴンを人気にしましたが、それは単に荷物が沢山積めるからではなく、週末に高価なキャンプ用品を積んで家族で遠出するようなリッチな生活イメージを売っていたわけです。

宮:まずワインを行き渡らせてから、vs日本酒、vs焼酎ではなく、色んな人に合わせて適切なワインを届けていきたいということですね。

沼:ワインっていうと、どうしても難しくなってしまい、拒否反応を出してしまう人もいるわけじゃないですか。まず拒否反応を出させないことを考えたい。

田:そういう意味ではJWCの賞は、今のところスーパー・マーケットのような売り場でより意味を持つと思います。難しいことはともかく、ひとまずこれを買っておけば失敗はないと理解されればいい。

沼:審査中だって、皆しかめっ面しているわけじゃなくて、よいワイン飲んだ時はよい表情しているわけですよ。人間が喜ぶワインを選ぶ、これは機械にはできないところで、それこそがワイン審査会の役目なのではないでしょうか。

本日お集まりいただいた皆様のご紹介
numata

沼田実さん
ワイン輸入会社での勤務経験、醸造家としての海外実習およびソムリエ経験を活かした多彩な講義内容が特長。特にコンテストの審査員として培われた論理的テイスティングには定評がある。
テイストアンドファン株式会社代表取締役
WSET®認定Level4Diploma
公式プロフィールはこちら

田中克幸
田中克幸さん
某大手外食企業の取締役として渡米、帰国後数々のワイン雑誌の主筆を務め
独自のワイン観で、生産者にも舌鋒鋭く切り込む。ジャパン・ワイン・チャレンジ副審査委員長。

jwczadan
吉住久美さん
ドイツワイン親善大使。レコール・デュ・ヴァン講師として数多くの愛好家にワインの魅力を伝えている。ジャパン・ワイン・チャレンジ審査員
公式プロフィールはこちら

 

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